NHK大河ドラマ『光る君へ』放映で平安文化に注目が集まっています。
『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』(集英社刊)の著者であり、平安文学研究者出身の作家・奥山景布子さんが、毎週「源氏物語」と紫式部、その時代についてQ&A方式で解説。
第5回は、ドラマでは主人公の紫式部(まひろ)が代作の仕事をしていた「和歌」についてです。
第5回
平安貴族と和歌
更新日:2024/02/07
- Q5 平安貴族は本当に即興で歌が作れたの?
- A5 はい。でも、苦手な人もいたようです。
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現代の私たちからすると驚くことではありますが、平安時代に書かれた作品を読むと、その場で歌を作る能力は、やはりかなりの人が身につけていたものと考えられます。
「枕草子」の「すさまじきもの」では、手紙で歌を送ったのに返歌がないことを「心おとりす」(残念な人と思う)と言っていますし、「源氏物語」でも、歌で素早く返事をすることが求められる場面は数多く見られます。
改まった儀式の時のためとか、歌そのものの優劣を競う歌合のためなど、前もってじっくり考えて歌を作ることももちろんあったようですが、さほど上手でなくて良いから、挨拶するようにささっと歌を作ることは、貴族には欠かせないコミュ力であったようです。
そのため、貴族たちは幼少期から数多くの古い歌を学んでいました。「枕草子」「清涼殿の丑寅(うしとら)の隅の」では、村上天皇の女御であった藤原芳子(ほうし/よしこ)が、父親から「古今和歌集をすべて暗記せよ」と教育されていたとの記述があります。有名な歌をたくさん知っていれば、作るのにも役立つに違いありません。
また、当時の歌集に「古今和歌六帖」という面白いものがあります。これは、四千五百首もの歌を25の項目に分け、さらにそれらを517の題に細分化して並べたものです。恋の歌などは「片恋」「夢」「うたたね」などのキーワードが示され、細かなシチュエーション別に並んでいて、どうやら歌を作るための参考書として使われていたようです。
ただ、歌を作るのがあまり得意でない人も当然いて、そういう人は、自分の身近にいる歌の巧い人に代作を頼んでいました。「蜻蛉日記」の作者の道綱母(みちつなのはは)は、息子が女性に贈る恋の歌を代わって作ってやったり、養女のもとに来た恋文の歌に、娘の代わりに返歌をしたりしています。「源氏物語」で歌の下手な姫君として登場する末摘花(すえつむはな)は、歌の詠める女房が側にいてくれるとなんとか会話が成立しますが、そうでないとまったくコミュニケーションがとれないと描写されています。
歌の代作をめぐって有名な話と言えば小式部内侍(こしきぶのないし)でしょうか。母である和泉式部(いずみしきぶ)が京を離れて丹後国(京都府北部)にいた頃、小式部内侍の歌を「あれはきっと母親(和泉式部)が作ってくれるのだ」と邪推した藤原定頼(さだより)が、「今度の歌合用の歌は、もうお母さんから届きましたか?」とからかいました。 -
大江山いく野の道の遠ければ まだふみもみず天の橋立(百人一首60)
(大江山を越えて生野までの道は遠いので、母のいる天橋立へはまだ行ったことはありませんし、文も届いておりません) - 小式部内侍は即興でこう言い返しました。あまりの見事な返歌に、定頼は何も言えず立ち去り、小式部内侍の名声は上がったと伝えられますから、やはり歌を作る能力の有無は重要だったと言うしかなさそうです。
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「源氏物語」のイメージが変わります!『「フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』
(奥山景布子著、集英社刊)
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- 著者プロフィール
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奥山景布子(おくやま きょうこ)
1966年生まれ。小説家(主なジャンルは歴史・時代小説)。名古屋大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。主な研究対象は平安文学。高校講師、大学教員などを経て、2007年「平家蟹異聞」で第87回オール讀物新人賞を受賞し作家デビュー。受賞作を含む『源平六花撰』(文藝春秋)を2009年に刊行。2018年、『葵の残葉』(文藝春秋)で第37回新田次郎文学賞、第8回本屋が選ぶ時代小説大賞をW受賞。近刊は『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』(集英社)『ワケあり式部とおつかれ道長』(中央公論新社)など。文庫オリジナルの『寄席品川清州亭』シリーズ(集英社文庫)や、児童向けの古典案内・人物伝記も精力的に執筆。古典芸能にも詳しく、落語や能楽をテーマにした小説のほか、朗読劇や歴史ミュージカルの台本なども手掛ける。「紫式部」を素材にした書籍としては、ほかに紫式部と清少納言が現代の子どもに向かって話しかけるスタイルの児童向け伝記『千年前から人気作家!清少納言と紫式部<伝記シリーズ>』(集英社みらい文庫)がある。
公式ブログ http://okehuko.blog.fc2.com/.
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RICCA(リッカ)
漫画家、イラストレーター。群馬県出身。児童向け作品を多く手掛け、漫画作品に、『<集英社版・学習まんが世界の伝記NEXT>津田梅子』(監修/津田塾大学津田梅子資料室、シナリオ/蛭海隆志)、『<集英社学習まんが日本の伝記SENGOKU>武田信玄と上杉謙信』(監修/河合敦、シナリオ/三上修平)、『胸キュン?!日本史』(4コマ漫画担当、著/堀口茉純、イラスト/瀧波ユカリ、集英社刊)。イラスト担当作品に集英社みらい文庫の『真田幸村と十勇士』シリーズ、『三国志ヒーローズ!!』(いずれも著/奥山景布子)ほか多数。歴史好き。推し武将、推し文豪の聖地巡礼にも赴く。ソロキャンプも趣味。X https://twitter.com/ricca_comic
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