あなをかし、3分でわかる!「源氏物語」と紫式部 奥山景布子

第27回

寝殿造の内部はどうなっている?

更新日:2024/07/10

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寝殿造は「何だかものすごく広そう」というのは想像できますが、
内部はどのような構造になっていたのでしょうか。
現代の住まいとは大分違いそうです……。
『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』
(集英社刊)の著者であり、平安文学研究者出身の作家・奥山景布子さんが解説します。

Q27 寝殿造は何LDK?
A27 広い空間を、さまざまな道具で仕切って使います。
 大河ドラマ「光る君へ」が始まって、「平安貴族のお屋敷って、壁がないの?」とのご質問をいただく機会が増えました。

 確かに、戦国時代を舞台にした映像作品などと比べると、壁らしきものがあまり見当たりません。

 前回、寝殿造の基本構造として、メインとなる寝殿と対屋(たいのや)をご紹介しましたが、このいずれも、内部にはいわゆる現代の壁に相当するものがなく、体育館のような広い空間になっています。

 建物の一番外側を囲む板敷の場所を簀子(すのこ)と呼びます(外気にさらされている、テラスのようなところ)。ここは建物の柱の外側になり、訪問者の身分がさほど高くなく、また住人と親しくない人の場合、ここに通されることになります。現代の和風建築なら、縁側に近い感じです。

 簀子の内側が廂(ひさし)。簀子より一段床が高くなり、訪問者が住人の親しい人か、身分のある人であれば、ここまで入れる場合が増えます。廂と簀子を隔てているのが格子(こうし)と妻戸(つまど)。現代で言えばドアにあたるのが妻戸、窓にあたるのが格子です。

 廂の内側が母屋(もや)。床がさらに一段高くなり、建物の一番奥のエリアになります。廂と母屋とを隔てるのは、簾(すだれ)と壁代(かべしろ)です。簾は細く削った竹や葦などを糸で編んだもの、壁代は絹製で、いずれも開ける時は上に巻き上げます。素材の異なるブラインドが二重に設置されているような形でしょうか。なお、簾は、格子の内側(簀子と廂の間)にもかけられます。

「源氏物語」若菜(わかな)上巻で、猫が逃げようとしたために、その首につながれていた紐で引き上げてしまったのは簾です。また「枕草子」で中宮定子に「香炉峰(こうろほう)の雪いかならん」と問われた清少納言は、格子を上げさせ、さらに簾を上げたとあります(「雪のいと高うふりたるを」)。

 母屋の内部には帳台(ちょうだい)という主人の居間兼寝所が設置されますが、その周囲は、その場にいる人々の暮らしぶりに合わせて、さまざまな道具で間仕切りがされます。使われるのは、簾、壁代の他に、襖障子(ふすましょうじ)、屏風(びょうぶ)、几帳(きちょう)などです。

 間仕切りのうちで文学作品によく登場するのが几帳です。高さが四尺(約120㎝)のものと三尺(約90㎝)のものとがあり、T字形の木製の台に、季節に合わせた絹製の帷子(かたびら)を複数枚縫い合わせたものを垂らして使います。移動が簡単にできるので、間仕切りというだけでなく、女性が人に自分の姿を見られたくない時などに、さっと引き寄せて使ったりもしていたようです。

「源氏物語」では、容姿が他の女君たちに比して劣るとされる花散里(はなちるさと)が、光源氏が自分のもとを訪れた折に、几帳で姿を隠しています。場所は六条院の夏の御殿で、二人はすでに十年以上付き合ってきた、いわば熟年夫婦。それなのに、あえて自分の姿を隠そうとした花散里はいったい何を思っていたのか――ご興味のある方は拙著『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』第八講をご参照ください。

タイトルデザイン/小松昇(ライズ・デザインルーム)

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『「フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』
(奥山景布子著、集英社刊)

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著者プロフィール

奥山景布子(おくやま きょうこ)

1966年生まれ。小説家(主なジャンルは歴史・時代小説)。名古屋大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。主な研究対象は平安文学。高校講師、大学教員などを経て、2007年「平家蟹異聞」で第87回オール讀物新人賞を受賞し作家デビュー。受賞作を含む『源平六花撰』(文藝春秋)を2009年に刊行。2018年、『葵の残葉』(文藝春秋)で第37回新田次郎文学賞、第8回本屋が選ぶ時代小説大賞をW受賞。近刊は『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』(集英社)『ワケあり式部とおつかれ道長』(中央公論新社)など。文庫オリジナルの『寄席品川清州亭』シリーズ(集英社文庫)や、児童向けの古典案内・人物伝記も精力的に執筆。古典芸能にも詳しく、落語や能楽をテーマにした小説のほか、朗読劇や歴史ミュージカルの台本なども手掛ける。「紫式部」を素材にした書籍としては、ほかに紫式部と清少納言が現代の子どもに向かって話しかけるスタイルの児童向け伝記『千年前から人気作家!清少納言と紫式部<伝記シリーズ>』(集英社みらい文庫)がある。
公式ブログ http://okehuko.blog.fc2.com/.

RICCA(リッカ)

漫画家、イラストレーター。群馬県出身。児童向け作品を多く手掛け、漫画作品に、『<集英社版・学習まんが世界の伝記NEXT>津田梅子』(監修/津田塾大学津田梅子資料室、シナリオ/蛭海隆志)、『<集英社学習まんが日本の伝記SENGOKU>武田信玄と上杉謙信』(監修/河合敦、シナリオ/三上修平)、『胸キュン?!日本史』(4コマ漫画担当、著/堀口茉純、イラスト/瀧波ユカリ、集英社刊)。イラスト担当作品に集英社みらい文庫の『真田幸村と十勇士』シリーズ、『三国志ヒーローズ!!』(いずれも著/奥山景布子)ほか多数。歴史好き。推し武将、推し文豪の聖地巡礼にも赴く。ソロキャンプも趣味。X https://twitter.com/ricca_comic

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