2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』がついにスタート!
『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』(集英社刊)の著者であり、平安文学研究者出身の作家・奥山景布子さんが、毎週「源氏物語」と紫式部、その時代についてQ&A方式で解説します!
第3回は、気になる貴族のおトイレ事情です……!
第3回
寝殿造のトイレ事情
更新日:2024/01/24
- Q3 寝殿造にトイレはあったの?
- A3 ありましたが、女性はおまるを使っていたようです。
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寝殿造の建物におけるトイレは「樋殿(ひどの)」と呼ばれていました。と言っても現代のような水洗の設備はもちろんありませんし、昭和の頃のトイレのような、排泄物を落とす設備もありません。
一部、川の流れを引き込むことが可能な住宅の場合は、その流れの上に小さな建物を作って水洗トイレのように使っていた例もあるようです(トイレの古い言い方に「厠」という言葉があるのは、これが語源だと言われます)。しかし、そうではない場合は、建物の中の一隅を仕切りで隔て、そこに樋箱(ひばこ、清筥=しのはこや大壺=おおつぼと呼ばれる場合もある)を置いて用を足していました。建物の北側で水の流れに近い場所に設置されることが多かったようです。
当然ながら、まめに樋箱の中のものを取り捨て、掃除をしないと大変なことになりますので、この掃除を専門に行う使用人がおかれていて、「御厠人(みかわやうど)」「樋洗童(ひすましわらわ)」などと呼ばれていました。
大切な仕事ですが、当時の社会では「身分のある人がするものではない」という意識があったようです。「源氏物語」では、近江君(光源氏の親友である頭中将が身分の低い女性との間にもうけた娘)が、父の身のまわりの世話をしたいと申し出た折、「大御大壺(おほみおほつぼ)とりにも仕うまつりなむ」(トイレ掃除をいたします)と発言して失笑を買っています。
暮らしに余裕のある貴族になると、紫檀(したん)などの高級な木材を使い、螺鈿(らでん)や蒔絵(まきえ)を施した豪華な樋箱を用いた例もあります。
また樋箱については、こんな有名な話もあります。
「今昔物語集」(巻三十の一)によると、平貞文(?~923。「平中」と通称された。「貞文」は「定文」と表記されることもある)という色好みの男性が、本院侍従と呼ばれる大臣家の女房に恋焦がれて熱心に言い寄ったけれども、結局振られてしまった。それでもどうしても諦め切れないため、彼女が「筥(はこ)にし入れらむ物」を引っかき回して眺めたら、きっと恋心も醒めるだろうと考えて、侍従の住まいから樋洗童が出てくるところを待ち受けます。
やがて童が樋箱を布で包み、扇で隠し持って出てくるのを見つけ、彼女からそれを奪い、人気のないところへ持ち去った貞文。包みを開くと金漆で装飾された立派な箱が。さて中身はと見てみると、確かにそれらしい塊(尾籠ですみません)が入っているのに、とても良い香りがする。不思議に思ってよくよく見ると、植物の根や香料、染料を用いて巧妙に作られた偽物だったのです。
侍従のこの仕打ちに、貞文はいっそう恋心を募らせ、挙げ句に死んでしまったと物語には書かれています。罪作りな樋箱もあったものです。
排泄などの生理現象に関する場面が古典の文学作品に描かれることはとても少ないです。「光る君へ」では、そうしたシーンが今後あるのかどうか、それも隠れた見所の一つかもしれませんね。 -
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「源氏物語」のイメージが変わります!『「フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』
(奥山景布子著、集英社刊)
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- 著者プロフィール
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奥山景布子(おくやま きょうこ)
1966年生まれ。小説家(主なジャンルは歴史・時代小説)。名古屋大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。主な研究対象は平安文学。高校講師、大学教員などを経て、2007年「平家蟹異聞」で第87回オール讀物新人賞を受賞し作家デビュー。受賞作を含む『源平六花撰』(文藝春秋)を2009年に刊行。2018年、『葵の残葉』(文藝春秋)で第37回新田次郎文学賞、第8回本屋が選ぶ時代小説大賞をW受賞。近刊は『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』(集英社)『ワケあり式部とおつかれ道長』(中央公論新社)など。文庫オリジナルの『寄席品川清州亭』シリーズ(集英社文庫)や、児童向けの古典案内・人物伝記も精力的に執筆。古典芸能にも詳しく、落語や能楽をテーマにした小説のほか、朗読劇や歴史ミュージカルの台本なども手掛ける。「紫式部」を素材にした書籍としては、ほかに紫式部と清少納言が現代の子どもに向かって話しかけるスタイルの児童向け伝記『千年前から人気作家!清少納言と紫式部<伝記シリーズ>』(集英社みらい文庫)がある。
公式ブログ http://okehuko.blog.fc2.com/.
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RICCA(リッカ)
漫画家、イラストレーター。群馬県出身。児童向け作品を多く手掛け、漫画作品に、『<集英社版・学習まんが世界の伝記NEXT>津田梅子』(監修/津田塾大学津田梅子資料室、シナリオ/蛭海隆志)、『<集英社学習まんが日本の伝記SENGOKU>武田信玄と上杉謙信』(監修/河合敦、シナリオ/三上修平)、『胸キュン?!日本史』(4コマ漫画担当、著/堀口茉純、イラスト/瀧波ユカリ、集英社刊)。イラスト担当作品に集英社みらい文庫の『真田幸村と十勇士』シリーズ、『三国志ヒーローズ!!』(いずれも著/奥山景布子)ほか多数。歴史好き。推し武将、推し文豪の聖地巡礼にも赴く。ソロキャンプも趣味。X https://twitter.com/ricca_comic
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