平安時代の「結婚」は、現代と違うところが多くありますが、
婚礼の儀式や行事などはどのようなものだったのでしょうか。
『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』
(集英社刊)の著者であり、平安文学研究者出身の作家・奥山景布子さんが解説します。
第34回
結婚にまつわる儀式や行事
更新日:2024/09/04
- Q34 当時の結婚式や披露宴とは?
- A34 決まり事がいくつもありました。
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本連載の第12回では、結婚の制度について、一夫多妻ではないことなどに言及しましたが、今回は結婚にともなう儀礼についてご紹介します。
まず求婚にあたっては、誰か紹介者を頼んで相手の女の家に申し入れをするのがより礼儀に適った方法でした。
「蜻蛉日記」の作者である藤原道綱母(みちつなのはは)は、兼家(かねいえ)の求婚を「普通の人は、紹介者を立てて申し入れてくるものなのに、兼家は父に直接申し入れてきた」とちょっと不満げに書いています。
女の家の方で申し入れが認められると文(歌)のやりとりが始まりますが、女の方はまずは誰かの代筆で返事をし、ある程度やりとりをしたのちに、ようやく直筆を返すといった段階が踏まれました。
いよいよ結婚となると、吉日が慎重に選ばれました。五月と九月は結婚には「忌月(いみづき)」とされ、避けられたようです。
結婚初日には、夕刻、男が女の家に通されます。この時、男は火を携えてきて、女の家の火と合わせて部屋の灯りを点し、三日間消さないようにします。また男が脱いだ沓(くつ)を、女の両親が抱いて寝る習慣もありました。
男女が帳(とばり、外部との境に垂らすもの)に入ると、「衾覆(ふすまおおい)」といって、女の母親が二人に衾(ふすま、寝具の一種で掛布団のように使う)をかけ、第一夜を過ごしますが、男は夜が明ける前に自宅に戻り、そこから文を送ります。これを「後朝(きぬぎぬ)の文」と呼び、できる限り早く届けることが求められました。
第二夜は第一夜とほぼ同様に繰り返されますが、第三夜になると、「三日夜餅(みかよのもち)」が出され、二人で食べます。
その後、婿は女の家が用意した烏帽子(えぼし)と狩衣(かりぎぬ)を身につけ、女の親族たちと膳を共にします。これが「露顕(ところあらわし)」で、現代で言う披露宴に相当します。
第12回でも触れたように、男性は正妻でない女性とも、こうした儀式をすることがありますが、その場合は、儀式の一部が省略されたり、女の親兄弟の同席がなかったりします。物語や日記ではこういった点に言及されることがしばしばあります。というのは、儀式は、結婚後の女性の社会的地位を示すものだからです。
女性の側からすれば、正妻になれないとしても、せめて三夜続けて通うことだけはしてほしいというのが、切実な願いでした。「平中物語」三八には、男が後朝の文も寄越さず、次の夜に来なかったために、悲観して尼になってしまった女の話などが記されていますし、「源氏物語」夕霧巻にも、この習慣を前提にした悲劇が描かれています。
儀式の省かれた結婚の経緯が、後年になって女性の無念につながる例もあります。代表的なのは「源氏物語」の葵巻で描かれる光源氏と紫の上の例です。光源氏は紫の上の父の許しを得ないまま彼女と男女の仲になるので、「露顕」はありません。またもともと同じ邸にいるので三夜続けて通うという形も取られません。それでも「三日夜餅」だけはいっしょに食べようと用意します。
光源氏としてはせめてもの誠意であり愛情のしるしだったのでしょう。ただ、紫の上は後年、女三宮が光源氏と結婚することになった折、過去の結婚に至る経緯が、今の自分の不幸につながったのだと、無念に思い返しています(若菜上巻)。このあたりについては『フェミニスト紫式部の生活と意見』第三講、第七講もご参照ください。
参考文献:山中裕・鈴木一雄編『平安時代の儀礼と歳事』至文堂
川村裕子『はじめての王朝文化辞典』角川ソフィア文庫 -
タイトルデザイン/小松昇(ライズ・デザインルーム)
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「源氏物語」のイメージが変わります!『「フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』
(奥山景布子著、集英社刊)
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- 著者プロフィール
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奥山景布子(おくやま きょうこ)
1966年生まれ。小説家(主なジャンルは歴史・時代小説)。名古屋大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。主な研究対象は平安文学。高校講師、大学教員などを経て、2007年「平家蟹異聞」で第87回オール讀物新人賞を受賞し作家デビュー。受賞作を含む『源平六花撰』(文藝春秋)を2009年に刊行。2018年、『葵の残葉』(文藝春秋)で第37回新田次郎文学賞、第8回本屋が選ぶ時代小説大賞をW受賞。近刊は『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』(集英社)『ワケあり式部とおつかれ道長』(中央公論新社)など。文庫オリジナルの『寄席品川清州亭』シリーズ(集英社文庫)や、児童向けの古典案内・人物伝記も精力的に執筆。古典芸能にも詳しく、落語や能楽をテーマにした小説のほか、朗読劇や歴史ミュージカルの台本なども手掛ける。「紫式部」を素材にした書籍としては、ほかに紫式部と清少納言が現代の子どもに向かって話しかけるスタイルの児童向け伝記『千年前から人気作家!清少納言と紫式部<伝記シリーズ>』(集英社みらい文庫)がある。
公式ブログ http://okehuko.blog.fc2.com/.
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RICCA(リッカ)
漫画家、イラストレーター。群馬県出身。児童向け作品を多く手掛け、漫画作品に、『<集英社版・学習まんが世界の伝記NEXT>津田梅子』(監修/津田塾大学津田梅子資料室、シナリオ/蛭海隆志)、『<集英社学習まんが日本の伝記SENGOKU>武田信玄と上杉謙信』(監修/河合敦、シナリオ/三上修平)、『胸キュン?!日本史』(4コマ漫画担当、著/堀口茉純、イラスト/瀧波ユカリ、集英社刊)。イラスト担当作品に集英社みらい文庫の『真田幸村と十勇士』シリーズ、『三国志ヒーローズ!!』(いずれも著/奥山景布子)ほか多数。歴史好き。推し武将、推し文豪の聖地巡礼にも赴く。ソロキャンプも趣味。X https://twitter.com/ricca_comic
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