大久保佳代子のほどほどな毎日

第1回

私の中の獣が目覚めた、過酷な富士登山

更新日:2024/10/23

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 ここ数年、恋愛やトキメキからは縁遠く、「私の性欲や恋心はもう枯れてしまったんだ」と、そう思って生きてきました。

 そんな私に異変が起きたのが今年の夏の出来事。
 ことの始まりは、友人宅のホームパーティーで出会ったひとりの山男、彼が私に投げ掛けた「大久保さん、今度、一緒に富士山に登りましょうよ」という一言でした。
 たしかに、それまでも富士山に登りたい気持ちはあった。
 でも、それはあくまでも日本人が平均的に抱くであろう「いつか登れたらいいなぁ」レベル。
 なのに、その一言に「登ります!」と即答してしまったのはきっと、単純に、彼が私のタイプだったからなんでしょうね。
 ただ、当時は冬の閉山時期だったため「山開きの時期が来たら挑戦しましょう」ということに。

 それ以来、富士山のことなんかスッカリ忘れていたのですが、今年の春、またもや友人宅で彼に再会。
「富士山どうですか、やる気はまだありますか」と確認する彼、そして、好みの顔面を目の前に「もちろん!」とまたもや即答してしまう私。
 結果、トレーニングをしたこともなければ、山なんてまともに登ったこともないこの私が、人生初の富士登山に挑戦することになったのです。

 登山に向けて、まずは専門店に一緒に行き必要なグッズを買うことに。
「これはデートだ、久々のデートだ」と心が湧き立ったのも束の間、店内で彼は真剣にグッズを選ぶゴリゴリの山男に変貌。
 私に登山靴を履かせ、斜面になった板の上を何度も上がり下がりさせて「踵は詰まっていますか、つま先は空いてはいないですか」と確認。その様子はデートどころかまるでリハビリ。
 さらには、何十分もかけて私のリュックを選び、最終的にはその姿を「もう、どれでもいいよ」の気持ちで眺めることに。
 それでも萎えかけた気持ちを奮い立たせ、店を出たときには「お礼に食事でも」と誘ったのに、「今、断食中なんで!」と眩しい笑顔を私に向けて去ってしまった山男……。
 あのときから、私たちの間には若干の温度差があったのかもしれない、いや、確実にあったのでしょう。

 それが明確になったのが登山当日です。
 新富士の駅に、私と友人、彼と登山仲間、2対2の男女四人が集合。
「ある意味、これはダブルデートなのかもしれない」とまたもや淡い期待に胸が高鳴ったのですが、楽しかったのはその一瞬だけ。
 登山口である富士山五合目にタクシーで向かっている途中に天気が激変。横殴りの雨と一緒に雹がパラパラと降りはじめ、そんな悪天候のなか登山をする羽目に。
 これが本当に辛くてねぇ。
 雨で視界が遮られ、目の前を歩く人の靴を見るのがやっとの状態。さらには頭のてっぺんから靴の中までビショビショ。
 なんとか山小屋まで辿り着いたものの、雨でメイクは全て流され、顔についているのは、申しわけ程度に毛が生えた眉頭だけ。
 本当に汚くてボロボロで情けなくて、山に登ったことを後悔するばかりだったんですけど、山小屋で一缶千円のビールを飲み始めたあたりから「この感じ、悪くないかも」と感じるように。
 なんでしょうね、大自然に囲まれて動物に近い感覚になったのか、それとも、危機的状況のなかで子孫繁栄の本能を掻き立てられたのか。
 私の中で眠っていた性欲という名の獣が目を覚まし、「この山男達に私の全てを見てもらいたい」という気持ちに……。

 また、険しい山道に苦戦する私達をサポートしてくれる彼等が本当に頼もしくて素敵でね。
 高い場所に登ろうとすればトンっと腰を支えてくれたり、強風が吹けば腕を絡めて守ってくれたり、そのたびにトクンとうずきはじめる恋心。
 下山後は三島駅でうなぎを食べて解散したんですけど、ふたりの山男の背中を「もう、どっちでもいい♡ 両方好き♡」の気持ちで見送りましたからね。
 これも一種のクライマーズハイなのでしょうか。
 富士登山に挑戦したことで、自分の限界を突破したというか、新しい自分が開花したというか、体の中にエネルギーとトキメキと性欲が満ち溢れるような不思議な感覚に。

 登山後、「色気がダダ漏れている」でお馴染みの、アルコ&ピースの平子(祐希)君とふたりで京都ロケをしたんですけど。これが、いつも以上に楽しくてねぇ。
 登山効果で性的なスイッチが入ったせいか、はたまた、久々に至近距離で男性の色気を浴びたからなのか……なんと、半年ぶりに生理がきたんですよ(笑)。
 もうサヨナラすると思っていたのに、舞い戻ってきた月の使者。あんなに不定期だったのに、今ではまた定期的にやってきているから、人間の体って本当に不思議ですよね。

 トキメキを取り戻した私は、若かったあの頃のようにまた、周りにいる男性に対して性的な視線を向けられるように。
 最近、30代半ばのかわいい男の子と出会ったんですけど、たわいもない会話のなかでふと「大久保さんの恋愛対象は何歳からなんですか?」なんて聞かれた瞬間、「もしかして、私のこと好きなのかしら♡」とポジティブ変換。
 このあいだまで「30代男子と恋愛なんてありえない」と言っていたのに「20代はないけど、30代だったら大丈夫かなぁ」なんて話を合わせちゃったりして。
 さらには、その男の子が他の女子と仲良さげにしているのを目にしただけで、心がザワザワと音を立て、無意識にその女子をにらみつけている自分がいたりしてね(笑)。

 恋愛に発展する可能性なんてないと自分でもわかっているのに、本能的に視線が動いたり、淡い期待や嫉妬心まで抱いてしまう……。
 はたから見れば愚かで滑稽かもしれない、でもいいんです、それでいいんです。今の私には全てが「また、こんな気持ちを味わえるなんて!(感動)」だから。
『青春と読書』読者の皆様のなかに「もう一度、トキメキを取り戻したい」という方がいらしたら、本能と性欲を呼び覚ます過酷な富士登山、マジでオススメです(笑)。

聞き手・構成/石井美輪 題字・イラスト/中村桃子


©三山エリ

著者プロフィール

大久保佳代子(おおくぼ・かよこ)

タレント。1971年5月12日生まれ、愛知県出身。千葉大学文学部卒業。1992年、幼なじみの光浦靖子と「オアシズ」結成。「めちゃ×2イケてるッ!」でのブレイク後、バラエティ番組にとどまらず、コメンテーターや女優としても活躍している。近著にエッセイ集『まるごとバナナが、食べきれない』など。

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