大久保佳代子のほどほどな毎日

第14回

心のスキマに忍び込んでくる 占いと都市伝説とスピリチュアル

更新日:2025/11/26

  • Twitter
  • Facebook
  • Line

 毎年、なんとなく年の始まりに目にする占い。
 2025年の私の運勢はとにかく悪かった。
 雑誌もテレビもどこを見ても運勢ランキングでは最下位のほうでね。
 また、その占い結果が当たっていると思わざるをえないほど、2025年は本当によくないことが立て続けに起きたんですよ。

 年明け早々、親の介護問題が勃発。
 バタバタと気持ち的にも眠れない夜が続き、それがやっと落ち着いたと思ったら、今度はまさかの骨折……。
 この54年間、占いを1ミリも信じてこなかった私ですが、ここに来てついに思ってしまったんですよね。
「もしかしたら、占いって当たるのかもしれない」って。

 占い師から何度も言われた「今年は彼氏ができますよ」「今年こそ運命の人と出逢えます」なんて言葉。
 その言葉に期待を高めた私は「この人なのか」「あの人なのか」と目を皿にして過ごしたのに、結果、いつも何も起きなくて。
 ただの“誰にでも色目を使うおかしな女”になっただけで一年は終了。
 今まではそんな経験ばかりだったからこそ、占いも、スピリチュアルも、私は信じていなかったんですよ。

 また、この業界は占い好きがとにかく多い。
 私の知り合いのディレクターさんもその一人で。
 占いでいろんなことを決めたり、周りの人を「気が悪い」とよくわからない理由で貶めたりして。
 で、それが自分の知り合いだったりすると、私もイラッとしてしまうわけですよ。
「おまえはその人の何を知っているんだ⁉︎」と。

 挙げ句の果てには、私が骨折したのを聞きつけたのか「最近、大久保さんに悪いことが起きそうな気がして。心配していたんですよ」なんて連絡してきて。
 ただでさえ、松葉杖生活で心身共に疲弊しているのに、「運が悪い」「気が悪い」「お祓いをしたほうがいい」って怖いことばかり言ってくるから。
 そこからはもう、何度連絡が来ても思い切り無視してやりましたからね。

 この出来事も以前の私だったら「何わけのわからないことを言ってんだよ」で終わるんだろうけど。
 なんせ、そのときの私は弱っていたのでね。
 次第に自分の運の悪さが気になり、今までスルーしていた雑誌や新聞の占い欄を見たり、朝の情報番組の星座占いをチェックしては「私の牡牛座は12位だ、今日はもうダメだ」と落ち込んだり。
 うっかり鏡を割ってしまった日には「何か悪いことが起きる知らせかもしれない」と怯え、何も起きなかったら「鏡が身代わりになってくれたんだ」と今度は感謝したりして。

 また、今年は7月5日に大災害が来るっていう予言もあったじゃないですか。
 そこでもね、うっかり買っちゃったよね、家庭用の発電機。
 でも、それはいつか来るであろう災害の備えでもあるから‼︎
 無駄じゃないから‼︎
 防災用品を準備するのは大事なことだから‼︎

 気づけば、どんどんスピリチュアルな世界に傾倒。
 そんな私が最近、気になっているのが異世界です。
 どうやら、この世界は異世界と交錯していて、多くの人が現実とは異なる記憶を共有しているらしくて。

 そのひとつが『ドラえもん』の主題歌です。
 皆さん、歌い出しの歌詞を思い浮かべてください。
「あんなこといいな~」を思い浮かべた人は多いのではないでしょうか。
 でも、それは間違いで、正解は「こんなこといいな~」なんですよ。
 なぜ、こんなにも多くの人が違う記憶を持っているのか……その理由は「異世界の人間だから」なんですよ‼︎
 って、今話したことは全部、テレビ番組からの受け売りなんですけど(笑)。

 でも、よくよく考えてみると、異世界ってあるかもしれないよね。
 例えば、渥美半島にある実家では今頃、家族が夕飯を食べているんだけど。
 それは私の頭の中にある「食べているだろうな」という想像でしかなくて。
 もしかしたら、全然違うことをしているかもしれないし、なんなら、そこに実家があり家族がいるというのも私の妄想で、何者かに記憶を上書きされたのかもしれない……。
 そう考えると、自分がリアルに体験していない物事はとても曖昧で、急に自分の世界に自信が持てなくなってきたりして。

 世界が大きく変わると言われている“風の時代”を迎えたせいでしょうか、それとも、人間がテクノロジーに支配されていくドラマ『ブラック・ミラー』を夜な夜な見ているせいでしょうか。
 不確かな世界への扉を次々と開けながら、急に新時代へと順応。
 声高に「異世界はある!」と言い出した、佳代子・54歳。
 でも、大丈夫です、まだ私は冷静です。

 先日、ドランクドラゴンの鈴木拓さんと、鬼ヶ島のおおかわらくんと一緒に飲んだんですけど。
 二人が都市伝説の話を始めて、C I Aの陰謀論を熱く語り始めたんですよ。
 あまりにも嘘みたいな話ばかりするもんだから「いち腐れ芸人のもとにそんな重要な情報が降りてくるわけないだろう」と、「その情報源はどこなんだ」と、問い詰めた結果、返ってきたのが「YouTubeで見た」という返事で……。
 本当、驚いてひっくり返っちゃったよね。

 そんな2人に「現実に目を向けて、地に足をつけて生きなさい‼︎」としっかり言えるくらい、私はとても冷静です。
 異世界などに興味は持ってみたものの、ぐるっと一周まわって着地。
 安心してください、私はまだまだまともです。

 人生には自分の思い通りにならない瞬間が多々あります。
 良いこともあれば、良くないことが続くことだってあるしね。
 そんなときは、自分を過信せず、とにかく周りの人達に感謝しつつ、確認作業を繰り返しながら慎重に生きていく。
 占いよりもそっちのほうがリアルに大事。

 2025年も残すところあとわずかとなりましたが、心が乱れそうなときは私の大好きな樹木希林さんの言葉、「おごらず、人と比べず、面白がって、 平気に生きればいい」を心の中で唱えながら…。
 今年の残り数ヶ月をなんとか無事に乗り越えたいと思います。

聞き手・構成/石井美輪 題字・イラスト/中村桃子

バックナンバー


©三山エリ

著者プロフィール

大久保佳代子(おおくぼ・かよこ)

タレント。1971年5月12日生まれ、愛知県出身。千葉大学文学部卒業。1992年、幼なじみの光浦靖子と「オアシズ」結成。「めちゃ×2イケてるッ!」でのブレイク後、バラエティ番組にとどまらず、コメンテーターや女優としても活躍している。近著にエッセイ集『まるごとバナナが、食べきれない』 (集英社)『パジャマあるよと言われても』(マガジンハウス) など。

バックナンバー

本ホームページに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
(c)SHUEISHA Inc. All rights reserved.