あなをかし、3分でわかる!「源氏物語」と紫式部 奥山景布子

第14回

平安の男性装束

更新日:2024/04/10

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平安の女性の衣装「十二単(女房装束)」は多くの衣を重ねているのが特徴的。
それでは、当時の男性の装束はどのようなものだったのでしょうか。
『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』
(集英社刊)の著者であり、平安文学研究者出身の作家・奥山景布子さんが解説します。

Q14 平安の男性貴族の衣装は?
A14 男性もたくさん衣を重ねていました。
 連載第2回では、女性の装束についてとりあげました。やはり女房装束(いわゆる十二単)の華やかさにまずは目を奪われるのですが、実は男性の装束の方がTPOや身分階級による違いが多く、バリエーションが豊富で、束帯(そくたい)、直衣(のうし)、狩衣(かりぎぬ)などがあります。ここでは束帯と直衣をご紹介しましょう。

 まずは、フォーマルから。朝廷へ出仕する時の服装で、束帯姿と呼ばれる正装です。

 下着のトップスは単(ひとえ)、ボトムスは大口袴(おおくちばかま)。現代の下着と比べるといずれも布地の面積が大きいのが特徴です。足には襪(しとうず)という靴下(指の股のないもの)を履きます。

 次に重ねるトップスは袙(あこめ)。腰下ほどの着丈の衣です。ボトムスには表袴(うえのはかま)を穿き、さらに下襲(したがさね)を付けます。これは、後ろ身頃だけ着丈が長く、裾を引いて歩く形になります。

 この上に、半臂(はんぴ)を着ます。これは袖のないベストのようなもの。そして一番上に着るのが、袍(ほう/うえのきぬ)で、こちらはだいたい足首くらいまでの長さです。この袍は、位によって色が定められていました。

 最後に腰に石帯(せきたい、飾り石をつけたベルトのようなもの)という帯を締めて、装束は完成です(儀式によっては魚袋〈ぎょたい、右腰に吊るす装飾品〉や飾剣〈かざりたち〉、平緒〈ひらお、剣を帯びるための紐〉を帯びることも)が、絶対に忘れてはいけないのが冠。当時の男性にとって、被り物をしていない頭を人前で見せることは、もっとも恥ずべきこととされていました。

 冠を付けたら、笏(しゃく)と呼ばれる細長い板と沓(くつ)も忘れずに持って(牛車には屋内から沓を履かずにそのまま乗るので)、ようやく出勤できます。笏は時としてカンニングペーパーの役割を果たすこともありました。

 次に、カジュアルとして直衣姿をご紹介しましょう。と言っても、人の家を訪問できるくらいのスタイルなので、現代で言うならスマートカジュアルといったところでしょうか。

 下着は単、下袴(したばかま)。その上に袿(うちぎ)を着ます。

 ボトムスとしては指貫(さしぬき)。表袴と大きく異なるのは、裾が絞れること。いくらか動きやすいわけです。

 トップスに直衣を着ます。フォーマルの袍との違いは、位による色の定めがないことです。

 直衣でももちろん被り物は必須。烏帽子(えぼし)を被ることが多いですが、少しフォーマルに寄せたい場合は冠にします。手には檜扇(ひおうぎ)も忘れずに(夏は蝙蝠扇〈かわはりおうぎ〉)。

 こうした男性の装束を調えるのは、妻(正妻とは限らない)の役割でした。『蜻蛉日記』に装束の描写が多いのは、作者である道綱母(みちつなのはは、夫は兼家〈かねいえ〉)が、自分の家で調整する装束に自信があったからと考えられるでしょう。

「源氏物語」では、紫上と花散里が、この技術に秀でていたとされます。決して出番の多くない花散里と、当時の「女子力」とも言うべきこの能力との関係については、ぜひ拙著『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語から読み解く「源氏物語」~』第8講をご参照ください。

 参考文献:承香院『あたらしい平安文化の教科書』翔泳社

タイトルデザイン/小松昇(ライズ・デザインルーム)

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『「フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』
(奥山景布子著、集英社刊)

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著者プロフィール

奥山景布子(おくやま きょうこ)

1966年生まれ。小説家(主なジャンルは歴史・時代小説)。名古屋大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。主な研究対象は平安文学。高校講師、大学教員などを経て、2007年「平家蟹異聞」で第87回オール讀物新人賞を受賞し作家デビュー。受賞作を含む『源平六花撰』(文藝春秋)を2009年に刊行。2018年、『葵の残葉』(文藝春秋)で第37回新田次郎文学賞、第8回本屋が選ぶ時代小説大賞をW受賞。近刊は『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』(集英社)『ワケあり式部とおつかれ道長』(中央公論新社)など。文庫オリジナルの『寄席品川清州亭』シリーズ(集英社文庫)や、児童向けの古典案内・人物伝記も精力的に執筆。古典芸能にも詳しく、落語や能楽をテーマにした小説のほか、朗読劇や歴史ミュージカルの台本なども手掛ける。「紫式部」を素材にした書籍としては、ほかに紫式部と清少納言が現代の子どもに向かって話しかけるスタイルの児童向け伝記『千年前から人気作家!清少納言と紫式部<伝記シリーズ>』(集英社みらい文庫)がある。
公式ブログ http://okehuko.blog.fc2.com/.

RICCA(リッカ)

漫画家、イラストレーター。群馬県出身。児童向け作品を多く手掛け、漫画作品に、『<集英社版・学習まんが世界の伝記NEXT>津田梅子』(監修/津田塾大学津田梅子資料室、シナリオ/蛭海隆志)、『<集英社学習まんが日本の伝記SENGOKU>武田信玄と上杉謙信』(監修/河合敦、シナリオ/三上修平)、『胸キュン?!日本史』(4コマ漫画担当、著/堀口茉純、イラスト/瀧波ユカリ、集英社刊)。イラスト担当作品に集英社みらい文庫の『真田幸村と十勇士』シリーズ、『三国志ヒーローズ!!』(いずれも著/奥山景布子)ほか多数。歴史好き。推し武将、推し文豪の聖地巡礼にも赴く。ソロキャンプも趣味。X https://twitter.com/ricca_comic

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