大久保佳代子のほどほどな毎日

第21回

子猿のパンチくんの可愛らしさも、愛娘・パコ美と過ごす時間も、有限だからこそ愛おしい

更新日:2026/06/24

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 先日、子猿のパンチくんに会いに行きました。
 そうです、生まれてまもなく育児放棄され、母親代わりにオランウータンのぬいぐるみを連れて歩く姿が大きな話題に。
 日本だけでなく世界中の注目を集めている、あのパンチくんです。

 パンチくんを初めて見たのはTiktokだったのかな。
 なかなか群れに馴染むことができなくて、周りの猿にイジメられながらも、諦めずに何度も何度も接触を試みる……。
 あの可愛らしくも健気な姿に一瞬で心を奪われてしまってね。
 気づけば、夜な夜なパンチくんの動画をチェック。
 母性本能をギュンギュン刺激されながら眠りにつくのが新たな日課になっていたりして。

 そんなパンチくんに会いに行ったのは、すぐに成長してしまうから。
 放っておいたら、普通の猿になってしまうから、見分けがつかなくなっちゃうから。
 だからこそ「一刻も早く会いに行かなくちゃ‼︎」と、駆り立てられるように私は家を出たのです。

 ただ、パンチくんがいる千葉県の市川市動植物園がまあまあ遠くてねぇ。
 最寄りのひとつであるJR武蔵野線「市川大野駅」までは我が家からかなり時間がかかるうえに、そこからバスに10分乗り、さらに15分も歩くっていう。
 また、そのバスが1時間に1~2本くらいしかないんですよ。

 パンチくん目当ての見物客で動物園が混んでいるのは知っていたから、決行日はあえて平日を選択。
 その日は雨が降っていたからか、より駅前には人が少なくてね。
 バスの乗客は私と同年代の女性がもう一人だけ。
 言葉を交わさずとも「おまえもか」と車内で生まれる謎の仲間意識。

 現地では雨のおかげか並ぶことなくスムーズに入園できたんだけど、猿山にたどり着く頃には結構な暴風雨になっていてね。
 あまりの寒さにガタガタと震えながら、「あ、パンチくんだ‼︎」とトキメいたのも束の間、全然違う子猿をずっと眺めていたことが判明したりして。

 なんで、そこで自分の勘違いに気づけたのかというと、パンチくんが現れると、いつも猿山に張り付いているであろうベテランチームがザワザワしだすんですよ。
 で、ベテラン勢が「来た、来た‼︎」とカメラを向ける先にパンチくんがいるっていう。
 あれがなかったら、全然違う子猿を見て満足して帰っていたかもしれないから、怖いよね。

 往復約4時間もかかったし、風邪をひきそうにもなったけれど、「パンチくんに会いに行って良かった」と心から思う。
 行きのバスでは本当に会いたくて、会いたくて、たまらなくて、あんなに心が震えたのは久々でね。
 自分でも「私もまだ、こんな感情になることがあるんだ」って驚いたくらいですから。

 こんなに夢中になったのは『愛の不時着』のヒョンビン以来。
 パンチくんは完全に今の私の〝推し〟ですね。
 もしかしたら、このエッセイが世の中に出る頃にはもう、大人になってしまっているかもしれないけれど。
 大丈夫、パンチくんは性格がいいから‼︎
 生まれ持ってのスター性とカリスマ性を持っているから‼︎
 多少顔が伸びてもあの輝きを失うことはないから‼︎(多分)

 私がこんなにもパンチくんに惹かれるのはきっと、飼育員の〝お兄パパ〟との関係性も大きいんだろうな。
 生まれたときからお世話をしてくれて、親のような存在だからこそ、会えたときはギュッと抱きついて離れない。
 全信頼を注いで「あなたしかいないんです」と必死に甘える……。

 あの姿がなんだか愛犬・パコ美に重なってしまうというか。
 パコ美もまた、幼くして親と離れて我が家にやってきたから。
 彼女にとっては私が〝お姉ママ〟であり、私がいないと生きていくこともできないわけで。
 そう考えるとより愛おしく思えたりして。

 人と動物の絆にこんなにも心が動くのは、年々孤独感が深まっているからなのかな。
 ここ数年はいつまでも親が健在でないことを痛感。
 この先はきっと、一人また一人と、自分に関係している人がどんどん減っていく。
 だからこそ、より〝繋がり〟に敏感になっているというか。

 子どものいない私にとって、パコ美は愛娘のようなもの。
 やっぱり、大切な家族であり〝繋がり〟を強く感じる存在なんですよね。
 私が泣いていたらそっと寄り添ってくれたり、流した涙をペロペロと舐めてくれ……なんて、素敵なエピソードは一切ないんですけど。
 大人数でウワーッと飲んで、帰宅して急に一人になったりすると、寂しくて死にそうになることも。
 でも、そこにポンっと茶色い生き物がいるだけで安心するというか。
 その体温を感じるだけで癒やされるんだよね。

 そんなパコ美もあっという間に10歳に。
 最近では、まつ毛やアゴの毛が白くなりはじめて、寝ている時間がどんどん長くなってね。
 犬の10歳は人間の56~60歳。
 気づけば、私の年齢も超えてしまって、「パコ美との時間は有限なんだな」と痛感する日々。

 またさ、彼女は良くも悪くも有名犬になっているので。
 「パコ美ちゃん、元気ですか?」と聞かれる機会もすごく多いんですよね。
 ありがたいことではあるけれど、その度に「死んじゃったあと、これを聞かれるのは結構辛いものがあるな」と思わず想像してしまったりしてね。

 〝拾い食い〟という困った癖を持っているけれど、神様から〝巨大な肛門〟というギフトをもらっているパコ美ちゃん。
 先日も散歩中に食べたファミチキの包み紙をぶっといウ○コと共に無事に放出いたしました。
 老いてはいるけれど、今のところは至って健康。
 だからこそ、当たり前のように存在するこの時間を本当に大切にしたい。

 最近、飲みに行くときは近所の犬OKの居酒屋へ。
 その店はメニューが少ないから、毎回、同じようなものを食べることになるんですけど。
 いいんです、いいんです。
 若干飽きているが、それでいいんです。
 私にとってはパコ美と過ごす時間が何よりも大切な宝物なのだから。

聞き手・構成/石井美輪 題字・イラスト/中村桃子

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©三山エリ

著者プロフィール

大久保佳代子(おおくぼ・かよこ)

タレント。1971年5月12日生まれ、愛知県出身。千葉大学文学部卒業。1992年、幼なじみの光浦靖子と「オアシズ」結成。「めちゃ×2イケてるッ!」でのブレイク後、バラエティ番組にとどまらず、コメンテーターや女優としても活躍している。近著にエッセイ集『まるごとバナナが、食べきれない』 (集英社)『パジャマあるよと言われても』(マガジンハウス) など。

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