宇宙作家・村沢譲と宇宙好き漫画家・エミ先生の楽しい宇宙講座です。予備知識は一切不要!
今回の話題は、「願い事をかなえてくれる? 流れ星の正体」
第4回
流れ星は彗星の子ども
更新日:2024/12/11
- 流れ星の正体は「宇宙のチリ」?
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夜空を見ていると、小さな明るい光が一瞬、すうっと流れて消えていくことがあります。これが流れ星(流星)です。
昔の人は、流れ星を「人魂(ひとだま)」だと考えていたようです。人魂とは、青白く光りながら夜空を飛ぶ、人間から抜け出た魂のことで、人間の死の前兆など不吉なものとされていました。
平安時代中期の貴族・菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)は回想録である「更級日記」に、夫が国司として地方に赴任する際、見送りに行っていた家人(けにん)たちが「この暁に、いみじく大きなる人だまのたちて、京ざまへなむ来(き)ぬる(この明け方にとても大きな人魂が現れ、京のほうへ飛んでいきました)」と話していた、と書き記しています。この「更級日記」に登場する「人魂」は、流れ星だったと考えられていますが、彼女の夫は翌年、任期途中で京都に戻ってきて亡くなってしまいます。「更級日記」の作者にとって、家人たちが見た人魂は不吉な出来事の前兆だったのです。
もちろん流れ星は、人の魂ではありません。その正体は、宇宙のチリです。
チリとは、宇宙を漂っている非常に細かな岩石や金属、氷などの粒で、星間塵(せいかんじん)やダストとも呼ばれます。
宇宙空間にある1ミリメートルから数センチくらいの大きさのチリが、地球の大気圏に飛び込んできて、地上100~数十㎞の高さで大気との摩擦で燃えて光る現象、これが、流れ星です。また、流れ星の中でも特に明るいものを「火球」、大気との摩擦で燃えつきずに地上に落ちてきたものを「隕石」といいます。
- 数多くの流星が見られる「流星群」とは
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1年のうちで何回か、たくさんの流れ星を見られる時期があります。多くの流れ星が、毎年ほぼ決まった時期に一定の方向から現れる現象を「流星群」といいます。
ほぼ毎年見られる流星群には、次のようなものがあります。
しぶんぎ座流星群(12月28日-1月12日)
4月こと座流星群(4月14日-30日)
みずがめ座η(エータ)流星群(4月19日-5月28日)
みずがめ座δ(デルタ)南流星群(7月12日-8月23日)
ペルセウス座流星群(7月17日-8月24日)
おうし座南流星群(9月20日-11月20日)
オリオン座流星群(10月2日-11月7日)
おうし座北流星群(10月20日-12月10日)
ふたご座流星群(12月4日-12月17日)
(※国立天文台HPより( )内は出現時期)
この中でも毎年多くの流星が現れる、しぶんぎ座流星群、ペルセウス座流星群、ふたご座流星群は「三大流星群」と呼ばれています。
流星群は、空のある一点を中心として、放射状に飛んでくるように見えます。その点を流星群の「放射点」といいます。
「しぶんぎ座」「みずがめ座」などの流星群の名前は、流れ星の放射点がある星座名からつけられています。しぶんぎ座は廃止されてしまった星座名で、現在88ある星座には入っていませんが、流星群の名前として残っているものです。
同じ星座に複数の流星群の放射点があるときは「みずがめ座η(エータ)流星群」「みずがめ座δ(デルタ)南流星群」などのように、放射点の近くにある星の名前がつけられています。また「4月こと座流星群」のように、活動が活発になる時期の名前がつけられていることもあります。
流星群が現れるのは、地球が太陽の周りを1年かけて回る軌道上に、多くのチリが集まっている箇所が何カ所もあり、そこを地球が通り過ぎるたびに、たくさんのチリが地球の大気圏に突入して、流れ星になるからです。流星群が毎年ほぼ同じ時期に見られるのは、このためです。
- 流星群を生み出しているのは「彗星」
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宇宙に大量のチリをまき散らしたのは、何ものなのでしょうか。
それは、おもに彗星です。彗星は太陽系の天体のひとつで、長い尾を引く姿から「ほうき星」と呼ばれています。最近では、2024年10月に地球に接近し、長い尾を伸ばした姿が日本からも観測できた「紫金山(しきんざん/ツーチンシャン)・アトラス彗星」が話題になりました。
彗星がやってくるのは、太陽からもっとも遠い惑星である海王星よりも、さらに遠い太陽系の果てです。そこには、太陽系が誕生した頃にできた、氷とチリが混じり合った小天体(氷微惑星)がたくさん存在しています。氷微惑星が、木星など大きな惑星の重力の影響で、太陽系の内側に向かうように軌道を変えると、彗星になって太陽に近づいていくのです。
彗星は、太陽から遠く離れているときには、小さくて凍りついた暗い天体です。そのため望遠鏡などで見つけるのは難しいのですが、太陽に近づくと、太陽の熱で温められて表面の物質が蒸発し、ガスやチリを噴き出します。このガスやチリに太陽の光があたって、輝きはじめます。
彗星は太陽に近づくほど多くのチリやガスを放出し、明るく輝き、尾を引くようになります。突然、華々しく姿を現すことを「彗星のように現れる」といいますが、彗星が輝きはじめると、地上から観測できるようになって、突然新しい天体が現れたように見えるのです。
彗星は、大きく分けて「核」「コマ」「尾」という3つの部分からできています。
核は彗星の本体で、大きさは数㎞~数十㎞ほどで、おもに氷や細かい岩石のかけらなどのチリでできています。彗星は氷にチリが混じった「汚れた雪玉」と呼ばれていましたが、最近の観測では、岩石をより多く含む「凍った泥団子」状態だとされています。
コマは彗星の頭にあるボーッと明るい部分で、核から噴き出したガスやチリが核を取り巻いているところです。コマは核よりもずっと大きく、10万㎞~100万㎞もあります。
尾は、噴き出したガスとチリが、コマからホウキのように長く伸びている部分で、長いものでは数億㎞に達します。彗星の尾は、彗星の進行方向後ろに伸びているように見えますが、実際は、基本的に太陽とは反対側に伸びています。これは、太陽から噴き出ている粒子の流れ(太陽風)などの影響によるものです。
太陽に近づき明るく輝いたあと、彗星は、太陽から遠ざかっていくにつれて再び凍った暗い天体に戻っていきます。
彗星にはハレー彗星のように周期的に姿を現すものがあり、便宜上、周期が200年未満の彗星を「短周期彗星」、200年以上の彗星を「長周期彗星」と呼んでいます。
約76年に一度姿を現すハレー彗星は短周期彗星、1997年に日本でも肉眼で観測できるほど明るく輝いたヘール・ボップ彗星は、周期約2530年の長周期彗星です。中には、周期が数千年から数万年のものや、一度太陽に近づくと二度と帰ってこない彗星もあります。
彗星が去っても、宇宙空間には、彗星の通り道に沿ってチリが帯状に残されていて、地球がそこを通りかかると、チリが大気圏に飛び込んで流星群になるのです。
流星群のもとになるチリを放出した彗星を「母天体」といいます。すべての流星群の母天体がわかっているわけではありませんが、オリオン座流星群の母天体はハレー彗星、ペルセウス座流星群の母天体はスイフト・タットル彗星とされています。
文字どおり、流れ星は彗星の子どもなのです。
2024年も残りわずかですが、今年のふたご座流星群の活動がもっとも活発になる時期は、12月14日頃と予想されています。翌15日が満月なので、月明かりの影響で流れ星が見にくくなるのは残念ですが、今年最後の天体ショーとなるふたご座流星群を見るため、夜空を見上げてみてはいかがでしょうか。
(ふたご座流星群の母天体は彗星ではなく小惑星フェートン(ファエトン)ですが、この天体も比較的最近まで、彗星のようにチリを放出していたのではないかと考えられています)
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- 著者プロフィール
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村沢譲(むらさわ ゆずる)
青山学院大学卒業。ライター、作家。宇宙関連の著作の他、JAXAウェブページのインタビュー記事や「オデッセイ」「宇宙兄弟」など宇宙を舞台にした映画の解説を執筆。主な著作に『宇宙を仕事にしよう!』(河出書房新社)、『世界一わかりやすいロケットのはなし』(KADOKAWA)、『月への招待状』(インプレスジャパン)などがある。
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高田エミ(たかだ えみ)
1963年生まれ。北海道出身。漫画家。1982年「りぼんオリジナル早春の号」(集英社)に掲載の「スーパー☆レディ」でデビュー。以後、少女漫画雑誌「りぼん」で長く連載を続ける。代表作に「ねこ・ねこ・幻想曲(ファンタジア)」「ジェニファー」他。子供の頃から大の星好きで、星の図鑑や星座盤を片手に、よく夜空を見上げていた。