
第3回
整う生活、深まる孤立、53歳の負のルーティン
更新日:2024/12/25
							 私の生活にルーティンが生まれ始めたのがコロナ禍です。
							 家で過ごす時間がグンと増え、ダラダラしていると1日があっという間に終了。
							 区切りなく流れていく日々のなか、人生を無駄使いしているような気がして「ちゃんと時間割を作ろう」と、ルーティンを設けるようになったんですよね。
							 ただ、それが、気づけばどんどん増えていて……。
							
							 毎日、朝は家を出る2時間前に起床。
							 まずは愛犬パコ美の寝起き散歩に向かい、帰宅後はパコ美のトイレを片付けてゴハンをあげて、それが終わったら、私の朝食。
							 6枚切りの食パンとコーヒー(インスタント)を朝食にいただきます。
							 その後は、歯を磨き、美顔器を10分あてて、掃除機をかけ、二日に一回はフローリングモップで床をふき、エクササイズを20~30分。
							 すると、ちょうど家を出る時間になっているっていうね。
							
							 ちなみに、今朝の行動も寸分違わず全く同じ、毎日同じ、ビックリするくらい同じ。
							 いやもう、本当に怖いよね。
							
							 最初はね、これが気持ちよかったんです。
							 ルーティンを達成するたびに「今日は良いスタートを切れたぞ!」って前向きな気持ちで家を出られたしね。
							 でも、最近はこのルーティンに自分自身が縛られてしまっているような気がするんですよ。
							
							 例えば、仕事帰りに「飲みに行かない?」と誘われたとします。
							 最初は「明日は8時に家を出ればいいから行こうかな」と思うんだけど「あれ、でも8時に出るなら6時に起きないといけないのか。だったら意外と時間がないな」と、誘いを断ってしまう自分がいたり。
							 二日酔いの日くらい怠ければいいのに、吐き気と頭痛に耐えながら、必死に掃除機をかけてしまう自分がいたりして……。
							
							 ルーティンは決して悪いことではないと思うんです。
							 一日が充実するし、そんな日々を過ごせている自分自身にも安心するし。
							 掃除をすれば部屋も綺麗になるし、美顔器をあてたりエクササイズをすれば私自身も綺麗になるしね。
							 全身鏡にうつる自分の裸体にガッカリすることもあるけれど、「エクササイズをやっていなかったらもっとヤバイことになっていたかもしれない」と気持ちが前を向いたりもする。
							
							 お肌も劣化の一途を辿るばかりですが「今日は美顔器をあててきたからきっと大丈夫」と、スッピンのままでも多少胸を張ってテレビ局に入ることができる。
							 日々の努力は安心材料になるし、「実年齢の53歳より、ちょっとイケているんじゃないか」という自信を届けてくれるんですよね。
							
							 でも、だからこそ、「これをやめたら、だらしないババアになるんじゃないか」「ダメな人間になってしまうんじゃないか」って、ルーティンを崩すのがどんどん怖くなっていってる今現在。
							 一人でいる不安、老いの不安、年齢を重ねるたびに不安は増えるばかり。
							 だからこそ、日々のルーティンを完璧にこなすことで「私は大丈夫」「一人だけど大丈夫」「53歳だけど大丈夫」と自分を保っているというか。
							 なんとか自分を正当化して成立させようとしているのかもしれない。
							
							 また、一人暮らしだとそのルーティンを完璧にこなせちゃうんだよね。
							 他者が介入しないから、自分のペースで動けちゃうから。
							 結果、居心地の良い自分の世界ばかりが構築されていって、どんどん他者に対して時間や感情を割かなくなっていく……。
							 あれ、ちょっと待って、もしかして、ルーティンのせいで私の孤立が深まっている?
							
							 またさ、自分に厳しく完璧を求めていると、他人にもついつい厳しくなってしまうんだよね。
							 スタッフの女の子がちょっと太っただけで「なんで努力しないんだろう?」と蔑んだ目で見てしまったり。
							 仕事現場でウーンと不満に思うようなことがあっても、若い頃は「はいはい、わかりました」って言えたのに、最近は「それはちょっと違うんじゃないの」の一言がこぼれ出てしまったり。
							 で、「あんなこと、言わなきゃよかった」「傷つけちゃったかな」と後悔。
							「もう、人に会うのはやめよう」と自己嫌悪に陥り、また家にひきこもって、居心地の良い自分の世界をどんどん広げていくっていう……。
							 あれ、やっぱりルーティンのせいで深まっているよね、私の孤立?(笑)
							
							 生活が整えば整うほど、孤立していく毎日、不寛容になっていく自分。
							「私が目指していたのはここじゃない!」と頭を抱える今日この頃。
							 今、私が心から望んでいることはただひとつ。
							 それは「もう、このルーティンを崩したい!」。
							
							 そのために、必要なのはきっと、他者の介入。
							 誰かにペースを乱されたり、振り回されることで、この自分の思い通りになる世界を壊してもらいたい。
							 本当ならば恋愛がベストなんだろうけど。それは一人でできるもんじゃないから。
							 いっそのこと、交換留学生でも招き入れてみようかしら。
							 いや、でもそんなことしたら、他人との生活に耐性のない私の心のほうが壊れちゃいそうだから。
							 とりあえず、今は“これ以上、ルーティンを増やさないこと”を目標にしよう。
							
							 朝だけでなく夜にも決まりごとが増え始めている最近、このまま行くといずれ丁寧な朝食とか作り始めそうで心配。
							 土鍋で白米を炊いて、魚焼いて、ちゃんと出汁をとった味噌汁を作ったり、なんなら、その味噌も自分で作り始めちゃったりして。
							 そうなると、もう2時間前起床じゃ時間が足りないから、4時間前に起きるのかな。
							 で、そのうち(片岡)鶴太郎さんみたいに14時に寝て20時に起きるようになったりしてね。
							 こないだ、「ヨガに5時間かけ、朝食を2時間半かけて食べ、瞑想したりもするから、20時に起きないと時間が足りないって」って、テレビで言っていましたからね。
							
							 先日、我が家の台所にうっかり置いてしまった“味噌の本”。
							 とりあえず、家に帰ったらそれを処分しようと思います。
						

聞き手・構成/石井美輪 題字・イラスト/中村桃子
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©三山エリ
- 著者プロフィール
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大久保佳代子(おおくぼ・かよこ)
タレント。1971年5月12日生まれ、愛知県出身。千葉大学文学部卒業。1992年、幼なじみの光浦靖子と「オアシズ」結成。「めちゃ×2イケてるッ!」でのブレイク後、バラエティ番組にとどまらず、コメンテーターや女優としても活躍している。近著にエッセイ集『まるごとバナナが、食べきれない』 (集英社)『パジャマあるよと言われても』(マガジンハウス) など。
 
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