芥川賞受賞作『水滴』をはじめ、鮮烈な表現で沖縄の痛みを描き続けてきた作家、目取真俊。マイノリティ、民族に関わる広範なテーマを手掛けてきたジャーナリストの木村元彦。二人の書き手にとって、戦後80年はどのような意味を持つのか。沖縄というかけがえのない地域を通して、この国の現在、そして政治と文学について考察を深める対談連載。
2月に行われた第51回衆議院選挙では、高市自民党が316議席の記録的な大勝。沖縄選挙区もす自民党がすべての議席を獲得するに至った。一方、世界へ目を向ければ各地の紛争は止まず、混迷する中東情勢もいまだ解決の糸口が見えない。この状況下で日本、そして沖縄が進むべき道とは?

夕凪/PIXTA
第三部 日本と沖縄、揺らぐ現在地
第7回
国家の重責、沖縄の活路
更新日:2026/06/17
成功体験への過剰適応
- 目取真
- 猪瀬直樹の『昭和16年夏の敗戦』という本があります。日米開戦前に「総力戦研究所」の若いエリート集団がどう考えてもアメリカには勝てないという結論を出していた。石油、鉄などの資源や工業生産力の問題を検討したらそういう結論になる。にもかかわらず、アメリカが石油の輸出をストップしたら、日本はインドネシアの石油を取るため、南方に進出していくわけです。空挺団で急襲して石油基地を確保しているんですが、海路を断ち切られて日本まで運んでこられない。第一次大戦でドイツのUボートはイギリスの貨物船を狙って成果を上げていた。その戦訓を生かして米国の潜水艦は日本の輸送船を狙って石油を運ばせなかった。一方で日本の潜水艦は輸送船ではなく軍艦を狙う。対艦決戦主義で、日露戦争でバルチック艦隊を破った勝利体験に囚われている。『失敗の本質』という有名な本がありますよね。

『昭和16年夏の敗戦』(中公文庫)

『失敗の本質』(中公文庫)
- 木村
- 日本軍の組織的な敗因を追究している本ですね。旧日本軍は科学ではなく、情緒的なもので動いていて目的もあいまいであったと。
- 目取真
- その著者の中のひとり、野中郁次郎という経営学者が、日本軍の失敗の本質は成功体験への過剰適応にあり、それを克服できなかったことを指摘しています。
- 木村
- 成功体験というのは、勝利した日清、日露の戦争のことですか。カミカゼではないですが、戦術やテクノロジーの進化について行かずにその勝利の呪縛に自ら絡み取られていたということですね。そう言えば、最近、横山光輝の『史記』を読み直してるんですけど。

『史記』(小学館)
- 目取真
- あの漫画のですね(笑)。
- 木村
- あれも、同じことを言ってるんですよ。主人公の孫子が戦いっていうのは時代によって変わるものだから、戦略、戦術も硬直してはいけない、一回、勝って成功したから、それにとらわれるな、ということを孫子は春秋時代から言っていました。日本の軍略家は戦国大名を含めて、よく孫子を例えにも出しますが、実は分かっていなかったという強烈なアイロニーを感じましたね。
- 目取真
- 航空戦力が重要になって空母を生かした機動部隊が主力となっても、日本海軍は戦艦同士が撃ち合う大艦巨砲主義にとらわれていた。戦艦大和も武蔵もすでに時代遅れで、一発も敵艦に当てられないまま撃沈された。野中さんが対照的に評価しているのはアメリカ海兵隊です。陸・海・空軍があるなかで規模の小さい海兵隊はいつも不要論が出てくる。そこで生き延びるためには、常に新しい戦術、戦略を作り出すことが必要とされた。だから海兵隊は成功体験にこだわらず、常にイノベーションを続けていく。野中さんはこの点を評価し、経営の論理に持ち込むわけです。私はオール沖縄にも同じ問題があるのではないかと思っています。成功体験への過剰適応とイノベーションの弱さという問題です。「イデオロギーよりもアイデンティティー」と唱えた翁長さんを中心にオール沖縄は一時期、沖縄の衆議院4選挙区すべてで勝利しました。それが今回、まったく逆になってしまった。翁長さんが言った「腹八分、腹六分」でまとまるどころか、2区と4区では分裂さえしてしまった。初期の成功体験を自己更新できずに、翁長さんが亡くなって以降、保守系のグループや経済界が抜け、オール沖縄という組織を状況の変化に合わせて作り替えていくことができなかった。ただ、そこには日本政府の圧力と日本人全体の沖縄差別があったことを見逃してはいけないと思います。日本の安全保障を維持するために日米安保条約は必要だ。だけど自分たちが米軍基地の負担を負うのは嫌だから、遠く離れた沖縄に集中させておけばいい。沖縄の人口は日本全体の百分の一程度です。圧倒的な力関係によって沖縄への米軍基地集中という構造的差別が行われている。その暴力の前にオール沖縄は押し潰されようとしている。ただ、そうやって強引に辺野古新基地を建設しても、そのツケは日本人全体に返ってきます。一部のゼネコンと官僚、官僚と癒着した政治家たちは基地利権に群がって儲かるかもしれない。しかし、日本の財政危機が深まるなか、辺野古新基地建設で莫大な予算を使えば、そのしわ寄せは市民の生活に来ます。円安で燃料や工事資材が値上がりし、人件費も上がっていきます。政府は建設予算を9300億円と打ち出していますが、それで収まるはずがない。あと十数年かけて3兆円、4兆円かかっても完成する保証はない。その金を教育や福祉、医療、研究開発などに回せば、市民生活や社会全体のためになると思いますが、日本人の大多数にその意思はない。沖縄人を差別して苦しめていることへの疚しさもなく、自分で自分の首を絞めている自覚もない。辺野古新基地を進め、防衛予算を爆増させて儲けている者たちは、そういう有権者を見下して笑っていると思いますよ。
- 木村
- そのお金がどこにいって、どう回収されて、どういう利権になっているのか、それこそ調査報道が必要です。
政治・カネ・宗教
- 目取真
- 沖縄防衛局長を務めた官僚は、中央に戻って自分のポストを上げるのに精を出し、退職したら三菱重工、川崎重工といった企業に天下りしていく。自衛隊の幹部も同じです。企業は自民党議員に裏金を渡し、爆増する防衛予算で武器を売って儲ける。辺野古新基地建設を受注している大手ゼネコンも同じように天下りを受け入れ、裏金を渡して、防衛利権の構造ができていく。彼らからすれば、辺野古新基地はいつまでも完成しないで工事が続いたほうがいいわけです。米軍もいつまでも普天間基地を使い続けることができるので都合がいい。
- 木村
- 結局それで退職金も二度三度、受け取っているのでしょう。原発行政で言えば、高速増殖炉もんじゅが、94年に臨界に達し、95年のナトリウム漏洩事故以降、運転を停止していました。動いていないのに維持費だけでも年間200億円以上、その原資は国民の税金です。それで稼働実績がほとんどないまま、ようやく廃炉を決めたのが2016年。廃炉を終えるのが2047年と言われています。廃炉費用は最低でも3000億円以上と言われています。これだけ無駄な税金を使われているのに、日本原子力研究開発機構のOBらが福島の原発事故の後も多数、関連会社に天下っていたことが露見しました。もんじゅの担当幹部らも、退職後もんじゅの請負会社に横滑りで就任していて、ずぶずぶの関係だったことを東京新聞がスクープしました。もんじゅの廃炉の作業にミスがあってもかつての上司や先輩にはいいづらい。事故や隠ぺいが起こるのもこの天下り体質が背景にあります。

福井県敦賀市の高速増殖炉「もんじゅ」。 写真:イメージマート
- 目取真
- 経団連とか古いかたちの日本の経営者と政治の関係がいつまでも淘汰されないわけです。企業献金や裏金の見返りとして自民党議員は彼らの仕事を作り続ける。本来は消えていくべき産業がいつまでも残って、新しい産業が生まれる芽を摘んでしまう。韓国や台湾は選択と集中で半導体産業などを発展させてきた。日本は今回の選挙でも裏金議員が復活して、また同じことを繰り返そうとしている。このまま下降線を転げ落ちていきたいのか。
- 木村
- 裏金と、統一教会の問題も見事にシンクロしているんですよ、両方に関わっている議員があまりに多い。「TM特別報告」にも高市総理や萩生田議員以下、多くの自民党議員の実名が書かれていましたが、ネトウヨなんかが忌み嫌う外国勢力による日本のコントロールとはまさにこのことではないか。
- 目取真
- 私の学生時代、70年代後半から80年代前半には原理研が全国の大学にあって、琉球大学にも原理研の活動家が一人ですけどいました。私の高校の後輩には、統一教会に入ってしまい、うわさでは韓国で……。
- 木村
- 合同結婚式。
- 目取真
- 合同結婚式に参加して、そのあとは行方知らずになっている。以前は那覇の国際通り沿いに統一教会の施設があって、道行く人にアンケートを装って声をかけ、近くのビルの3階と4階にある施設に連れて行って中で勧誘していました。私も一回、様子を見に行ったことがあります。ただ、その施設はかなり前に閉鎖され、表立っての活動は見られなくなりました。私も関心が薄くなった中で、安倍元首相が宗教二世の山上被告に撃たれる事件が起きた。
- 木村
- 裏金もカルト宗教へのお墨付きもあってはならない立場の人たちがそれをやっていたことが露見した。政治家として絶対にこれはやってはいけないこと、矜持がある人間ならさもしく悪いことだと認識していることすら、今は普通に横行してしまっている。差別はいけないとか、属性によって人をおとしめてはいけないとか。選挙という大きなかじ取りの直前になって出てきたのにそれが看過されて、大勝がもたらされた。根底には骨抜きにされた教育がありますね。政治介入によってしっかりとした歴史を学ぶことができなかった世代が有権者の年齢になっている。
内向きの国
- 目取真
- 90年代以降の教育の問題を話しましたけど、当時、自由主義研究会の藤岡信勝が言っていたのは、南京大虐殺、慰安婦、沖縄の集団自決の軍命令、この3つは日本軍をおとしめるものであり、教科書から絶対に削除させる、ということでした。敗戦から50年の節目が1995年で、戦争体験者が社会の一線から退き、亡くなっていくなかで、日本がアジア諸国に行った加害の歴史の忘却が進んでいった。アジアの人たちから見ると、日本人は自らが行った植民地支配や侵略戦争の歴史に、どうしてこんなに無知、無関心なのかと怒りを覚えるはずですよ。やられた側はいつまでも忘れない。ところが、やった側は何事もなかったかのように振る舞うわけです。それが可能なのは、日本が明治以降ずっと持ってきたアジア諸国の人々への蔑視が、今も心の底に残っているからです。かつて日本人が一等国民で琉球人は二等国民、そして、朝鮮人、台湾人などその他は三等国民と差別していた。そのランクづけが無意識のうちに心に染み込んでいるとしか思えない。だから沖縄への米軍基地押しつけも平気なんです。アメリカ人や西洋の白人に対しては劣等感を抱き、アジアの人たちには優越感を抱いて排除しろ、ときつく当たる。外国人排除とは言っても、米軍排除とは言わない。
- 木村
- 満州国もそうでしたが、「五族協和」と言いながら、日本人が一番上で、漢人、満人、朝鮮人、蒙古人を完全に下に見ていた統治支配でした。戦後に満州から引き揚げる際にソ連兵に性接待をさせられていた女性たちの過去と現在を撮った松原文枝監督の『黒川の女たち』でそれが描かれていて、あの五族協和のプロパガンダシーンは不要ではないかという意見もあったらしいのですが、冗談ではない。満州国の本質、日本帝国主義の傀儡であったということを入れなければ、加害性が抜け落ちてしまう。「国策による宣伝につられて、満州にアジアの開拓に来たと思っていたが、中国人の住んでいた家を乗っ取ったに過ぎなかった」という証言をしっかりとあの映画は表しています。

©テレビ朝日
- 目取真
- それが弱い立場にある人々への日本人の基本姿勢だとしたら、外国の人々はそれをどう見て、どう受け止めるのか。円安が進んで、日本で働くより台湾や韓国で働いたほうが賃金がいいとなったら、日本を選ばないですよ。少子化による人手不足が進む中で、外国人労働者が入って来なければ、私たちの生活が回らなくなります。かつて、日本人も沖縄人もたくさん外国へ移民して行った。その歴史を忘れて、外国人排斥などと言っている。そのうち、お願いしても来なくなりますよ。円安で外国への留学生も減って、歴史認識も現実認識も内向きになっている。
- 木村
- 内向きになってますね。それは行動のみならず、言説も大きい。外国人に対する排外、排除のアピールが悲しいかな票に繋がっている現状がある。
- 目取真
- 高市首相にしても、タカ派的言動が国内では通用しても、外国には通用しないのは「台湾有事」発言一つを見ても明らかです。今の教育制度の中でエリートとして育てられてきた外務省の職員たちにしても、語学力や知識はあるかもしれないけれど、他国と渡り合える外交術がどれだけあるのか。米国に対しては何も主張できないし、日米地位協定の改定など口にもできない。沖縄から国連に行って発言する人たちが、もっと増えてほしいと思います。
目取真文学の普遍性
- 木村
- 先日、目取真俊作品が、東ヨーロッパでも普遍性を持って読まれていることを知る機会がありました。ポーランドのワルシャワ蜂起記念館の館長が京都の国際マンガミュージアムの戦争展に来て、新里堅進さんの沖縄戦の漫画を見たんです。そうしたら「この沖縄の戦争の構造は非常にワルシャワ蜂起と似ている、相似形だ」と言ったのですね。私は彼がどういう感想を持つのか、興味深くてインタビューをしながら、アテンドしていたんですが、「国家が民間人に勝ち目の無い無理な蜂起を呼び掛けてそれを最後は見捨てたということ、そして戦後、その悲劇に向き合おうとせずに歴史を修正して来たこと」。そこがワルシャワ蜂起と同じだと言う。ワルシャワ蜂起というのは、第二次大戦中のナチスドイツ占領下のポーランド市民に向けてロンドン亡命政府が蜂起を呼び掛けたもので、ソ連軍もこれに参戦すると宣言していたものです。しかし、ソ連は戦後のポーランド統治を考えて、レジスタンスの人々を見殺しにした。戦後、ポーランドがソ連を中心とする社会主義陣営に組み込まれ、モスクワの支配を受ける中でこの事件は歴史教育から排除され、公に口承することさえ許されなかったのです。ソ連の罪はもちろん問われていますが、ロンドンの亡命政府も無理な市街戦を女性や子どもにまで強いた責任は大きい。戦災孤児を集めて危険な地域に送り出して美談にまでしていましたから、それに対して私の友人のジャパノロジスト、アンナ・オミも「子どもを戦争に利用するな」と怒っていました。館長は特に大戦後に歴史教科書から、蜂起の真実が消されていたことと、沖縄戦に対して日本の歴史教科書が、教えなくなっていることを並べて指摘していました。ここまでの理解には、沖縄戦についてすごく丁寧に通訳してくれたポーランド人の大阪大学の留学生の存在が大きかった。その彼が目取真文学に傾倒している男で、『水滴』から読み込んでいて、実際、沖縄北部にも来ていてフィールドワークしているのです。ワルシャワ大学の日本語学科は100年以上の歴史を誇っていて、優秀な学生が多く輩出していますが、実は沖縄研究や慰安婦について熱心に調べている学究も少なくないのです。文学を介したこれこそ外交だと思いましたね。この学生の頑張りが縁で、ワルシャワ蜂起記念館は、マンガミュージアムの戦争展、特に沖縄戦の漫画の展示をポーランドでやろうということで、今、動き始めています。

ポーランド最高裁判所の前にあるワルシャワ蜂起記念碑。 写真:イメージマート
- 目取真
- ごく一部で確かに私の作品を読んでいるみなさんもいるかもしれないけれど、日本文化で世界で広く知られているのは、小説よりアニメや漫画だと思います。日本の小説が翻訳され、評価されている小説家もいますが、小説というジャンル自体が社会に与える影響力は落ちていると思います。
東アジアにおいて沖縄はどう生き抜くか
- 目取真
- 高市さんは私と同世代ですが、首相の地位にある人は、日本が生き残っていく上で重い責任を背負っています。私は1960年に生まれて、1972年までは米軍施政権下で暮らし、そのあと日本社会で学生時代は「しらけ世代」と呼ばれ、バブル景気や失われた30年を見てきました。日本という国が高度経済成長からバブルに至り、そのあと衰退していくのを見てきたわけです。日本がこのまま沈んでいくなら、沖縄はどのように活路を開いていくのか。そのことを考え続けています。
- 木村
- 石破茂さんなんかを、どう見ていましたか? 現職の総理としては13年ぶりにひめゆりの塔を訪問しました。
- 目取真
- 読書家で知識もあり、落ち着いて物事を見ようとするタイプかもしれないけれど、しょせんは高市首相と同じ穴の狢ですよ。2013年に彼が自民党幹事長の頃、沖縄の国会議員5人を辺野古移設容認に転換させて、記者会見を開いている有名な写真があります。当時沖縄では「平成の琉球処分」と言われました。おそらく彼は今の高市政権を憂えているでしょう。でも、自民党の中でタカ派であれハト派であれ、急進派であれ穏健派であれ、あるいはかつての「沖縄族」であれ、沖縄に対してやってきたことは本質的に同じですよ。ただ、かつては沖縄戦や戦後の米軍統治下の状況を知っていて、多少は沖縄に負い目を持つ議員が自民党の中にもいたわけです。

沖縄県糸満市、ひめゆりの塔。 写真:イメージマート
- 木村
- 戦争を直接知っている、あるいはしっかりとした文献を読んで想像力をはたらかせられる人材がどんどん減っていくのは、かなり深刻ですね。
- 目取真
- そう、沖縄から見れば、この現象はかなり深刻ですよ。今、日本政府や自民党が狙っているのは、9月の県知事選挙で玉城デニー知事を倒し、辺野古のキャンプ・シュワブのゲート前にあるテント村や浜のテントを撤去することだと思います。沖縄ではまだ工事用ゲート前で座り込みができています。横須賀基地や岩国基地で同じことができるかというと、難しいと思います。沖縄にはまだ基地反対の世論があって、座り込みを支持している人たちがいるから、手をつけられないできた。しかし、衆議院選挙に続き、県知事選挙でも政府の思い通りになる知事を作り出せば、反対運動を潰すチャンスだと考えて、一気に攻勢をかけてくるはずです。そのうち、スパイ防止法で基地にカメラを向けただけで逮捕される、という状況にさえなりかねない。
- 木村
- 沖縄における自民党支持者の人たちについて伺いたいのですが、歴史教育自体がかなり攻撃されて若い人たちに沖縄戦の記憶が継承されていない。それから、経済界に対する圧力。自民党こそ組織票として固めてきている。他に今回の選挙ですべての議席が自民党になったということの礎には何があるのでしょうか。
- 目取真
- 米軍基地を争点にする以前に沖縄の場合は、貧困の問題があります。名護市長選挙で自民党の市長が勝っている一番大きな要因は、米軍再編交付金を使った3つの「子育て無償化」政策にあります。保育料、給食費、子ども医療費の3つを無償化する、その財源に新基地建設容認で支給される再編交付金を充てる。沖縄の県民所得は全国でも最低レベルで、名護市は沖縄県の中で下のほうです。政府はよく分析しているんですよ。かつて、名護市でこの「移設」問題が起こった当初は、10年間で1000億円の北部振興策であるとか、島田懇談会事業で大量のお金を注ぎ込んだんですが、ハコ物建設中心でした。産業支援センターや食肉センター、国際交流会館などです。建設費は国が持っても、維持費は市の負担になり、後年度負担が大きくなっていく。稲嶺進さん(基地移設反対派の元市長)が当選した理由の一つは、維持費の後年度負担や建設受注企業の偏りなどを争点にして、国に依存しない財政のあり方を訴えたことが、市民に評価されたからです。政府の強引なやり方や工事の受注で反発する企業や自民党の一部を引き入れて、稲嶺市政が誕生したわけですよ。ただ、国は狡猾ですから、ハコ物建設だけでなく、市民生活に直結して、市民が直接利益を感じるようなところに再編交付金の使い道を変えたんです。そうやって給食費や保育料、子どもの医療費の無償化にも再編交付金を使えるようにした。今の渡具知武豊(とぐちたけとよ、ルビ)市長はそれを活用している。例えば保育料が1人あたり月に3万円として、2人いたら月6万円です。これが無償化されたら、毎月6万円が支給されるのと一緒ですよ。基地のことよりも、孫が助かると思ったら、おじいさん、おばあさんたちも孫のために自民党を勝たせたほうがいいと考える。県民の平均所得が日本全体の平均所得の7割ぐらいしかない中で、政府がうまく市民の手取りを増やすかたちでやってきた。それと、新基地建設工事で潤っている企業もある。辺野古のゲートに資材を運ぶダンプトラックも新車が目立ちます。土建業者は当然支持するわけですよ。その一方で、オール沖縄の候補者は、鉄軌道の建設を政策の中心に打ち出している。
- 木村
- 沖縄で検討されている南北を縦貫する鉄道計画ですね。糸満から名護に向けてという路線で検討されているという。確かに沖縄本島の慢性的な交通渋滞は厳しいと思いますが。
- 目取真
-
莫大な予算がかかるので実現性が低いし、仮に実現するとしても何十年もかかります。物価が高騰し、市民は目の前の生活に困っているのに、的外れな議論をしている。そのあたりはオール沖縄側の政策立案能力の弱さを示しています。オール沖縄が結成されたころ参加していた経済人の中には、沖縄経済の独自性や自律性をどう作っていくか、と考えていた人もいたと思います。その力を失ってしまった。ただ、基地か経済か、という二項対立は本来あり得ないことで、亡くなった翁長元知事が言っていた「基地は沖縄経済発展の最大の阻害要因」という言葉に立ち返って、政府が一時しのぎでばらまく米軍再編交付金に依存しないで、名護市や沖縄の独自の経済政策を出していくことが、オール沖縄には問われています。「台湾有事」の問題を含め、中国を中心とした秩序が形成されようとしている東アジアで、どう生きていくのかが問われているわけです。明国や清国の冊封体制下で琉球国は薩摩の支配を受けながら生きてきた歴史を持っているのですから、日本(ヤマトゥ)とは違った発想と行動が沖縄には必要です。
(2026年2月25日、沖縄県名護市にて対談)
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- プロフィール
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目取真俊(めどるま しゅん、右)
作家。1960年、沖縄県今帰仁村生まれ。琉球大学法文学部卒。1997年「水滴」で第117回芥川賞受賞。2000年「魂込め(まぶいぐみ)」で第4回木山捷平文学賞、第26回川端康成文学賞受賞。2023年第7回イ・ホチョル統一路文学賞受賞。著書:(小説)『目取真俊短篇小説選集』全3巻(第1巻『魚群記』、第2巻『赤い椰子の葉』、第3巻『面影と連れて(うむかじとぅちりてぃ)』〕(評論集)『ヤンバルの深き森と海より』(以上影書房)、『沖縄「戦後」ゼロ年』(日本放送出版協会)、(共著)『沖縄と国家』(角川新書、辺見庸との共著)。
ブログ「海鳴りの島から2」:https://awamori777.hatenablog.com/ -
木村元彦(きむら ゆきひこ、左)
ジャーナリスト。1962年愛知県生まれ。中央大学文学部卒業。アジア・東欧などの民族問題を中心に取材、執筆活動を続けている。著書に『誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡』『悪者見参 ユーゴスラビアサッカー戦記』『オシムの言葉』『争うは本意ならねど』(以上、集英社文庫)、『オシム 終わりなき闘い』(小学館文庫)など多数。『オシムの言葉』で2005年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。










