大河ドラマ「光る君へ」で、中宮・定子の兄弟が
大宰や出雲に送られる場面がありました。
これは、どのような処分だったのでしょうか。
『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』
(集英社刊)の著者であり、平安文学研究者出身の作家・奥山景布子さんが解説します。
第29回
左遷か? 流罪か?
更新日:2024/07/24
- Q29 「左遷」=「流罪」なの?
- A29 そういう例がいくつかあります。
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大河ドラマ「光る君へ」で複数回にわたって描かれてきたように、一条(いちじょう)天皇の最初の中宮・藤原定子(ていし/さだこ)は、兄弟である伊周(これちか)、隆家(たかいえ)の引き起こした「長徳(ちょうとく)の変」と呼ばれる事件のせいで、辛い立場に置かれることになりました。
この時の処分は、伊周は「内大臣」を罷免されて「大宰権帥(だざいのごんのそち)」に、隆家は「中納言」を罷免されて「出雲権守(いずものごんのかみ)」に、それぞれ職を変更されました。
二人が負うことになったのは花山(かざん)上皇への不敬、東三条院(ひがしさんじょういん、詮子〈せんし/あきこ〉)への呪詛(じゅそ)、禁止されている呪法(じゅほう)という三つの不法行為への責(せめ)で、これらは律令(当時の法律)に厳密に照らし合わせるなら、本来は死罪に当たる重罪。それを「一等減じて」の処分でした。
そんな重罪の処罰なのに、「左遷だけ? 軽いのでは?」と思う人もいるのではないでしょうか。
この処罰を理解するキーワードは、二人の職名についた「権」(ごん)です。
「権」はさまざまの官職名に冠されて、正規の官の人とは別に任命されている、という意味を表し、こうした官職を「権官(ごんかん)」と言います。
この「権官」はもともと、職務が多忙すぎる場合に、臨時に人手を増やす意味合いで設けられました。ところが、紫式部の時代には、希望する人の数に比べ、官職の数が少ない状態であることが多くなっていたため、地位と俸給を与えるための「権官」が地方官にも京官(中央官)にも増えていったようです。道長にも「権中納言(ごんのちゅうなごん)」や「権大納言(ごんのだいなごん)」だった時期があります。
ただ、地方官の「権官」は左遷のためのポストとしても用いられることがありました。つまり、形は左遷ですが、実質は流罪というわけです。特に「大宰権帥(だざいのごんのそち)」への左遷は、大臣経験者の流罪の例として知られます。
左遷=流罪でこの職に就いた場合は、現地に赴いても職務に当たることはなく、国府(こくふ)や寺院などで謹慎生活を送り、京から「赦免」(しゃめん、罪を許すこと)と「召還」(しょうかん、京へ呼び戻す)の連絡が届くのを待つことになります。
有名なのは「学問の神さま」として知られる菅原道真(すがわらのみちざね)ですが、「源氏物語」に近い時代では、源高明(たかあきら、道長の妻である明子〈めいし/あきらけいこ/あきこ〉の父)がいます。安和二(969)年月に大宰権帥とされた高明は二年半後に「召還」を告げられ、京へ戻ってきましたが、その後政界に復帰することはありませんでした。
なお、隆家は長和三(1014)年に「大宰権帥」になっていますが、これは左遷でも流罪でもなく、みずから望んでの任官でした(この時の大宰帥は定子の産んだ皇子である敦康〈あつやす〉親王です)。
隆家の在任中には、中国の女真(じょしん)族が九州各地を襲撃した「刀伊(とい)の入寇(にゅうこう)」という大事件が起きています。隆家はこの事件への対応に優れた指導力を発揮しましたが、残念ながらその功績は、京で十分に認められたとは言えなかったようです。 -
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「源氏物語」のイメージが変わります!『「フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』
(奥山景布子著、集英社刊)
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- 著者プロフィール
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奥山景布子(おくやま きょうこ)
1966年生まれ。小説家(主なジャンルは歴史・時代小説)。名古屋大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。主な研究対象は平安文学。高校講師、大学教員などを経て、2007年「平家蟹異聞」で第87回オール讀物新人賞を受賞し作家デビュー。受賞作を含む『源平六花撰』(文藝春秋)を2009年に刊行。2018年、『葵の残葉』(文藝春秋)で第37回新田次郎文学賞、第8回本屋が選ぶ時代小説大賞をW受賞。近刊は『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』(集英社)『ワケあり式部とおつかれ道長』(中央公論新社)など。文庫オリジナルの『寄席品川清州亭』シリーズ(集英社文庫)や、児童向けの古典案内・人物伝記も精力的に執筆。古典芸能にも詳しく、落語や能楽をテーマにした小説のほか、朗読劇や歴史ミュージカルの台本なども手掛ける。「紫式部」を素材にした書籍としては、ほかに紫式部と清少納言が現代の子どもに向かって話しかけるスタイルの児童向け伝記『千年前から人気作家!清少納言と紫式部<伝記シリーズ>』(集英社みらい文庫)がある。
公式ブログ http://okehuko.blog.fc2.com/.
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RICCA(リッカ)
漫画家、イラストレーター。群馬県出身。児童向け作品を多く手掛け、漫画作品に、『<集英社版・学習まんが世界の伝記NEXT>津田梅子』(監修/津田塾大学津田梅子資料室、シナリオ/蛭海隆志)、『<集英社学習まんが日本の伝記SENGOKU>武田信玄と上杉謙信』(監修/河合敦、シナリオ/三上修平)、『胸キュン?!日本史』(4コマ漫画担当、著/堀口茉純、イラスト/瀧波ユカリ、集英社刊)。イラスト担当作品に集英社みらい文庫の『真田幸村と十勇士』シリーズ、『三国志ヒーローズ!!』(いずれも著/奥山景布子)ほか多数。歴史好き。推し武将、推し文豪の聖地巡礼にも赴く。ソロキャンプも趣味。X https://twitter.com/ricca_comic
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