
第9回
感じたいのは“性”より“生”
今の私は“男”よりも“山”に抱かれていたい
更新日:2025/06/25
昨年はやたらイケメンと飲みましたね、世界各国で。
もちろん、プライベートではなく仕事で、バラエティ番組『世界頂グルメ』のロケでね。
中島健人君やジェジュンとの韓国飲みにはじまり、今年3月の最終回ではEXILEのTAKAHIROさんとドイツへ。
最初は「いくらイケメンが相手でも仕事だし。そんなに楽しくないでしょ」と思っていたんだけど……。
実際にやってみたら、これがもう、すんごい楽しくてビックリ。
やっぱりね、シンプルにキレイな男性と飲む酒は
隣に座るだけでも最高なのに、お互いの目を見て、語り合い、ぐんぐん距離を近づけていくわけですから。
そりゃあ、佳代子の内に潜む“ホルモンの鼓笛隊”も大騒ぎ。心の底から「芸能界に入って良かったぁ♡」と思いましたからね(笑)。
飲んだ翌朝は二日酔いのせいで便器を抱きしめながら嘔吐。
それでも、その日の午後は果敢に飲みロケを続行。
イケメンパワーでなんとか乗り切った、一泊四日のドイツロケ。
あれが楽しいのは期間限定っていうのもひとつの理由なんだろうな。
ロケが終了すれば、夢の時間も終了。終わりが来るのがわかっているからこそ、どっぷり夢の世界に浸れるというか。
実際の恋愛はいつ終わるかわからないし、「どっちが終わらせるのか」とか、「絶対終わるに決まっている」とか、素敵なことばかりじゃないのがもうわかっているから。
良いことよりも悪いこと、面倒臭いことばかりが先に思い浮かんでしまうから。
始めることができないし、始める気持ちにもならない、それが50代の佳代子のリアルな心境なのだと思います。
その最たる例が、今年の正月に参加した同窓会ですよ。
高校の同級生が集まるっていうから「じゃあ、私も」って参加させてもらったんだけど。
そこには、かつての一軍男子生徒もいてね。
その一人が私の隣の席へ。
高校時代は一度も話したことがないのに、いきなりの「佳代ちゃん」呼びで、それはもうフレンドリーに話しかけてくるわけですよ。
「すごいなぁ。昔はカバだのブスだの言われて、砂消しとか投げられていたような女の子が、芸能人になったというだけでこんなにもチヤホヤされるんだなぁ」と思いつつも、決して悪い気はしなくてね。
あの頃は経験できなかった一軍男子との時間を楽しんでいたんですけど。
気づけば、会話がだんだんウェットな方向に。
さっきまで、ポンっと私の背中を軽く叩くだけだったその手にサワッとなでるような湿度が宿り、「佳代ちゃんは、酔ったらどうなるの?」なんて質問が増え始め……。
「あれ、なんかこれ“同級生”の枠からはみ出てない?」と感じた瞬間、私は思ってしまったんですよね。
「あ、無理かも」って、「ちょっと気持ち悪いかも」って。
これが30代~40代前半の私だったら「嬉しい」と思っていたはず。
なんなら、ちょっとした過ちも犯していたかもしれない。
でも、50代の佳代子はそう思えない。それが、なんだか悲しかった。
居酒屋で男性ホルモンがギンギンに満ち溢れたオジサマに出会ったときもまた同じ。
お酒を飲みながら「結婚しちゃう?」なんて言われて、キャッキャッしているうちは楽しかったんだけど。
徐々に距離が縮まっていくなかで、そのオジサマに「あれ、もしかしてちょっと本気?」という空気を感じた瞬間、一気に引いてしまう自分がいたりして。
なんだろう、目の前の恋愛めいたものにリアルさが増すと引いてしまうというか。
「始まってしまったらどうしよう」って急に怖くなってしまうというか。
普段はこんだけ働いて、休日はできるだけ実家に帰省して親の介護。
こんなときに恋人がいたら、話を聞いてくれたり、支えてくれるのかもしれない。
でも、今の私はそんなメリットよりも「気を遣う人間がもうひとり増える」というデメリットにやっぱり目を向けてしまう。
で、その人の様子をうかがいながら、嫌われないように気を回しながら、生活することを考えると「もう、いらない、いらない!」になっちゃうっていうね。
この元凶はきっと、単純に“性欲”。
今の私には性欲がないからそうなってしまうのだと思います。
そもそも、性欲というものは恋愛の原動力として必要不可欠なもので。
ぶつかりあうように性を交えながらお互いのことを知り、性欲があるからこそ喧嘩をしても諦めず、性欲に掻き立てられるように関係を築き修復し、体と心を求め合いながら人間は成長していくわけですよ。
だからこそ、その原動力がないなかで恋愛関係を築くのって、本当にすごく大変なんだよね。
性欲がガス欠状態なのは地元の独身仲間もまた同じ。
2~3年前に「焼き鳥屋で出会った人にときめいた」という話をしたのを最後に、最近はパタリと恋愛の話題が出なくなり、今の私たちが交わす話題と言ったら主に山の話。
昨年も皆で金毘羅山に登ったんですけど、今年の夏は富山の立山登山を計画しているんですよ。
もはや、独り身の50代にとって大事なのは恋よりも健康。
ちゃんと自分の足で立って日々を生き抜いていかないといけない、そんな思いが登山に繋がっているのかもしれない。
また、人間は不思議と歳を重ねると自然に目が向くようになるもんなんだよね。
若い頃は自然よりも街に目を向けて刺激を探し求めていたけど、今はもう、そんな体力がないから。
街に出ても用事を済ませたらすぐに直帰するから。
無駄に街ブラする気力も好奇心も減少の一途を辿るばかりだから。
それよりも、緑に囲まれ、足腰を鍛えながら、フレッシュな空気の中でエネルギーをチャージしたい。今の私は大自然の中で“性”ではなく“生”を感じたい‼︎
性欲を失いつつある今、少しの妄想とトキメキさえあればもう充分。
私は“男”ではなく“山”に抱かれていたい。
山はいい、山は裏切らない、見上げればいつもそこにいて、包み込むような癒しを届けてくれる。
だからこそ、人生や恋愛に疲れた老齢の女達は今日も山へと向かうのです。
器のでかい男(山)に抱かれ、満たされ、心の傷を癒すために……。
聞き手・構成/石井美輪 題字・イラスト/中村桃子
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©三山エリ
- 著者プロフィール
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大久保佳代子(おおくぼ・かよこ)
タレント。1971年5月12日生まれ、愛知県出身。千葉大学文学部卒業。1992年、幼なじみの光浦靖子と「オアシズ」結成。「めちゃ×2イケてるッ!」でのブレイク後、バラエティ番組にとどまらず、コメンテーターや女優としても活躍している。近著にエッセイ集『まるごとバナナが、食べきれない』など。
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