大久保佳代子のほどほどな毎日

第13回

「骨折」が届けてくれた、改めて「自分」と向き合う時間

更新日:2025/10/22

  • Twitter
  • Facebook
  • Line

 ロケバスに乗り込もうとした瞬間、段差で足首をグニャリ。
 尋常じゃないグニャリに「あ、やばい、これはやったな」と。
 そう思ったものの「まあ、捻挫くらいだろう」とたかをくくっていた私に、波田陽区をイケメンにしたような整形外科医は告げたのです。
「残念です、骨折しています」という本当に残念すぎる一言を、半笑いで。

 そこから、まさかの松葉杖生活がスタート。
 実は、最初は「松葉杖なんて余裕でしょ」と思っていたんですよ。
 なぜなら、小学6年生のときに音楽室のピアノの下敷きになって足の指を複雑骨折。
 そのときに半年間くらい松葉杖生活をしたことがあったので。

 だがしかし、そこには約40年という長いブランクが……。
 大人になり、体重が増え、運動神経も劣化するばかりの今となっては、これがビックリするくらいしんどい‼︎
 手も痛いし、脇も痛いし、なぜだか腰もやたら痛い‼︎
 思うように歩けない不自由な生活にストレスを感じながら、日々、なんとか生きております。

 そんな私のストレスを和らげてくれているのが『ゴゴスマ』で共演している皆藤愛子ちゃんです。
 昨年、彼女は私と同じ骨折を経験。
「入浴時にはギプスを保護するシリコンカバーが便利ですよ」「松葉杖のグリップにカバーをつけると楽になりますよ」なんて、役に立つ情報を沢山教えてくれるんですよ。

 そんな愛子ちゃんから「家の中の移動に便利ですよ」と薦められたのがキャスターつきの丸椅子です。
 これが本当にラクでね。
 ただ、油断すると椅子から滑り落ちてしまうことがあって、尻餅をついたときは痛みと情けなさで30秒間ほど絶望。

 また、椅子に座って動いている今の私には、何かを出したり片付けたりするのも大仕事で。
 気づけば、ドライヤーやら、美顔器やら、生活費需品がリビングの手を伸ばせば届く距離に大集合。
 部屋はどんどん荒れ果てていき、ベランダではストレスの溜まった愛犬パコ美が脱糞。
 この夏は、灼熱の太陽の下でカピカピに乾いていくう○こを、ボンヤリと諦めの境地で眺め続けておりました。

 そんな日々の中で感じているのが「一人で生きていくことの大変さ」です。
 東京で一人暮らしをスタートさせてから約30年、寂しいと思うこともあったけれど、結局は「一人が一番楽しいよね!」と自由を謳歌。
 でも、それも健康を害したら終わり。
 それどころか、自由を楽しんだぶん、後回しにしてきた苦労が一気に襲いかかってくるというか。
 一人で生きてきた代償を今、支払っているような感覚になったりして。

 そして、54歳にして「もう、誰でもいい。生理的に無理じゃなくて、常識があって、ちゃんと働いている人なら誰でもいい。お願いだから私と結婚して!」と急に自分を安売り。
 なのに全く売れる気配のない、今の私を支えてくれているのが女友達です。
 いとうあさこさんが「移動するのも大変でしょう」と車で送り迎えをしてくれたり、川村エミコちゃんがパコ美を散歩へ連れて行ってくれたり、他にも近所の友達に助けられまくりで。

 自分一人では本当に生活がままならないからこそ、友達の「何かあったら言ってね」「なんでもやるよ」という言葉に思い切り甘えさせてもらう日々。
 ただ、そもそも私は他人に甘えるのが得意じゃない人間なのでね。
 パコ美の散歩をお願いした友達から「ごめん、忙しいから無理」と断られた瞬間、「やるって言っていたのに!」とまさかの逆ギレ。
 そんな自分に驚き、「このままじゃ人間関係がおかしくなる!」と、すぐさまペットシッターさんを探して連絡。
「友達にパコ美を預けるのは週に一回」と決めて自制。
 最初はすごく感謝していたのに、甘えすぎると傲慢になってしまうから、人間って本当に恐ろしいよねぇ。

 不自由なことは多々あるけれど、だからこそ、見えてくる景色もあって。
 骨折生活は私に新たな“気づき”を沢山届けてくれてもいます。
 父親の介護もそのひとつ。
 今までは「他の人だと父の扱いは難しい、私じゃないと無理だ」って全部自分でやろうとしていたけど。
 私がいなくても母や義姉がちゃんとお世話。
 予定していた白内障の手術も何の問題もなくスムーズに終了してね。
 そこで、またもや私は気づき反省したわけですよ。
「“周りを頼らないこと”は、“周りを信用していないこと”の裏返しなのかもしれないな」って。

 若い頃の体と今の体は全然違う、それもまた骨折が教えてくれたことです。
 まず、ビックリしたのが、骨折して一週間後に医者から「骨の割れ目が開いています」と言われたこと。
 若い頃は「骨折なんて時間が経てば治るもんだ」と思っていたけど、どうやら50代の老体にはそれが通用しないらしい。

 そこで私は粉のカルシウムを飲み、ヨーグルトを食べ、アーモンドを食べ、ビタミンDを摂取。
 さらには、超音波骨折治療器までレンタル。
 私は頑張った、本当に頑張った、健康を取り戻すために本気で頑張った。
 だからこそ「良くなっていますよ」の一言を待っていたのに。
 先日、診察で言われたのは「悪くなっていないが、良くもなっていない」というまさかの一言で。
 ちっとも癒えない、治らない、本当に驚くほど牛歩ですからね、50代の回復力。

 周りの先輩達から「50代はいろんなことが起こる時期」と聞いてはいたけれど。
 親に関しても、自分に関しても、まあ本当にいろんなことが起きる。
 特に自分に関しては「いつまでも若い」つもりだったけど、実際は「しっかり老いている」、このズレがトラブルを招くんだろうな。
 だからこそ、今ここで気を引き締めることができたのは逆に良かったのかもしれないな。

 そんなことを考えつつ、松葉杖をつきながら、今日も私は心に誓うのです。
「もう二度と……私、骨折しませんから‼︎」と、ドクターX・大門未知子の口調で、このエッセイが世に出る頃には骨折が完治していること本気で祈りながら。

聞き手・構成/石井美輪 題字・イラスト/中村桃子

バックナンバー


©三山エリ

著者プロフィール

大久保佳代子(おおくぼ・かよこ)

タレント。1971年5月12日生まれ、愛知県出身。千葉大学文学部卒業。1992年、幼なじみの光浦靖子と「オアシズ」結成。「めちゃ×2イケてるッ!」でのブレイク後、バラエティ番組にとどまらず、コメンテーターや女優としても活躍している。近著にエッセイ集『まるごとバナナが、食べきれない』 (集英社)『パジャマあるよと言われても』(マガジンハウス) など。

バックナンバー

本ホームページに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
(c)SHUEISHA Inc. All rights reserved.