あなをかし、3分でわかる!「源氏物語」と紫式部 奥山景布子

第4回

藤原道長と紫式部

更新日:2024/01/31

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週を重ねるごとに、2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』の注目度もアップ!
『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』(集英社刊)の著者であり、平安文学研究者出身の作家・奥山景布子さんが、毎週「源氏物語」と紫式部、その時代についてQ&A方式で解説します!
第4回は、ドラマでも気になる、藤原道長と紫式部の関係です。

Q4 紫式部は道長の愛人だった説は、根拠がある?
A4 根拠はありません。でも「匂わせ」が。
「光る君へ」では、まひろ(紫式部)と三郎(藤原道長)が子ども時代に出会い、互いに惹かれ合うという設定ですが、二人の男女関係の本当のところは実は分かっていません。

 南北朝時代に編纂(へんさん)された「尊卑分脈(そんぴぶんみゃく)」という系図集によると、藤原為時(ためとき)には三男一女があったとされ、その女子について「上東門院(じょうとうもんいん)女房」「紫式部是也」「源氏物語作者」といった情報とともに「御堂関白道長妾」との文言が記載されています。愛人説の唯一の根拠と言えます。

「尊卑分脈」は、全体的には信頼度の高い文献ですが、他の文献と照合できない根拠の乏しい記述や、明らかな事実誤認なども散見されるため、この文言もそうしたもののひとつと解釈されることが多いです。

 ただ、「紫式部日記」や「紫式部集」には、道長との関係について「匂わせ」をしている箇所がいくつか見られます。

 道長の娘で一条天皇の中宮(正妃)であった彰子(しょうし/あきこ)のもとで「源氏物語」が広げられていた。それを見た道長が紫式部に向かって、


 すきものと名にしたてれば 見る人の 折らで過ぐるはあらじとぞ思ふ(「紫式部日記」年次不詳) (「源氏物語」の作者であるそなたは好色者だと評判だから、見過ごさない男などいないだろう。私とも一度どうだ?)


 現代なら紛れもないセクハラの歌ですが、道長のような立場の貴族男性がこういう悪ふざけをして女房を口説くのは、当時は日常茶飯事。ちなみに、道長は清少納言にも和泉式部にも、男女の仲を意識させる歌を贈っています(「清少納言集」7、「和泉式部集」225)。

 さて、紫式部はこれに「誰も私を好色だなんて言いませんわ」とさらっとかわす歌を返しました。でも日記には続きがあって、「夜、自分の局の戸を叩く人があったみたい。怖くて開けなかったら、翌朝こんな歌が届いた」と書かれています。


 よもすがら水鶏(くひな)よりけになくなくぞ 槙の戸口にたたき侘びつる
(私は一晩中泣いていたのだ、戸を叩きながら。水鶏が鳴くみたいにね)



 どう読んでもこれを贈ってきたのは道長……。紫式部の返歌は「戸を開けたらきっと後悔することになったでしょう」という意味のものでした。拒絶の歌に見えますが、当時の歌の常識からすると、返歌をしただけでも「本当は男女の仲だったのでは?」と疑われるところです。

 この他にも、「紫式部日記」(寛弘五年秋)と「紫式部集」(69)の両方に記述される、女郎花(おみなえし)をめぐる贈答歌のエピソードなど、紫式部は思わせぶりな「匂わせ」を残しています。単純な好き嫌いでは割り切れない、複雑な思いを道長に抱いていたのだと思います。

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『「フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』
(奥山景布子著、集英社刊)

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著者プロフィール

奥山景布子(おくやま きょうこ)

1966年生まれ。小説家(主なジャンルは歴史・時代小説)。名古屋大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。主な研究対象は平安文学。高校講師、大学教員などを経て、2007年「平家蟹異聞」で第87回オール讀物新人賞を受賞し作家デビュー。受賞作を含む『源平六花撰』(文藝春秋)を2009年に刊行。2018年、『葵の残葉』(文藝春秋)で第37回新田次郎文学賞、第8回本屋が選ぶ時代小説大賞をW受賞。近刊は『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』(集英社)『ワケあり式部とおつかれ道長』(中央公論新社)など。文庫オリジナルの『寄席品川清州亭』シリーズ(集英社文庫)や、児童向けの古典案内・人物伝記も精力的に執筆。古典芸能にも詳しく、落語や能楽をテーマにした小説のほか、朗読劇や歴史ミュージカルの台本なども手掛ける。「紫式部」を素材にした書籍としては、ほかに紫式部と清少納言が現代の子どもに向かって話しかけるスタイルの児童向け伝記『千年前から人気作家!清少納言と紫式部<伝記シリーズ>』(集英社みらい文庫)がある。
公式ブログ http://okehuko.blog.fc2.com/.

RICCA(リッカ)

漫画家、イラストレーター。群馬県出身。児童向け作品を多く手掛け、漫画作品に、『<集英社版・学習まんが世界の伝記NEXT>津田梅子』(監修/津田塾大学津田梅子資料室、シナリオ/蛭海隆志)、『<集英社学習まんが日本の伝記SENGOKU>武田信玄と上杉謙信』(監修/河合敦、シナリオ/三上修平)、『胸キュン?!日本史』(4コマ漫画担当、著/堀口茉純、イラスト/瀧波ユカリ、集英社刊)。イラスト担当作品に集英社みらい文庫の『真田幸村と十勇士』シリーズ、『三国志ヒーローズ!!』(いずれも著/奥山景布子)ほか多数。歴史好き。推し武将、推し文豪の聖地巡礼にも赴く。ソロキャンプも趣味。X https://twitter.com/ricca_comic

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