ドラマ『光る君へ』でも、「源氏物語」の中にも、天皇の後宮に入った
皇后や女御たちがたくさん登場します。
彼女たちは、紫式部や清少納言のように何か文章を書き残したのでしょうか?
『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』(集英社刊)の
著者であり、平安文学研究者出身の作家・奥山景布子さんが解説します。
第9回
お后たちの文学作品
更新日:2024/03/06
- Q9 小説や日記などの文章を残したお后はいるの?
- A9 和歌ならあります。むしろお后はプロデューサー。
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清少納言が仕えた皇后藤原定子(ていし/さだこ)は、漢籍(漢文で書かれた書物)の知識が相当豊かであったと思われますが、彼女自身が書いた漢詩や漢文は伝わっていません。また、仮名(和文)によるエッセイや物語なども、本人の作とされるものはありません。
定子だけでなく、藤原威子(いし/たけこ、後一条天皇皇后/道長四女)までの歴代皇后の中で、本人の作である漢詩や漢文、あるいは仮名の散文作品が伝わっている人は残念ながら一人もありません。
創作されたものではありませんが、本人の直筆の漢字が、写経として残っているのが、藤原氏出身者として初めて皇后になった光明子(こうみょうし、聖武天皇皇后/藤原不比等三女)です。
お后たちの作品が伝わるのは、和歌に限定されるということになります。
平安時代より以前なら、「日本書紀」「古事記」「万葉集」には、光明子をはじめ、何人かのお后の歌が収められています。
奈良・平安を通して、威子までのお后の中で一番多くの歌が伝わっているのは、紫式部が仕えた藤原彰子(しょうし/あきこ)です。ただ、それは本人の歌集としてまとまっているわけではなく、「後拾遺和歌集」「新古今和歌集」などの勅撰和歌集(天皇や上皇の発案で、朝廷の公式事業として編纂される歌集。一首でも選ばれれば大変な名誉とされた)に入っているか、あるいは「栄花物語」「大鏡」などの物語に掲載されているものです。
ちなみに彰子の歌として勅撰集に採用された歌は26首。一方の定子は8首です。数だけ見ると定子が少ないようですが、彰子が87歳と長寿だったのに対し、定子は25歳と若くして亡くなっていますから、単純に比較することはできません。
皇后になった女性ではありませんが、女御として後宮にいた人の中で、歌人として破格に名声の高かったのが徽子女王(きし/よしこ、じょおう)。朱雀天皇の御代で伊勢の斎宮をつとめた後、村上天皇の女御となった人です。
この人の歌は勅撰集に44首採られていますし、本人による編纂ではありませんが、「斎宮女御集(さいぐうのにょうごしゅう)」という歌集も伝わっています。
娘の規子内親王(きし/のりこ、ないしんのう)も円融天皇の御代で斎宮になり、その際には、天皇が止めたにもかかわらず娘に随行して伊勢へ行っています。このエピソードは、「源氏物語」の六条御息所とその娘・秋好(あきこのむ)中宮の人物像に影響を与えたと言われています。
このように、和歌でも、お后たち自身の作品は多くありません。でも、「歌合」という、歌の優劣を競う文芸行事には、「中宮歌合」「皇太后歌合」「○○女御歌合」のように、お后や女御の名前を冠したものがいくつも伝わっています。自身で詠むというより、まわりの者に才能を発揮させ、良い歌を作らせる場を提供することが、お后には求められていたと言えるでしょう。 -
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「源氏物語」のイメージが変わります!『「フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』
(奥山景布子著、集英社刊)
バックナンバー
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第40回 紫式部のライバル!?
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第38回 紫式部と男性貴族
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第37回 紫式部の友人たち
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第36回 紫式部の娘はキャリアウーマン?
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第25回 女性貴族の出家
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第23回 天皇の出家
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第21回 牛車でGO⁉
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第20回 平安時代の地方の役人
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第11回 紫式部の原稿料
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第10回 紫式部の本名は
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第9回 お后たちの文学作品
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第8回 藤原道長の魅力
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第7回 平安時代の宴会メニュー
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第6回 「源氏物語」の作者とは
更新日:2024/02/14
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第5回 平安貴族と和歌
更新日:2024/02/07
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第4回 藤原道長と紫式部
更新日:2024/01/31
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第3回 寝殿造のトイレ事情
更新日:2024/01/24
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第2回 十二単を着るときは
更新日:2024/01/17
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第1回 清少納言と紫式部
更新日:2024/01/10
- 著者プロフィール
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奥山景布子(おくやま きょうこ)
1966年生まれ。小説家(主なジャンルは歴史・時代小説)。名古屋大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。主な研究対象は平安文学。高校講師、大学教員などを経て、2007年「平家蟹異聞」で第87回オール讀物新人賞を受賞し作家デビュー。受賞作を含む『源平六花撰』(文藝春秋)を2009年に刊行。2018年、『葵の残葉』(文藝春秋)で第37回新田次郎文学賞、第8回本屋が選ぶ時代小説大賞をW受賞。近刊は『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』(集英社)『ワケあり式部とおつかれ道長』(中央公論新社)など。文庫オリジナルの『寄席品川清州亭』シリーズ(集英社文庫)や、児童向けの古典案内・人物伝記も精力的に執筆。古典芸能にも詳しく、落語や能楽をテーマにした小説のほか、朗読劇や歴史ミュージカルの台本なども手掛ける。「紫式部」を素材にした書籍としては、ほかに紫式部と清少納言が現代の子どもに向かって話しかけるスタイルの児童向け伝記『千年前から人気作家!清少納言と紫式部<伝記シリーズ>』(集英社みらい文庫)がある。
公式ブログ http://okehuko.blog.fc2.com/.
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RICCA(リッカ)
漫画家、イラストレーター。群馬県出身。児童向け作品を多く手掛け、漫画作品に、『<集英社版・学習まんが世界の伝記NEXT>津田梅子』(監修/津田塾大学津田梅子資料室、シナリオ/蛭海隆志)、『<集英社学習まんが日本の伝記SENGOKU>武田信玄と上杉謙信』(監修/河合敦、シナリオ/三上修平)、『胸キュン?!日本史』(4コマ漫画担当、著/堀口茉純、イラスト/瀧波ユカリ、集英社刊)。イラスト担当作品に集英社みらい文庫の『真田幸村と十勇士』シリーズ、『三国志ヒーローズ!!』(いずれも著/奥山景布子)ほか多数。歴史好き。推し武将、推し文豪の聖地巡礼にも赴く。ソロキャンプも趣味。X https://twitter.com/ricca_comic
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