あなをかし、3分でわかる!「源氏物語」と紫式部 奥山景布子

第8回

藤原道長の魅力

更新日:2024/02/28

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NHK大河ドラマ『光る君へ』では、紫式部とともに藤原道長の存在感が
回を追うごとに際立っています。
栄華を極めた道長の魅力とはどのようなものでしょうか。
『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』(集英社刊)の
著者であり、平安文学研究者出身の作家・奥山景布子さんが解説します。

Q8 藤原道長の魅力ってどんなところ?
A8 強運の源(⁉)、豊かな喜怒哀楽。
 道長というと、大きな権力を握った人というイメージが先行して、「裏表があって、こっそり何かを企んで人を陥れて……」など、暗い先入観を持つ人も少なくないようです。

 一方、「栄花物語」「大鏡」などの歴史物語には、父・兼家に向かって大言壮語したり、兄弟で肝試しをして一人勝ちしたり、自分の未来について予言めいた言葉を吐いて弓矢を的中させたりなどの、大胆で肝の据わった性格、それ故の強運なのだと讃えるようなエピソードがいくつも収められています。

 ただ、「栄花物語」や「大鏡」などは、いずれも、すでに道長が権力者として頂点に立って以降に成立したと考えられる作品なので、こうしたエピソードには多分に「盛っている」ところがあると言われています。権力を握るにふさわしい人物として、脚色されている可能性が高いというわけです。

 では、彼の実像を知る手がかりはどこに? 幸いなことに、道長の場合は本人の日記なども残されていますので、そこから性格を類推することが可能です。

 道長の日記は「御堂関白記(みどうかんぱくき)」と呼ばれており、日々の行動や考えなどをその都度、具注暦(ぐちゅうれき、当時のカレンダーや手帳のようなもの)に漢文で書き込んだものです。同時代に活躍した男性貴族には、道長以外にも、こうした形式の日記を残した人がいて、有名なものでは、藤原実資(さねすけ)の「小右記(しょうゆうき)」、藤原行成(ゆきなり)の「権記(ごんき)」などがありますが、本人自筆のものが現存しているのは「御堂関白記」だけで、とて貴重な資料です。

 こうした男性の貴族たちが日々書き綴った漢文の日記は「真名(まな)日記」とも呼ばれます。これは「蜻蛉日記」や「紫式部日記」などの女性の日記が、あとから回想する形で仮名を用いて書かれているのとの違いを意識した呼び方です。

 さて、これら「真名日記」からは、道長が喜怒哀楽を比較的顔や態度にはっきり出すタイプの人であったことが分かります。長女の彰子(しょうし/あきこ)が中宮になれると確信した時など、尽力してくれた行成に対して「そなたの恩には次世代まできっと報いる」と心から感激した様子で礼を言っていたようです。

 歴史学者の倉本一宏先生はこうした道長の感激しやすい性格について「政治的な演技というよりも、自然と湧いてきた感激をそのまま表現しているよう」と評しています(『藤原道長の日常生活』講談社現代新書)。

 他にも、怒りの感情を隠さずにまわりにぶつけて対応を求める、良いことがあると人前で憚らずに涙を見せて泣く、物の怪をひどく恐れて弱音を吐いたり愚痴をこぼしたりするなど、人間らしい感情表現が豊かであったことが分かります。

 娘三人を后にできた強運の源は、案外そうしたところにあったのかもしれません。

タイトルデザイン/小松昇(ライズ・デザインルーム)

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『「フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』
(奥山景布子著、集英社刊)

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著者プロフィール

奥山景布子(おくやま きょうこ)

1966年生まれ。小説家(主なジャンルは歴史・時代小説)。名古屋大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。主な研究対象は平安文学。高校講師、大学教員などを経て、2007年「平家蟹異聞」で第87回オール讀物新人賞を受賞し作家デビュー。受賞作を含む『源平六花撰』(文藝春秋)を2009年に刊行。2018年、『葵の残葉』(文藝春秋)で第37回新田次郎文学賞、第8回本屋が選ぶ時代小説大賞をW受賞。近刊は『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』(集英社)『ワケあり式部とおつかれ道長』(中央公論新社)など。文庫オリジナルの『寄席品川清州亭』シリーズ(集英社文庫)や、児童向けの古典案内・人物伝記も精力的に執筆。古典芸能にも詳しく、落語や能楽をテーマにした小説のほか、朗読劇や歴史ミュージカルの台本なども手掛ける。「紫式部」を素材にした書籍としては、ほかに紫式部と清少納言が現代の子どもに向かって話しかけるスタイルの児童向け伝記『千年前から人気作家!清少納言と紫式部<伝記シリーズ>』(集英社みらい文庫)がある。
公式ブログ http://okehuko.blog.fc2.com/.

RICCA(リッカ)

漫画家、イラストレーター。群馬県出身。児童向け作品を多く手掛け、漫画作品に、『<集英社版・学習まんが世界の伝記NEXT>津田梅子』(監修/津田塾大学津田梅子資料室、シナリオ/蛭海隆志)、『<集英社学習まんが日本の伝記SENGOKU>武田信玄と上杉謙信』(監修/河合敦、シナリオ/三上修平)、『胸キュン?!日本史』(4コマ漫画担当、著/堀口茉純、イラスト/瀧波ユカリ、集英社刊)。イラスト担当作品に集英社みらい文庫の『真田幸村と十勇士』シリーズ、『三国志ヒーローズ!!』(いずれも著/奥山景布子)ほか多数。歴史好き。推し武将、推し文豪の聖地巡礼にも赴く。ソロキャンプも趣味。X https://twitter.com/ricca_comic

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