大久保佳代子のほどほどな毎日

第11回

気を遣わず、手軽に寂しさを埋めてくれる、スマホが私のちょうど良い「相棒」

更新日:2025/08/20

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 今でこそ、誰もが当たり前のように使っているLINEやメールですが、私はむやみやたらに使いません。
 基本、やり取りは業務連絡や飲みのスケジュール合わせが中心。
 無駄な会話を交わすっていうことがほとんどないんですよ。

 その理由は「面倒臭い」から。
 老眼で文字も見えづらいし、若い子みたいに文字入力も早くできない、たった数行の文章を打ち込むだけで一苦労。
 ゆえに、返信ももちろん遅くてね。
 そのスピードは1泊2日から2泊3日がデフォルト。
 周りからは「大久保さんはいつも返事が遅いな」と思われているだろうし、なんなら、そう思ってもらいたい。
 そこはもう、早々に諦めていただきたいと思っております。

 昨夜も何通かLINEが届いたけど、返信したのは今日の朝。
「読みましたよ」の意味を込めて、一言だけでも軽く返事をすればいいのかもしれないけど。
 一個ボールを投げちゃうと、ラリーが始まっちゃうじゃないですか。
 で、また相手から返ってきて、それを受け止めて、また投げて……。
 終わりどころがわからなくなる、あの感じも私は苦手でね。
 だったら、いっそ無視してしまおうと。
 そうすれば、終わりどころも考えなくてすむから。
 私はボールをギュッと握ったまま、投げ返すこともなく、眠ってしまうっていうね。

 そんなラリーもですが、そもそも、LINEの文面を考えるのが一番面倒臭い。
 以前、お世話になっている某番組の某演出家の方から、何度スクロールしても終わらないような熱く長~いLINEをいただいたことがあるんだけど。
「これはちゃんと返事しないと」と寝かせていたら、返しどきがわからなくなっちゃって、結果、無視して終わったことも。

 また、何をするにもハラスメントが付きまとう昨今、遂にはLINEやメールにまで“マルハラ”なるものが誕生。
 文末につける句点の「。」に威圧感を覚え、そこにストレスを感じる若者がふえていると聞いたので。最近は私も意識して「。」を削除。
 でも、同時に「そこまで相手に合わせるのはどうなのか」と昭和世代のプライドや反骨精神が発動。
 さりげなく1~2個残してみたりして。

 文面どころか「。」にまで振り回されている自分に、なんだか疲れちゃうこともあるんだよね。
 で、返事を寝かせに寝かせた挙句、最終的には考えるのが面倒になって、スタンプだけをピロンと送っちゃったりして。
 自分の“大久保佳代子スタンプ”をね(笑)。

 LINEの返事を寝かせてしまうのは夜の時間の過ごし方が変わったのも大きいのかもしれない。
 昔はね、お酒飲んだり、酔ったりすると、人と繋がりたい願望が湧き上がりがちだったから。
 まだ“X”が“Twitter”だった時代には、酔っ払うたびにどうでもいいことを呟いては誰かからのコメントを待ったり、どんどん増えていく“いいね”の数にほくそ笑んだりすることもあったんだけど。
 今はそれすらも「面倒臭い」というか。
 誰かに心を乱されたくないし、誰のことも考えたくないし、面倒なことは明日にまわして、夜は静かに過ごしたい……。
 今の私は“自分だけの時間第一主義”になりました。

 で、昨晩、そんな私がLINEを返さずに一人で何をしていたのかというと、主にTiktok。
 アルゴリズムで次々に上がってくる自分好みの動画を眺めていたら、約5時間ほど、いつの間にか時間が溶けておりました。

 LINEにしろ、電話にしろ、人と話すのは気を遣うから「面倒臭い」。
 もともと、そう思いがちな性格ではあるものの、最近はその「面倒臭い」がどんどん加速。
 それはきっと、世の中が便利になりすぎたのもひとつの原因なんだと思います。
 暇だなと思ったら、Netflixで映画やドラマも見られるし、スマホでゲームもできちゃうし、本や漫画だってネットですぐに買って読めちゃう。

 今は寂しさを埋めるツールが山ほどあるから。
 友達に頼ったり、恋人に甘えたり、“誰か”の力を借りなくても、スマホ1台で自分の寂しさを埋めることがでてしまう。
 だからこそ、一人がどんどん心地よくなってしまうんだよね。

 こんなにも便利じゃなかった時代は、夜がすごく長かった気がします。
 今でも覚えているのが、上京したての頃、コンビを組む前の光浦(靖子)さんと長電話をしたこと。
 あの頃は一人暮らしの部屋にプラスチックの安い固定電話を置いていて。
 東京にも大学にもなかなか馴染めなかった私たちは、その寂しさを埋めるように、夜な夜な電話を掛け合ったんだよね。

 昔は恋をしているときも、夜がすごく長かったな。
 相手のタイミングを考えすぎてしまう私は自分から電話をかけることができず、連絡は常に“待ち”の姿勢。
 だからこそ、携帯電話を手放すことができなくて。
 夜中に何度もセンター問い合わせをしてメールをチェックしてしまったりしてね。
 あの頃は気を紛らわすものがなかったから、彼のことばかりをずっと考え続けて、どんどん重い女になっちゃって、最終的には生き霊を飛ばしたこともありましたからね。

 スマホ1台あれば孤独を簡単に紛らわすことができる。
 便利な世の中には助けられているけれど、そのおかげで、孤独がどんどん深まっているような気もします。
 それが良いのか悪いのかわからないけれど……。
 今日もやっぱり、LINEの返事をせずにTiktokを眺めてしまう私。

 今の私にとってスマホは、気を遣うこともなく手軽に寂しさを埋めてくれる、ちょうど良い相棒。
 今はまだチャットGPTに手を出していないから、A Iと友達になってはいないから、使いすぎて熱々になったスマホに「どうしちゃったの~、チンチンになっちゃって♡」と話しかける程度で済んでいるから、きっとまだ大丈夫だから……。
 しばらくはこのまま、スマホとの良好な関係を続けていきたいと思います。

聞き手・構成/石井美輪 題字・イラスト/中村桃子


©三山エリ

著者プロフィール

大久保佳代子(おおくぼ・かよこ)

タレント。1971年5月12日生まれ、愛知県出身。千葉大学文学部卒業。1992年、幼なじみの光浦靖子と「オアシズ」結成。「めちゃ×2イケてるッ!」でのブレイク後、バラエティ番組にとどまらず、コメンテーターや女優としても活躍している。近著にエッセイ集『まるごとバナナが、食べきれない』 (集英社)『パジャマあるよと言われても』(マガジンハウス) など。

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