
第18回
安心、安定、価格も安い、バスと電車がやっぱり好き
更新日:2026/03/25
バスに乗っていたときのこと。
運転手さんがバス停で「すいません、すいません」と外にいる乗客に謝っていて。
どうやら、扉か何かが当たってしまったみたいなんですよね。
当の本人は「大丈夫、大袈裟にしないで!」って笑顔で答えていたんだけど、運転手さんはとても誠実な方でね。
そこでうやむやにせず、ちゃんと接触事故として会社や警察に報告。
ただ、そうなると、そのバスはもう使えないわけで。
私たちは一旦降りて、後続のバスに乗り換えることに。
すると、いきなり、バス後方から聞こえてきたんですよ。
「嘘つけ‼︎ そんな理由じゃないだろう‼︎」という大きな女性の叫び声が……。
その瞬間、「怖い」と「面白い」が入り混じり、私の気持ちは一気に高揚。
好奇心に掻き立てられるまま、私の中の赤川次郎があらゆる推理を開始。
「もしかしたら、この人は重大な秘密を知っているのかもしれない。バスの運行状況が乱れたことで何か恐ろしい事件が起きようとしているのかもしれないし、なんなら、バスに爆弾が仕掛けられているのかもしれない……」。
それに飽きたら今度は「私だって知っているのよ‼︎」と言い返せばよかったと、謎の展開に参加しなかったことを、これまた謎に後悔し始めたりして。
いろんな人が乗っていて、いろんな出来事が起きる、公共交通機関が私は好きです。
たまに「え、今もバスや電車に乗って仕事現場に通っているんですか⁉︎」と驚かれることがあるのですが、はい、普通に乗っています。
「Suica」片手にピッピッピッと、普通に電車やバスで通っています。
そもそも、私は運転免許を持っていないから、自分で車を運転することができないし。
有名な俳優さんやタレントさんなら社用車で送り迎えをしてもらうこともあるんだろうけど、私が所属する「人力舎」にはそんなものはないし。
車に乗りたいときはタクシーしか選択肢がないのだけれど、そのタクシーにだって“当たり外れ”があるわけで。
例えば、運転手さんの機嫌が悪いときだってあるし。
やたら話しかけられるのも疲れるけど、無言は無言で居た堪れない気分になるし。
道に迷ったり、渋滞にハマったり、予定時間に目的地に着けないことだってあるし。
だったら私は、安心、安定、価格も安い、公共交通期間のほうがいいって思っちゃうんだよね。
バスで一番好きなのは運転席の後ろの少し高くなっている席。
他の席よりも視界が広いというか、ついたてのすきまから運転手さんと同じ目線で景色を眺めることができるのがいいんだよね。
混んでいて立つときはなるべく後方へ。
乗客が前方にたまりがちだからこそ、あえて後ろに行くようにしています。
電車も座れないときはなるべく奥へ奥へと連結部分の近くへ。
若い頃は入り口付近に立って手すりにもたれるのが好きだったんだけど、今はもう疲れちゃうから、乗り降りする乗客の勢いに負けちゃうから。
目の前の座席に座る全員がメガネの男性だったりすると、ビンゴ感覚で「お、揃った♡」とついつい嬉しくなることも。
車内では乗客観察をすることもありますが、基本は外の景色を眺めているかな。
で、「お、すごい立ち漕ぎでママチャリ乗るじゃん。子供のお迎えかな」「こんな時間に制服の学生がたくさん。あ、テスト期間なのか」なんて、見知らぬ人の人生を勝手に垣間見た気分になったりして。
それができない地下鉄は普通にスマホでニュースやTikTokを見ていますね。
ちなみに、私ね、電車に乗っていても全然周りにバレないんですよ。
そもそも、芸能人がバレるのって、飛び抜けたスタイルの良さだったり、ハイブランドを身につけていたり、目立つ何かを持っているからなんだと思うんだけど。
私はどこにでもいるような体型だし、洋服もZOZOだし、最近なんてリュックだから。
オシャレよりも両手が空くことに重きを置いちゃっているから。
さらには、そこに武井壮くんのイタリア土産のマスコットを装着。
まるでJKのように。
これがいいんだよねぇ、地味なリュックが華やぐし、握ると安心するんだよねぇ。
バレないのは東京っていう土地柄もあるのかもね。
芸能人ごときで大騒ぎしないというか。
過去に一度だけ、東急世田谷線の中で中学生にトントンと肩を叩かれて、「大久保佳代子さんですよね?」と聞かれたことがあるんだけど。
そのときも私が小さく頷いただけで終了。
確認するだけして、彼女は満足気に去っていきましたから。
ワーもキャーも何ひとつ言わず、無言で。
上京したての頃、初めて一人暮らしをした西千葉。
当時はよく黄色い総武線のお世話になりました。
OL時代は小田急線沿いの登戸に住んでいて、帰宅するときの車窓から多摩川が見えるとなんだかホッとしたのを今でも覚えています。
芸人の仕事を始めてからはいろんな電車に乗っているけれど、私ね、東京の電車の複雑な感じも好きなんですよ。
慣れたつもりでいても、ふいに「え、乗り換えするのに何百メートルも歩くの⁉︎ それ、もう隣の駅じゃん‼︎」みたいな事態に陥る、永遠に攻略できない感じが。
バスや電車を愛する私ですが、過去には自動車教習所に通ったことも。
44歳くらいの頃、川村エミコちゃんと一緒に。
あのときは規定期間内に取得することができなかったけど、私はまだ、運転免許を諦めてはいない。
それこそ、地元のほうは東京みたいに公共交通機関が充実していないから。
「いつか戻る」可能性だってあるわけだから、54歳の今も「いつか取る」気で全然いる。
ただ、それがない今、乗ることができるのは自転車だけ。
でも、東京の道を自転車で走るのは結構恐ろしい。
バスに乗っていても「その自転車!危ない!」って瞬間、何度もあるから。
特に車道を走る自転車が増えてからは日々「運転手さん頑張れ!」の気持ちだから。
いやもう、あれは本当にリスペクトだよね。
だからこそ、バスの運転手さんのお給料は絶対にもっと上げたほうがいいと思う。
いくらもらっているか知らないけど。
そもそも、私にそんな権限ないけど。

聞き手・構成/石井美輪 題字・イラスト/中村桃子
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©三山エリ
- 著者プロフィール
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大久保佳代子(おおくぼ・かよこ)
タレント。1971年5月12日生まれ、愛知県出身。千葉大学文学部卒業。1992年、幼なじみの光浦靖子と「オアシズ」結成。「めちゃ×2イケてるッ!」でのブレイク後、バラエティ番組にとどまらず、コメンテーターや女優としても活躍している。近著にエッセイ集『まるごとバナナが、食べきれない』 (集英社)『パジャマあるよと言われても』(マガジンハウス) など。
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