知ってた? いまさらきけない宇宙の話 村沢 譲

第3回

太陽の爆発で地球は大ピンチ?

更新日:2024/11/13

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 宇宙作家・村沢譲と宇宙好き漫画家・エミ先生の楽しい宇宙講座です。予備知識は一切不要!
 今回の話題は、「太陽が大爆発すると、地球はどうなる?」


太陽観測衛星「ようこう」。太陽活動周期の1周期をほぼカバーする観測を行った。   ©JAXA

太陽系最大の爆発「太陽フレア」
 今年(2024年)5月、さらに9月から10月にかけて「太陽で大きな爆発が起こって、携帯電話やGPSが使えなくなるかもしれない」というニュースが流れたのを覚えているでしょうか。
 この爆発は「太陽フレア」といって、「フレア」とは英語で「炎」という意味ですが、天文の分野では太陽のような自分で光る星(恒星)で起こる巨大な爆発現象を指しています。太陽フレアは、太陽系で最大の爆発現象で、大規模なものの場合、放出されるエネルギーは水素爆弾数10万~1億個に匹敵します。
 太陽フレアは、太陽の活動が活発な時期によく起こります。それで今年の夏は暑かったのか、と思うかもしれませんが、太陽活動と猛暑や地球温暖化は、あまり関係ありません。これまでの数百年にわたる観測から、太陽の活動は、およそ11年ごとに活発な時期と穏やかな時期を繰り返していることがわかっています。これを「太陽活動周期」といいます。
 太陽活動が活発かどうかを見分けるカギになるのは、黒点の数です(太陽の観測は目を傷めるので、他の星とは違う特別な方法で行います)。太陽の表面に見える黒いシミのような部分を黒点といって、太陽活動が活発な時期には多くの黒点が現れます。黒点の周辺で突然、明るい光が発生する現象が太陽フレアです。逆に穏やかな時期は黒点の数が減り、まったく見えなくなることもあります。
 太陽フレアが発生すると、X線、ガンマ線などの電磁波が放射され、それにともなって大量の電気を帯びた高エネルギーの粒子がまき散らされます。
 2024~5年は、ちょうどこの太陽活動の極大期にあたっていて、国立天文台によれば、このニュースが流れた今年5月の初旬には、最大級の太陽フレアが何度も発生していたのです。
 太陽から飛んでくる電磁波や粒子は、私たち生物にとって有害なものですが、心配はいりません。地球の大気や地磁気(磁場)によってはじかれて、ほとんど直接地上に届くことはないからです。しかし、高エネルギーの粒子は、衝撃波となって地球の磁場をゆがめ、変動させます。これが「磁気嵐」と呼ばれる現象です。
 磁気嵐が起こると電波障害が発生したり、発電施設が故障して停電が起こったりすることがあります。
 1859年9月1日、イギリスの天文学者リチャード・キャリントンが観測した太陽フレアの場合、大規模な磁気嵐が発生し、世界各地で当時の最新技術だった電信ネットワークが故障。送電線に磁気嵐による電流が流れて、至るところで火災が発生しました。この太陽フレアは、観測史上最大のもので「キャリントン・イベント」と呼ばれています。
 近年では1989年、最大級の太陽フレアによって大規模な磁気嵐が発生した結果、カナダ・ケベック州では送電網が停止して9時間にわたる停電が起こり、アメリカの気象衛星の通信が止まるなどの影響が出ました。
 また太陽フレアが起こると、国際宇宙ステーションにいる宇宙飛行士たちも、通常の数倍~数十倍もの放射線を浴びることになり、危険です。そんなときには、国際宇宙ステーションの中の遮蔽のある部分に退避することになっています。

「日本書紀」にも書き記されていた赤いオーロラ
 今年5月には、11日の夜から12日の明け方にかけて北海道から西日本の各地で、さらに10月には北海道、関東、能登半島などでオーロラが観測されたことが、ニュースで取り上げられていました。オーロラも、太陽フレアと関係がある現象です。
 太陽からは、いつも電気を帯びた粒子が、高速で宇宙空間に流れ出ています。この粒子の流れを「太陽風」といいます。太陽風は地球にも吹きつけていますが、地球の磁気(地磁気)によってはね返されてしまい、直接地上に届くことはありません。
 太陽から飛んできた粒子は地球をかすめ、後ろ側へと吹き流されていきます。しかし、その一部は、北極や南極の上空から入り込み、大気中の酸素や窒素と衝突して光を発します。これがオーロラです。
 太陽フレアで放出された粒子によって激しい磁気嵐が起きると、ふだんは高緯度の地域でしか見られないオーロラが、低緯度の地域でも見られることがあります。緯度の高くない地域で見られるオーロラを「低緯度オーロラ」と呼びます。
 今回、国内のもっとも西の地域としては、兵庫県でオーロラと思われる赤い光が観測されています。「赤いオーロラ」の記録は古代から残されていて、奈良時代の日本の歴史書「日本書紀」の推古天皇二十八年(西暦620年)には「天に赤気有り」と記されています。また鎌倉時代の歌人・藤原定家の日記「明月記」の建仁四年正月十九日(西暦1204年2月21日)には、夜空に奇怪な「赤気(せっき)」が現れたことが記されています。
 オーロラの色といえば、赤やグリーン、ピンクなどが思い浮かびますが、日本で見えるオーロラは赤い色をしています。これは、オーロラの色が高度によって違うためです。オーロラの色は、およそ高度200㎞以上では赤、それより下では緑、さらに下ではピンクになります。日本から見ると、低い緑やピンクのオーロラは地平線に隠れてしまい、高いところで光を発している赤いオーロラだけが見えるというわけです。
地質年代「チバニアン」の名前の理由
 太陽から飛んでくる粒子をはじき飛ばして、私たちを守っているのは、地磁気です。
 地球は、北極がS極、南極がN極の大きな磁石になっていますが、地球のN極とS極は、数万年から数十万年に1度、何度も入れかわってきました。これを「地磁気逆転」といいます。
 地磁気逆転が最後に起こったのは、約77万年前のことです。溶岩が冷えて岩石になるとき、地磁気の向きを記録して固まります。そのためさまざまな地層を調べれば、その岩石ができた時代の地磁気の向きがわかるのです。もし、ある時期を境にして岩石が記録している地磁気の向きが逆になっていたら、その時期に地磁気逆転が起こったことになります。
 千葉県市原市を流れる養老川の岸には、約77万年前に起こった地磁気逆転を記録している地層が露出しています。この地層は、国際地質科学連合(IUGS)によって地質年代の境界の基準地に認定され、それに由来して約77万4000年~12万9000年前までの地質年代は、ラテン語で「千葉時代」を意味する「チバニアン」と呼ばれることになりました。

 世界各地で連続的な地磁気観測が行われるようになったのは、約200年前からです。その間、なぜか地磁気は弱くなりつづけ、過去100年で10%も減少しているといいます。地磁気が逆転するときには、数千年にわたって弱くなることがわかっていますが、現在は、地磁気逆転が起ころうとしている時代なのかもしれません。
 かつて火星には、大気も水もありましたが、約40億年前に磁場が消滅し、太陽風が直接吹きつけるようになって、大気がはぎ取られ、海が蒸発して、現在のような砂漠のような惑星になってしまったと考えられています。
 このまま地磁気がなくなってしまうことはないにせよ、弱くなりつづけていったら、地球の環境はどうなっていくのでしょうか。ふだんあまり意識することはありませんが、私たちの身の回りの環境は、太陽や地球の微妙なバランスの上で成り立っているのです。

著者プロフィール

村沢譲(むらさわ ゆずる)

青山学院大学卒業。ライター、作家。宇宙関連の著作の他、JAXAウェブページのインタビュー記事や「オデッセイ」「宇宙兄弟」など宇宙を舞台にした映画の解説を執筆。主な著作に『宇宙を仕事にしよう!』(河出書房新社)、『世界一わかりやすいロケットのはなし』(KADOKAWA)、『月への招待状』(インプレスジャパン)などがある。

高田エミ(たかだ えみ)

1963年生まれ。北海道出身。漫画家。1982年「りぼんオリジナル早春の号」(集英社)に掲載の「スーパー☆レディ」でデビュー。以後、少女漫画雑誌「りぼん」で長く連載を続ける。代表作に「ねこ・ねこ・幻想曲(ファンタジア)」「ジェニファー」他。子供の頃から大の星好きで、星の図鑑や星座盤を片手に、よく夜空を見上げていた。

イラスト©高田エミ/集英社

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