「源氏物語」が千年も読み継がれる人気作品となった作家・紫式部ですが、
ほかに、彼女が残した作品はなかったのでしょうか?
『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』
(集英社刊)の著者であり、平安文学研究者出身の作家・奥山景布子さんが解説します。
第35回
紫式部のほかの作品は?
更新日:2024/09/11
- Q35 紫式部の作品は「源氏物語」だけ?
- A35 物語に限定すればそうなります。
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本連載の第6回で、「源氏物語」はすべて紫式部が書いたのかどうかについて取り上げました。
今回は、紫式部が書いたのは「源氏物語」だけなのか? という疑問について回答してみます。
第6回の時にもお話ししたとおり、「源氏物語」に限らず、平安時代文芸作品のほとんどは、作者の自筆原稿は残っていません。すべて、誰かが書き写すことで伝わってきたものです。
こうしたことから、物語研究においては、「散佚(さんいつ)物語」という言葉が用いられます。これは、物語の一部分、あるいは題名だけは知られるけれど、現在ではその全体像を知ることができないものを指します。
例を挙げると、「源氏物語」蓬生(よもぎう)巻で末摘花が読んでいる作品として名前がある「唐守(からもり)」「藐姑射(はこや)の刀自(とじ)」、絵合巻で絵巻物にされたという「正三位(じょうさんみ)」などは、現在本文が伝わっておらず、ストーリーを知ることができない「散佚物語」です。
鎌倉時代に成立した、物語中の和歌を集めて歌集としてまとめた「風葉(ふうよう)和歌集」という書物からは、こうした「散佚物語」の題を数多く知ることができます。
ひょっとすると、こうした中に、紫式部が書いたけれど「源氏物語」ほどの人気にはならなかった作品の題などが交じっている可能性はゼロではないかもしれません。しかし、残念ながらそれを明らかにする手がかりは、現時点では得られていません。
また、「源氏物語」そのものにも、実は現在では伝わっていない、他の巻があったのでは? という説があり、巻名として「輝く日の宮」「巣守(すもり)」「桜人(さくらひと)」などが挙げられています。
私としては、「源氏物語」の作者が書いた「物語」が他にもあるなら、きっと誰かが写して残しているはずだと思うので、伝わっていないということは、他にはないということだと考えていますが、これは証明のしようがないので、あくまで私見に過ぎません。
物語以外で紫式部が書いたとされるのが「紫式部日記」。その他に、紫式部の歌を集めた「紫式部集」もあります。
個人の歌を集めた歌集を「家集」(かしゅう/いえのしゅう)と呼び、これには作者本人が編纂したもの(自撰)のものと、本人でない誰かが編纂したもの(他撰)のものがあります。
現在伝わっている「紫式部集」は自撰とされており、一二〇首前後(写本によって違いがある)の歌で構成されています。ただ、この「家集」はかなり意図的に歌を取捨選択した上で並べたものである可能性が高く、紫式部が詠んだ歌は他にもあると考えられます。実際、他の人の家集に入っているけれど、「紫式部集」には入っていない紫式部の歌などもあります。
「源氏物語」を書き上げたのちの紫式部は、女房としての本来の仕事――彰子の相談相手になったり、訪れてきた公卿たちとの仲介役を果たしたり、といったことで忙しく、なかなか新たな物語を書く時間は作れなかったのかもしれません。 -
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「源氏物語」のイメージが変わります!『「フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』
(奥山景布子著、集英社刊)
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- 著者プロフィール
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奥山景布子(おくやま きょうこ)
1966年生まれ。小説家(主なジャンルは歴史・時代小説)。名古屋大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。主な研究対象は平安文学。高校講師、大学教員などを経て、2007年「平家蟹異聞」で第87回オール讀物新人賞を受賞し作家デビュー。受賞作を含む『源平六花撰』(文藝春秋)を2009年に刊行。2018年、『葵の残葉』(文藝春秋)で第37回新田次郎文学賞、第8回本屋が選ぶ時代小説大賞をW受賞。近刊は『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』(集英社)『ワケあり式部とおつかれ道長』(中央公論新社)など。文庫オリジナルの『寄席品川清州亭』シリーズ(集英社文庫)や、児童向けの古典案内・人物伝記も精力的に執筆。古典芸能にも詳しく、落語や能楽をテーマにした小説のほか、朗読劇や歴史ミュージカルの台本なども手掛ける。「紫式部」を素材にした書籍としては、ほかに紫式部と清少納言が現代の子どもに向かって話しかけるスタイルの児童向け伝記『千年前から人気作家!清少納言と紫式部<伝記シリーズ>』(集英社みらい文庫)がある。
公式ブログ http://okehuko.blog.fc2.com/.
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RICCA(リッカ)
漫画家、イラストレーター。群馬県出身。児童向け作品を多く手掛け、漫画作品に、『<集英社版・学習まんが世界の伝記NEXT>津田梅子』(監修/津田塾大学津田梅子資料室、シナリオ/蛭海隆志)、『<集英社学習まんが日本の伝記SENGOKU>武田信玄と上杉謙信』(監修/河合敦、シナリオ/三上修平)、『胸キュン?!日本史』(4コマ漫画担当、著/堀口茉純、イラスト/瀧波ユカリ、集英社刊)。イラスト担当作品に集英社みらい文庫の『真田幸村と十勇士』シリーズ、『三国志ヒーローズ!!』(いずれも著/奥山景布子)ほか多数。歴史好き。推し武将、推し文豪の聖地巡礼にも赴く。ソロキャンプも趣味。X https://twitter.com/ricca_comic
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