前回は「天皇の出家」がテーマでしたが、
藤原道長はじめ、貴族たちも出家をしています。
『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』
(集英社刊)の著者であり、平安文学研究者出身の作家・奥山景布子さんが解説します。
第24回
男性貴族の出家
更新日:2024/06/19
- Q24 男性貴族も出家した?
- A24 はい。現代で言う終活に近いでしょうか。
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前回でも触れたように、「余生、晩年は仏門に」と願う人が多かったので、出家した=それなりに自分で人生に区切りを付けた人ということになります。
藤原道長は、寛仁三(1019)年に出家しています。
道長は長和六(1017)年に長男の頼通(よりみち)に摂政を譲っています。長く権力の座にある一方で、自分が40歳になるのを目処に浄妙寺(じょうみょうじ)の創建に着手するなど、早くから出家を視野に入れて行動していたといえます。
出家してからは法成寺(ほうじょうじ)の造営に力を入れ、そこで死を迎えました。
法成寺は現在残っていませんが、長男の頼通が建立した宇治の平等院(びょうどういん)の鳳凰堂(ほうおうどう)から、当時の寺院の様子を知ることができます。
道長の父・兼家(かねいえ)も、関白の座を長男・道隆(みちたか)に譲って3日後に出家しています。道長のように若い頃から準備していたわけではなく、病気を自覚してからの行動だったらしく、出家してからおよそ2ヶ月後には亡くなっています。病平癒を願っての出家だったのでしょうか。
紫式部の父、藤原為時(ためとき)も、長和五(1016)年に出家しています。
この5年前、為時は赴任先の越後(えちご)で、いっしょに来ていた息子の惟規(のぶのり/これのぶ)を亡くしました。その後、越後守(えちごのかみ)の任期を満了せずに辞職して、都へ帰っていますので、自分の人生に区切りを付け、息子の菩提を弔いたくなったのかもしれません。
こうした、余生、晩年ではない、若い男性の出家の例もあります。
長保三(1001)年、藤原重家(しげいえ)と源成信(なりのぶ)という二人の貴公子が三井寺(みいでら)でいっしょに出家しました。重家は当時25歳で、従四位下(じゅしいのげ)で左近衛少将(さこんえのしょうしょう)、右大臣だった顕光(あきみつ)の長男です。一方の成信は23歳、従四位上(じゅしいのじょう)、右近衛権中将(うこんえのごんのちゅうじょう)、村上(むらかみ)天皇(六二代)を祖父に持ち、道長の妻・倫子(りんし/みちこ/ともこ)の甥に当たる人です。
道長は、倫子との縁から成信を猶子(ゆうし、子に近い存在として扱われる)としていましたので、知らせを聞いて顕光とともに三井寺へ駆けつけましたが、時すでに遅し。左大臣、右大臣、共に深く悲しんだと言います。
二人とも前途有望、容姿にも恵まれて女房たちからも人気があったそう。特に成信の人気ぶりは「枕草子」からも窺われます。いったい何があったのでしょう……?
本人たちの言葉が残っていないので、この理由は永遠の謎。後世、あれこれと推測されたり、説話の素材になって脚色されたりしています。
当時、出家をして俗世を逃れて暮らす「出家遁世(しゅっけとんせい)」に憧れる厭世的(えんせいてき)な空気が若い世代に広がっていたようです。長保二年(1001年)12月の皇后定子の死が、それにさらなる影響を与えたという指摘もあります。
「源氏物語」の宇治十帖の主人公・薫(かおる)のキャラクターには、こうした当時の若者たちの厭世的な空気が反映していると考えられます。
参考文献:山本淳子『源氏物語の時代』朝日選書 -
タイトルデザイン/小松昇(ライズ・デザインルーム)
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「源氏物語」のイメージが変わります!『「フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』
(奥山景布子著、集英社刊)
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- 著者プロフィール
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奥山景布子(おくやま きょうこ)
1966年生まれ。小説家(主なジャンルは歴史・時代小説)。名古屋大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。主な研究対象は平安文学。高校講師、大学教員などを経て、2007年「平家蟹異聞」で第87回オール讀物新人賞を受賞し作家デビュー。受賞作を含む『源平六花撰』(文藝春秋)を2009年に刊行。2018年、『葵の残葉』(文藝春秋)で第37回新田次郎文学賞、第8回本屋が選ぶ時代小説大賞をW受賞。近刊は『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』(集英社)『ワケあり式部とおつかれ道長』(中央公論新社)など。文庫オリジナルの『寄席品川清州亭』シリーズ(集英社文庫)や、児童向けの古典案内・人物伝記も精力的に執筆。古典芸能にも詳しく、落語や能楽をテーマにした小説のほか、朗読劇や歴史ミュージカルの台本なども手掛ける。「紫式部」を素材にした書籍としては、ほかに紫式部と清少納言が現代の子どもに向かって話しかけるスタイルの児童向け伝記『千年前から人気作家!清少納言と紫式部<伝記シリーズ>』(集英社みらい文庫)がある。
公式ブログ http://okehuko.blog.fc2.com/.
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RICCA(リッカ)
漫画家、イラストレーター。群馬県出身。児童向け作品を多く手掛け、漫画作品に、『<集英社版・学習まんが世界の伝記NEXT>津田梅子』(監修/津田塾大学津田梅子資料室、シナリオ/蛭海隆志)、『<集英社学習まんが日本の伝記SENGOKU>武田信玄と上杉謙信』(監修/河合敦、シナリオ/三上修平)、『胸キュン?!日本史』(4コマ漫画担当、著/堀口茉純、イラスト/瀧波ユカリ、集英社刊)。イラスト担当作品に集英社みらい文庫の『真田幸村と十勇士』シリーズ、『三国志ヒーローズ!!』(いずれも著/奥山景布子)ほか多数。歴史好き。推し武将、推し文豪の聖地巡礼にも赴く。ソロキャンプも趣味。X https://twitter.com/ricca_comic
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