まるごとバナナが、食べきれない 大久保佳代子

第5回

完食できずに半分残った40代の『まるごとバナナ』

(『Marisol』2021年4月号掲載)

更新日:2022/10/26

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―歳を重ねて手に入れた〝おばさん〟の心地良さ―

 初めて出会った時は「この世に、こんな美味しいものが存在していたなんて‼」とかなりの衝撃を受けた『まるごとバナナ』。
 若い頃は、ボリューム満点であるのにも関わらず一瞬で完食。「もう一個いっちゃう?」と思っていたくらいなのに……。先日、久しぶりに食べてみたら、食べ切ることすらできませんでした。

 老いた両親がよく口にする「食が細くなった」という言葉。
 それを体現するかのごとく、実家の冷蔵庫の中には〝最後の一口〟みたいな残り物が沢山入っていてね。
 昔は「これくらい、ちょっと頑張れば食べられるだろう」と不思議に思っていたんだけど。いざ、自分が歳を重ねたらできない、食べることができない。

 実家同様に中途半端な残り物や食材で溢れつつある我が家の冷蔵庫。それをどう処理するか考えるのが、最近の日課に。
 以前なら、私がスマホを開き見るものといえば芸能ゴシップがほとんどだったのに、今見るのは主に『クックパッド』。
 他人の恋愛や情事はもうどうでもいい。若い女優の結婚報道を目にしたところで「そりゃするだろう」。それよりも自分の冷蔵庫の中身の方が大事。
 本当、年齢を重ねるたびにどんどん「どうでもいい」ことが増えていくよね。

 希望や期待を抱いていた頃は家を一歩出るだけで「素敵な男性と出会うかも」とオシャレしたりメイクしたり。
 でも、今は「素敵な男性と出会ったところでどうせ発展しないし」。スーパーや散歩に行くくらいなら、平気で部屋着のまま出かけますからね。
 それを世間では〝おばさん〟と呼ぶのかもしれないけれど、ある意味、それはとてもラクチン。

 若い頃は、周りの視線がやたら気になったり、経験もないから些細なことで落ち込んだりパニックになってしまったり。余計なことでいつも忙しかった。
 でも、無駄なことを気にしなくなった今は、自分の時間がたっぷりある。
 妙齢女子が韓流ドラマにハマる理由もそこだと思うんだよね。韓流ドラマって下手したら何十話もあったりするじゃない。時間がないと見られないじゃない。

 また、昔は誘われれば何にでも参加。興味もない飲み会に行っては、二次会、三次会、さらには朝方のファミレスにまでいたりして。
 でも、今はもう疲れちゃうから、そんなことできる体力ないから。
 飲みたい時は「ぼちぼち行く?」と、飲み友・いとうあさこさんに電話。いつものメンバーで、いつもの場所で、いつものメニューを楽しむ。
 何ひとつ失敗もなければ新鮮味もない時間を過ごすっていうね。
 
 年齢と共に性欲も減少。
 だからこそ、下心なく男性にフランクに接することができる、若い男子にも平気で下ネタを投げかけることができる。
 年々、エロスコミュニケーションもドライ&カジュアルに。

 若い頃に比べると生きやすくなった、ラクにはなった。だがしかし、なんだか失ったものも沢山ある気がする私の40代。
 今宵も〝おばさん〟という心地よいぬるま湯に浸りながら……。冷蔵庫の中に残った『まるごとバナナ』を頂きつつ韓流ドラマを再生。
 失ったトキメキと性欲を補填するかのごとく、画面の向こう側にいるヒョンビンに想いを馳せる佳代子なのでした。

若い頃は本当に大好きでペロリと完食できたのに。今では半分がやっと。そんな〝老い〟の切なさが詰まっている我が家の冷蔵庫。今の課題は賞味期限間近のワカメの消費。それを達成するため今日も『クックパッド』を開きたいと思います。

文/石井美輪

まるごとバナナが、食べきれない

大久保 佳代子

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©三山エリ

著者プロフィール

大久保 佳代子 (おおくぼ かよこ)

1971年5月12日生まれ、愛知県出身。千葉大学文学部卒業。幼なじみの光浦靖子と「オアシズ」を結成。『めちゃ×2 イケてるッ!』でのブレイク後、数多くのバラエティ番組などで活躍中。

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