「源氏物語」の主人公・光源氏は恋多き男、と言われます。
のちに、複数の妻たちをひとつの屋敷に集めて住まわせたりもします。
こういうイメージから平安時代の結婚は「一夫多妻」と
思う方も多いですが、実は違う、という説もあるのです。
『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』(集英社刊)
の著者であり、平安文学研究者出身の作家・奥山景布子さんが解説します。
第12回
平安時代の結婚
更新日:2024/03/27
- Q12 平安時代の貴族は「一夫多妻」だった?
- A12 「本当は」違うのですが……。
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「光る君へ」では道長が左大臣家への婿入りを決めたようです。すれ違うまひろ(紫式部)と道長の心が切ないですね。二人の会話に「北の方」「妾(しょう)」と出ていたのが気になった人も多いのではないでしょうか。「北の方」は「正妻」を意味する言葉です。
「源氏物語」の時代は一夫多妻――こう思っている人は多いかもしれません。また、「そう教わった」という人もいるでしょう。
しかし、現在の研究においては、「それは違う」と考える意見が多くなってきていますし、私もそう思います。ここでは「実は一夫一妻が原則だった」という考えに従って、いくつかの事例をご紹介しましょう。
現代では、結婚に関することは民法で規定されていますが、平安時代にもちゃんと法律はありました。757年に施行された養老律令です。
この法律によれば、男性が一度に結婚できるのは一人の女性とだけで、重婚は罰せられることになっていました。
ただ、現代でも婚外恋愛をしてしまう人がいるように、実際の社会では男性が正式な妻以外の女性と関係を持つことは多々ありました。また、現代に比べると、圧倒的にそれを容認する文化的背景もあったようです。
そのため、正妻がいても、他の女性と恋をするだけでなく、その女性と結婚の儀式まで行って、まわりに関係をオープンにすることが珍しくありませんでした。現代で、配偶者のいる男性が他の女性と結婚式や披露宴を行ったら、とんでもなく非常識だと批判されるでしょうが、平安時代にはそれはよくあることだったのです。
こうした現象は、現代の私たちの目にはなかなか理解しがたいので、「一夫多妻」と誤解して、他に正妻がいるのに、そうした扱いをされている人を「次妻」と呼んでいることがあります。有名な例としては、藤原兼家(かねいえ)との間に道綱(みちつな)をもうけた道綱母(みちつなのはは、藤原倫寧女=ふじわらのともやすのむすめ)や、道長との間に何人もの子をもうけた源明子(みなもとのめいし/あきらけいこ/あきこ)などが挙げられます。
彼女たちは「妾」になるわけですが、周りの人から見れば(法的な裏付けのある正妻は他にいるけれど)、あの人もこの人も「奥さま」=妻よね? というわけです。
「源氏物語」では、紫の上もこの立場。女三宮(おんなさんのみや)が六条院へ来るのは、どれほど愛されていても、紫の上は正妻ではないからなのです。
また、身分ある男性には「正妻」、「それ以外の妻」(妾)に加えて、「召人(めしゅうど)」という関係の女性がいる場合も多かったようです。
召人とは、女房として仕えている立場で、その主人筋の男性と男女の仲になっている人を言う言葉です。主人と使用人という立場のため、召人は男性や世間からの扱いが軽く、関係はとても不安定でした。
「源氏物語」の最後、宇治十帖に登場するヒロイン浮舟(うきふね)の母親は、この召人です。八宮(はちのみや、光源氏の異母弟)に仕えていて召人になったのですが、身ごもったら疎まれてしまい、八宮邸から去ることになったため、浮舟は実の父に会うことなく育ちます(詳しくは『フェミニスト紫式部の生活と意見』第九講をご参照ください)。
「源氏物語」は女性たちの結婚における立場の違いを、ストーリーや人物造型にきちんと反映させていますので、そうした視点から読み解くのも面白いと思います。
参考文献:工藤重矩『源氏物語の結婚』中公新書、『平安朝の結婚制度と文学』風間書房 -
タイトルデザイン/小松昇(ライズ・デザインルーム)
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「源氏物語」のイメージが変わります!『「フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』
(奥山景布子著、集英社刊)
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- 著者プロフィール
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奥山景布子(おくやま きょうこ)
1966年生まれ。小説家(主なジャンルは歴史・時代小説)。名古屋大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。主な研究対象は平安文学。高校講師、大学教員などを経て、2007年「平家蟹異聞」で第87回オール讀物新人賞を受賞し作家デビュー。受賞作を含む『源平六花撰』(文藝春秋)を2009年に刊行。2018年、『葵の残葉』(文藝春秋)で第37回新田次郎文学賞、第8回本屋が選ぶ時代小説大賞をW受賞。近刊は『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』(集英社)『ワケあり式部とおつかれ道長』(中央公論新社)など。文庫オリジナルの『寄席品川清州亭』シリーズ(集英社文庫)や、児童向けの古典案内・人物伝記も精力的に執筆。古典芸能にも詳しく、落語や能楽をテーマにした小説のほか、朗読劇や歴史ミュージカルの台本なども手掛ける。「紫式部」を素材にした書籍としては、ほかに紫式部と清少納言が現代の子どもに向かって話しかけるスタイルの児童向け伝記『千年前から人気作家!清少納言と紫式部<伝記シリーズ>』(集英社みらい文庫)がある。
公式ブログ http://okehuko.blog.fc2.com/.
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RICCA(リッカ)
漫画家、イラストレーター。群馬県出身。児童向け作品を多く手掛け、漫画作品に、『<集英社版・学習まんが世界の伝記NEXT>津田梅子』(監修/津田塾大学津田梅子資料室、シナリオ/蛭海隆志)、『<集英社学習まんが日本の伝記SENGOKU>武田信玄と上杉謙信』(監修/河合敦、シナリオ/三上修平)、『胸キュン?!日本史』(4コマ漫画担当、著/堀口茉純、イラスト/瀧波ユカリ、集英社刊)。イラスト担当作品に集英社みらい文庫の『真田幸村と十勇士』シリーズ、『三国志ヒーローズ!!』(いずれも著/奥山景布子)ほか多数。歴史好き。推し武将、推し文豪の聖地巡礼にも赴く。ソロキャンプも趣味。X https://twitter.com/ricca_comic
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