宇宙作家・村沢譲と宇宙好き漫画家・エミ先生の楽しい宇宙講座です。予備知識は一切不要!
今回の話題は、「恐竜を滅ぼした隕石、次に落ちてきたらどうなる?」

第8回
恐竜を滅ぼした隕石のナゾ
更新日:2025/04/09
- 地球に接近する小惑星「アポフィス」
-
今年の2月に「2024 YR4」という小惑星が、2032年に地球に衝突するかもしれないというニュースが流れました。もし本当なら大事件ですが、その後の観測によって衝突することはほとんどないとわかり、ホッとしました。
思えば地球は、約46億年前に誕生してから膨大な数の隕石と衝突を繰り返してきました。有名なのが、恐竜を滅ぼしたとされる巨大隕石の衝突です。
今から約6600万年前、現在のメキシコ・ユカタン半島の北部に、直径約10~15㎞もある巨大な隕石が落下しました。この隕石は、地名からチクシュルーブ隕石と呼ばれ、衝突した地点には、直径約170㎞以上の巨大なクレーター(隕石孔)ができています。
この衝突によって大規模な破壊と気候変動が引き起こされ、恐竜をはじめとする多くの生物を絶滅させたと考えられています。
これまで隕石の衝突は何度も起こっていますが、その痕跡であるクレーターは、地殻変動や侵食などによって、ほとんど消えてしまっています。
それでもアメリカ・アリゾナ州のバリンジャー・クレーターなど、衝突の衝撃のすさまじさを留めているものが世界中に残っています。
宇宙には、地球に近づく軌道をもつ小惑星、彗星などの小天体が数多く存在していて、それらは「地球近傍天体(Near-Earth Object=NEO)」と呼ばれています。
国際天文学連合(IAU)小惑星センターによると、2025年3月12日現在、地球に接近する小惑星の数は、発見されているものだけで3万7900個、その中で1㎞以上の大きさのものは861個、潜在的に危険な小惑星は2482個に及びます。
NEOの大きさは、直径数mから数十㎞までさまざまで、今でもこのような天体が、地球に衝突する可能性があるのです。
その中で近い将来、地球に接近する天体として注目されているのが小惑星「アポフィス」です。アポフィスは2004年6月に発見された直径約340mの小惑星ですが、地球に衝突する可能性はないことがわかっています。
しかし、アポフィスが通過するのは、地球からおよそ3万2000㎞の地点で、これは静止衛星の軌道(高度3万6000㎞)よりも地球に近い距離です。直径300m以上もある小惑星が、これだけ地球の近くを通過するのは、観測史上初めてのことです。
アポフィスが地球に最接近するのは、日本時間で2029年4月14日(土)午前6時46分です。そのときアポフィスは、私たちにどんな姿を見せてくれるでしょうか。 -
写真:Jim Wark/アフロ
バリンジャ―・クレーター(アメリカ合衆国アリゾナ州)
このような、隕石が落ちてきてできた大きな穴が、地球上にはいくつもあります。
- 隕石が落ちたらどうなる?
-
地球に大きな被害をもたらした隕石として記憶に新しいのは、2013年2月15日、ロシアに落下したチェリャビンスク隕石でしょう。
この日の午前9時過ぎ、ロシア南部の広い範囲で、上空を猛烈なスピードで横切って飛んでいく巨大な火球が目撃されました。
それはNASA(アメリカ航空宇宙局)の推定によると直径17m、重さ1万トンの隕石で、チェリャビンスク市街地の上空約45~28㎞で爆発、粉々になった隕石の破片が広範囲に落下しました。
爆発の衝撃波によって南北180㎞、東西約80㎞にわたって4500棟以上の建物の窓ガラスが割れるなどの被害が発生、負傷者は約1500人にのぼりました。
ロシアでは、1908年にも隕石による大爆発と考えられる事件が起こっています。
この年の6月30日午前7時過ぎ、中央シベリアのツングースカ川の上空で原因不明の大爆発が発生し、半径約30㎞にわたって森林が炎上。爆発地点から約2000平方㎞にわたって樹木が放射状になぎ倒され、多数のトナカイが焼け死にました。
この一件は「ツングースカ大爆発(ツングースカ事件)」と呼ばれ、宇宙から飛んできた直径約50~60mの隕石が、ツングースカ川の上空で大爆発を起こしたものだと推定されています。
2000平方㎞といえば、東京都とほぼ同じ面積です。この隕石が大都会に落下していたら、もっと大きな被害が出ていたに違いありません。
直径数十mの隕石でも、チェリャビンスクやツングースカのような被害が出るのですから、恐竜を滅ぼしたチクシュルーブ隕石のように、直径10~15㎞もある巨大隕石が地球に衝突したら、どんなことが起こるのでしょうか。
隕石の衝突地点にあった物質は、膨大な衝突のエネルギーによって蒸発していまい、その周りの物質は、えぐりとられるように飛び散ります。そのあとには直径100~200㎞に達する巨大なクレーターができるでしょう。
さらに衝突によって巻き上げられた土砂は、粉塵となって太陽の光を遮り、何年にもわたって地球全体が寒冷化して地球規模の気候変動が引き起こされるでしょう。この現象を「衝突の冬」と呼んでいます。
また地球の表面の約7割は海なので、隕石は海に落ちる可能性が高いことになります。
直径 10 ㎞以上もある隕石が海に落ちたら、その周辺では数百mを超える巨大な津波が発生します。現在の都市は海沿いにあることが多いので、多くの都市は津波に飲みこまれてしまうことでしょう。
巨大隕石の衝突は、人類の文明を滅亡させかねない脅威なのです。
- 隕石の衝突を避ける方法があります
-
ある天体が確実に地球に衝突することがわかったら、どうすればいいのでしょうか。
映画『アルマゲドン』のように、小惑星が地球にぶつかる前に爆破すれば? と思うかもしれません。しかし、この方法だと、爆破がうまくいっても小惑星の破片が地球に落下して、被害が出てしまいます。
実現性の高い方法として考えられているのは、その小惑星の軌道を変えてしまうことです。
現在は観測技術の発達によって、地球に大きな被害をもたらす小惑星の早期発見が可能です。小惑星が遠くにあるうちに、ほんの少し軌道を変えることができれば、地球に近づくときには軌道が大きく変わっているので、衝突を避けることができるのです。
具体的な方法としては、探査機を小惑星に衝突させることが考えられています。
小惑星「リュウグウ」を探査し、岩石を持ち帰った探査機「はやぶさ2」は、2019年4月、重さ2キロの銅のかたまりをリュウグウに衝突させることに成功しました。
さらに2022年9月、NASAは探査機「ダート(DART)」を小惑星「ディモルフォス」に衝突させ、小惑星の軌道を変えることに成功しています。
小惑星が地球に衝突する確率は、直径100mほどのものなら数百年に1度、1㎞ほどのものなら数十万年に1度、恐竜を滅ぼしたような10㎞以上のものなら1億年に1度程度と考えられていて、けっして高い確率ではありません。
しかし一度発生すると大きな被害が起こるので、小惑星の軌道の調査など、日頃から対策が行われているのです。
バックナンバー
- 著者プロフィール
-
村沢譲(むらさわ ゆずる)
青山学院大学卒業。ライター、作家。宇宙関連の著作の他、JAXAウェブページのインタビュー記事や「オデッセイ」「宇宙兄弟」など宇宙を舞台にした映画の解説を執筆。主な著作に『宇宙を仕事にしよう!』(河出書房新社)、『世界一わかりやすいロケットのはなし』(KADOKAWA)、『月への招待状』(インプレスジャパン)などがある。
-
高田エミ(たかだ えみ)
1963年生まれ。北海道出身。漫画家。1982年「りぼんオリジナル早春の号」(集英社)に掲載の「スーパー☆レディ」でデビュー。以後、少女漫画雑誌「りぼん」で長く連載を続ける。代表作に「ねこ・ねこ・幻想曲(ファンタジア)」「ジェニファー」他。子供の頃から大の星好きで、星の図鑑や星座盤を片手に、よく夜空を見上げていた。