宇宙作家・村沢譲と星が大好きな漫画家・エミ先生の楽しい宇宙講座です。予備知識は一切不要!
今回の話題は、「月へ行ったら、地球はどう見える?」。
第1回
月並みじゃない月の話
更新日:2024/09/11
月周回衛星「かぐや」のハイビジョンカメラ(望遠)による「満地球の出」
- 日々、その姿を変えていく月
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「この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば」
2024年のNHK大河ドラマの主人公のひとり、平安貴族の藤原道長が、この「望月の歌」を詠んだのは、娘の威子(いし)が後一条天皇の中宮になったお祝いの宴でした。望月とは、満月のこと。「満月に欠けるものがないように、この世に思うようにならないものはない」と解釈されるこの歌が書き留められているのは、同席していた藤原実資(さねすけ)の日記「小右記」の寛仁2年(1018年)10月16日の条です。
この日付は、旧暦(太陰太陽暦)です。
旧暦は、月の満ち欠けを基本とした暦で、1日は月が出ない新月、15日頃は満月になります。道長が「望月の歌」を詠んだ10月16日の夜も、欠けのない満月が輝いていたことでしょう。
月は新月→三日月→半月(上弦の月)→満月→半月(下弦の月)→新月と、日に日にその姿を変えていきます。これを「月の満ち欠け」といいます。
月は、太陽のように自ら光を発して輝いているわけではなく、太陽光を反射して輝いています。太陽に向いている月の半分(月の昼間の面)は、常に太陽光を反射して輝いているので、太陽から見れば月はいつも満月です。しかし地球から見れば、月は地球の周りを回っているので、地球と月の位置関係によって、月の太陽光が当たっている部分が増えたり減ったりしているように見えます。これが月の満ち欠けです。月はおよそ29.5日の周期で新月から新月、あるいは満月から満月へと満ち欠けを繰り返しています。
また月はいつも同じ面を地球に向けていています。日本では、月の黒っぽい部分が「ウスでお餅をついているウサギ」に見えるといわれていますが、月はいつも「ウサギが餅をついている面(表側)」を地球に向けていて、地球から裏側を見ることはできません(※)。
「月は自転していないから、いつも同じ面を地球に向けている」という人がいますが、間違いです。月がいつも同じ面を地球に向けているのは、月の自転と公転の周期が同じ(かつ自転と公転の向きも同じ)だからです。つまり月が1回地球の周りを回っている間に、1回自転もしているということです。このことを「自転と公転の同期」といいます。
月の公転と自転の周期が同じというと、特別なことのように思えるかもしれませんが、これは太陽系の他の惑星とその衛星にもよく見られる現象です。
1日のうちに月や太陽が東→南→西へと動いていくのは、地球が自転しているからです。地球は、北極と南極を結ぶ「地軸」を軸に、西から東へ1日1回転しています。これを地球の「自転」といいます。
満月は、地球から見て太陽の反対側にあるので、夕方に東から昇り、真夜中に南の高いところに見え、明け方、西に沈みます。満月の「月のウサギ」も月の動きに伴って、一晩のうちにほぼ180度回転します。もちろんこれも、地球の自転による見かけ上のものです。
月の黒っぽい部分が「ウスで餅をついているウサギ」に見えるのは、東の地平線から月が昇ってからしばらくの間です。真夜中になるとウサギは横倒しになり、明け方には耳を下にして西に沈んでいきます。真夜中過ぎからは、ちょっと餅をつくウサギには見えません(南半球では月の模様は上下逆に見えます)。
※実際には、月の公転軌道が楕円であることや月の自転軸の傾きのため、地球からは月面の約59%を観測することができます。
- 満月の13倍も大きい「満地球」
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将来、月面旅行が実現するとしたら、お月見と同じように楽しみたいのが「お地球見(?)」です。月で見る地球は、地球で見る月のように、昇ったり沈んだり、あるいは満ち欠けしたりするのでしょうか?
結論からいうと、月から見る地球も、月の満ち欠けと同じ周期(約29.5日)で満ち欠けします。ただし地球上で新月のとき、月から見る地球は、新月の逆の満月ならぬ「満地球(フルアース)」です。しかも月面で見る満地球の大きさ(面積)は、地球で見る満月の約13倍もあります。
地球で見る月が三日月のとき、月で見えるのはやや欠けた地球、半月のときは「半地球」、満月(月から見て地球が太陽と同じ方向)のときは、真っ暗な地球が見られます(暗い地球のところどころに、大都会の光が輝いているのが見えるかもしれません)。地球から見る月と月から見る地球は、おたがいに補完し合って、合わせるとまん丸になるように輝いています。
ちなみに満月のように欠けていない地球を「満地球」、半月のように半分欠けた地球を「半地球」といいます。これらの言葉が生まれたきっかけは、日本の月周回衛星「かぐや」(2007年9月打ち上げ)でした。「かぐや」が撮影した満月のような地球をなんと呼ぶかとなったとき、JAXAや「かぐや」にハイビジョンカメラを搭載していたNHKの関係者が話し合って「満地球にしよう」と決めた言葉なのです。
もうひとつ、月面から「地球の出」や「地球の入り」は見られるでしょうか? これは残念ながら「ノー」です。月面では日の出は見られますが、「地球の出」は見られません。
月の1日は地球の約29.5日(約30日)です。そのうち昼は約15日間、残りの約15日が夜なので、月からは、地球の時計で言うと約30日に1度、日の出が見られることになります。
一方、「地球の出」や「地球の入り」ですが、月はいつも同じ面を地球に向けているということは、月の表側(地球に向いている面)から地球を見た場合、地球は空のいつも同じ場所に浮かんで見えるということになります。たとえば、あなたが月の表側の中央あたりにいるなら、いつも真上に地球が見えているでしょう。
「地球の出」といえば月周回衛星「かぐや」がハイビジョンカメラで撮影した、月の地平線から青い地球がゆっくり昇ってくる映像がありますが、あれは「かぐや」が月を周回しているので撮影することができたものです。
もし私たちが月に家を建てるチャンスがあるとしたら、地球が見える場所がおすすめです。そして、地球が明るく輝く「満地球」の日を選んで「お地球見」を楽しみたいものですね。 -
地球でお月見をする習慣は、平安時代頃からあったといわれています。
- 月はどうやって生まれたのか?
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月がどうやってできたのか、「月の起源」は大きな謎です。
地球は、約46億年前、太陽が誕生したばかり頃、太陽の周りを取り巻いていたチリやガスでできた円盤の中で生まれました。チリはおたがいの重力で合体し直径数㎞くらいの「微惑星」になりました。微惑星はさらに衝突・合体を繰り返し、やがて直径1000㎞を超える原始惑星に成長します。さらに原始惑星同士が衝突・合体して、地球の元となる「原始地球」が誕生したと考えられています。
アポロ宇宙飛行士が月面から持ち帰った岩石の研究により、月は地球と同じ約46億年前に誕生したと考えられています。月の起源について、おもに分裂説・捕獲説・双子説・巨大衝突(ジャイアント・インパクト)説という4つの仮説があります。
分裂説は、月と地球はひとつの天体でしたが、自転速度が速くなり、地球の外側の物質(マントル)が遠心力でちぎれて、月ができたという説です。しかし、一部がちぎれて飛んでいくほどの高速回転は、難しいのではないかと考えられています。
捕獲説は、地球と月は別々の場所で生まれ、月が地球のすぐそばを通過したときに地球が月を捕獲したという説です。火星の衛星フォボスとダイモスは、火星のそばまでやってきた小惑星が、火星に捕獲されたものという説があります。しかし、実際に地球が重力で月を捕まえるのは、かなり難しいようです。
双子説は、地球と月がほぼ同じ場所で同時に生まれたという説です。地球が原始惑星の衝突・合体によってできたように、月も原始惑星の衝突・合体によって生まれたというものです。この説が正しいとすれば、地球と月の密度が、ほぼ同じになるはずですが、実際には大きく違うため、この説はあまり支持されていません。
そして現在もっとも有力視されているのが、巨大衝突(ジャイアント・インパクト)説です。この説は、約46億年前、原始地球が誕生したばかりの頃、火星くらいの大きさの原始惑星が斜めに衝突、原始惑星は粉々になり、地球のマントルの一部もはぎ取られて高温になり、宇宙に飛散。その一部が円盤のように地球を取り巻いて衝突・合体し、月になったというものです。この地球に衝突したとされる原始惑星は、ギリシャ神話の月の女神セレーネの母にちなんで「テイア」と呼ばれています。
アポロ計画で月から持ち帰ってきた月の岩石が、地球のマントルの物質とほぼ同じであることや、スーパーコンピュータのシミュレーションによって、生まれたばかりの月の表面がドロドロに溶けたマグマの海(マグマオーシャン)だった可能性があることなどがわかっています。これらをうまく説明できるのが、巨大衝突説というわけです。
しかし、巨大衝突が起こったとすれば、月の成分の大部分は衝突したテイアのものであるはずですが、実際には、地球と月の成分はほぼ同じだという矛盾が残ります。
月の起源は、いまだに結論には至っていません。
このように月は、私たちにとって身近でありながら、謎多き存在でもあります。
旧暦では、7月、8月、9月が秋とされ、8月はまん中の月なので「中秋」と呼ばれていました。その旧暦8月15日の十五夜に昇る月を「中秋の名月」と呼び、月見をする習慣が1000年以上前の平安時代頃からあったといわれています。
2024年の中秋の名月は9月17日。美しい月を眺めるだけでなく、そのミステリアスな謎に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
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- 著者プロフィール
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村沢譲(むらさわ ゆずる)
青山学院大学卒業。ライター、作家。宇宙関連の著作の他、JAXAウェブページのインタビュー記事や「オデッセイ」「宇宙兄弟」など宇宙を舞台にした映画の解説を執筆。主な著作に『宇宙を仕事にしよう!』(河出書房新社)、『世界一わかりやすいロケットのはなし』(KADOKAWA)、『月への招待状』(インプレスジャパン)などがある。
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高田エミ(たかだ えみ)
1963年生まれ。北海道出身。漫画家。1982年「りぼんオリジナル早春の号」(集英社)に掲載の「スーパー☆レディ」でデビュー。以後、少女漫画雑誌「りぼん」で長く連載を続ける。代表作に「ねこ・ねこ・幻想曲(ファンタジア)」「ジェニファー」他。子供の頃から大の星好きで、星の図鑑や星座盤を片手に、よく夜空を見上げていた。