冠婚葬祭のうち、「葬儀」にまつわることも現代とは違いました。
平安時代は、どのように死者を埋葬していたのか?
『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』
(集英社刊)の著者であり、平安文学研究者出身の作家・奥山景布子さんが解説します。
第33回
土葬か? 火葬か?
更新日:2024/08/28
- Q33 当時、死者は土葬された?
- A33 火葬も多くありました。
-
現代の日本では火葬がほとんど(法的には、土葬が完全に禁じられているわけではありません)ですが、紫式部の時代の貴族は、土葬も火葬も例が見られます。
それでも、火葬の方が一般的ではあったようで、人の死を悼む歌には「煙」「雲」といった、火葬を連想する言葉がよく用いられます。
京の火葬場は鳥辺野(とりべの、京都市東山区)、蓮台野(れんだいの、同北区、「紫野(むらさきの)」とも)、化野(あだしの、同右京区)の三箇所がよく知られています。東三条院詮子(ひがしさんじょういんせんし/あきこ)や道長は鳥辺野で火葬にされました(「栄花物語」とりべ野、つるのはやし)。
一方、土葬にするのは、故人の遺言があった場合でした。
有名なのは、一条(いちじょう)天皇の皇后・藤原定子(ていし/さだこ)です。若くして亡くなった定子は、死を覚悟し、遺言を三首の歌の形で遺していました。その中の一首に、土葬を希望すると解釈されるものがあったので、兄の伊周(これちか)が主導して土葬にしました。「栄花物語」によれば場所は「鳥辺野の南の方(かた)」で、定子の亡骸は金銅(こんどう)の金物で飾られた糸毛車(いとげのくるま)でこの地へ運ばれました(牛車については本連載第21回をご参照ください)。
土葬場所には「魂屋」(たまや、霊屋、魂殿〈たまどの〉とも)と呼ばれる場所が設けられ、遺体が安置されたあとは、四方が築地(ついじ、土壁)で固められました。
定子を寵愛した一条天皇も土葬を希望しており、場所まで指定していたのですが、道長がそれを忘れていて火葬にしてしまったとのこと(「小右記」寛弘八年七月十二日、「権記」寛弘八年七月二十日)。
この頃、天皇が在位中に崩御した場合は土葬、譲位して上皇になってから崩御した場合は火葬というのが習慣となりつつあったようで、それ故の間違いであったと考えられていますが、道長の真意は分からないとしか言えません。
なお一条天皇の遺骨は、火葬から9年後に、本人の希望であった円融寺(えんゆうじ)北陵(右京区龍安寺、一条天皇の父である円融天皇が火葬後に埋葬された場所)に改葬されています。
葬送と墓参に関する習慣は、道長の頃に少しずつ変化をしていったという指摘もあります。
当時は、墓石などをきちんと建て、そこに骨を埋葬してお参りをする習慣がありませんでした。火葬をした後、骨を拾い集めて壺に収め、埋めることは行われており、埋める場所は氏(一族)ごとに決まっていたようです。しかし、そこは言わば遺体を「棄てる」場所でしかなく、後の供養などは寺や屋敷でするのが通例でした。
長徳(ちょうとく)の変で流罪が決まった伊周は、逃亡中にこっそり、埋葬地である木幡(こはた、宇治市)へ赴きますが、亡き父・道隆(みちたか)の埋葬された場所を探すのには苦労したようです。
この習慣を改め、寺院に墓地を整備することを考えたのは道長だと言われます。
寛弘二(1005)年、道長は藤原氏の埋葬地である木幡に浄妙寺(じょうみょうじ)を建立しますが(本連載第24回をご参照ください)、これが死者の骨のある場所を墓とし、参る対象にした最初と考えられます。
なお、庶民の葬送については不明な点が多いのですが、「今昔物語集」巻三十一の三十には、身寄りのない、死期を覚悟した女が、周囲の人に迷惑をかけないために、自分で鳥辺野へ赴いて身を横たえる話が伝わっており、鳥辺野が「死体が放棄される場所」と認識されていたことが窺えます。
参考文献:山中裕・鈴木一雄編『平安時代の儀礼と歳事』至文堂
倉本一宏編『王朝再読』臨川書店
丹生谷哲一『検非違使』平凡社選書 -
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「源氏物語」のイメージが変わります!『「フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』
(奥山景布子著、集英社刊)
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- 著者プロフィール
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奥山景布子(おくやま きょうこ)
1966年生まれ。小説家(主なジャンルは歴史・時代小説)。名古屋大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。主な研究対象は平安文学。高校講師、大学教員などを経て、2007年「平家蟹異聞」で第87回オール讀物新人賞を受賞し作家デビュー。受賞作を含む『源平六花撰』(文藝春秋)を2009年に刊行。2018年、『葵の残葉』(文藝春秋)で第37回新田次郎文学賞、第8回本屋が選ぶ時代小説大賞をW受賞。近刊は『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』(集英社)『ワケあり式部とおつかれ道長』(中央公論新社)など。文庫オリジナルの『寄席品川清州亭』シリーズ(集英社文庫)や、児童向けの古典案内・人物伝記も精力的に執筆。古典芸能にも詳しく、落語や能楽をテーマにした小説のほか、朗読劇や歴史ミュージカルの台本なども手掛ける。「紫式部」を素材にした書籍としては、ほかに紫式部と清少納言が現代の子どもに向かって話しかけるスタイルの児童向け伝記『千年前から人気作家!清少納言と紫式部<伝記シリーズ>』(集英社みらい文庫)がある。
公式ブログ http://okehuko.blog.fc2.com/.
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RICCA(リッカ)
漫画家、イラストレーター。群馬県出身。児童向け作品を多く手掛け、漫画作品に、『<集英社版・学習まんが世界の伝記NEXT>津田梅子』(監修/津田塾大学津田梅子資料室、シナリオ/蛭海隆志)、『<集英社学習まんが日本の伝記SENGOKU>武田信玄と上杉謙信』(監修/河合敦、シナリオ/三上修平)、『胸キュン?!日本史』(4コマ漫画担当、著/堀口茉純、イラスト/瀧波ユカリ、集英社刊)。イラスト担当作品に集英社みらい文庫の『真田幸村と十勇士』シリーズ、『三国志ヒーローズ!!』(いずれも著/奥山景布子)ほか多数。歴史好き。推し武将、推し文豪の聖地巡礼にも赴く。ソロキャンプも趣味。X https://twitter.com/ricca_comic
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