まるごとバナナが、食べきれない
大久保 佳代子
第4回
七味の美味さがわかる、人生に刺激が欲しいお年頃
(『Marisol』2018年8月号掲載・単行本未収録)
更新日:2022/10/26
辛いもの、苦いもの、酸っぱいもの、料理に隠れている様々な刺激物。
多分、私はそれが世の中の平均レベルより好きではない。
つまり、早い話が苦手。
そもそも、お寿司も高校生くらいまでずっとサビ抜きで食べていたし。
刺身にワサビを少しのっけると美味い、それを知ったのは上京後、二十歳を越えてからですからね。
刺激物のなかでも辛いものは特に苦手。
辛さばかりが際立って料理の味がわからないし、何より、翌日のお尻も心配ですしね。
ただし、七味だけは別。カップ蕎麦を食べるときは絶対に欠かせない。
たまに、神社や祭りに七味の屋台が出ているじゃないですか。
若い頃は「こんなの誰が買うんだろう」と思い切り通り過ぎていたけど。最近は買っちゃうよね。屋台を見つけたら、覗いちゃう自分がいるよね。
若い頃は好んで食べなかった酢の物に関しても同じ。
「腹の足しにもならないし、誰がこんなの頼むんだ」と昔は思っていたけど。最近は頼んじゃうよね。サッパリしたものを求める自分がいるよね。
ある年齢を越えたら急に変わる味覚、結構あるあるですよね。
刺激物が苦手な私とは裏腹に、世の中には「辛いものが大好き♡」と言う女がたまにいる。
アイドルがその言葉を口にした時は、とりあえず嘘じゃないかと疑う。
「突拍子もない発言で注目を集めたいだけだろう」と疑う。
それが本気の発言ならば、今度は「私生活が上手くいってないんじゃないか」と疑う。「心に埋められない穴を抱えているのではないか」と疑う。
それは「ジェットコースターが好きなんです♡」と言う女に対しても同じ。
やっぱりね、食べ物にしろ、アトラクションにしろ、刺激を求める女って、ちょっとネジが外れているというか。想像力や危機回避能力が欠落している気がするんですよ。
もしかして、辛いものを食べたら刺激で体調が悪くなるかもしれない、ジェットコースターに乗ったら恐怖で心臓が止まってしまうかもしれない……。
あの安全バーや安全ベルトだって、私はまったく信用していませんからね。だから私はジェットコースターに乗らない、お化け屋敷にも入らない、遊園地なんてちっとも楽しいと思わない。『東京ディズニーランド』で楽しいと思えるのも「イッツ・ア・スモールワールド」だけですからね。
ただ、後先を考えず、目の前の刺激的な出来事に飛び込むことができる、そんな女性のことを羨ましく思うこともある。
ただでさえ、人生に刺激を求めることができないタイプの人間なのに。歳を重ねるたび、頭でっかちになっちゃって、腰はどんどん重くなるばかり。
さらに、最近は関節痛が酷くてねぇ。今の私はその刺激痛だけで手いっぱい。
恋の刺激を求める余裕も元気もないっていうね。
スーパーでエリンギを手にしたとき、ムラッとできるのか否か、それが私の健康のバロメーター。
「最近は元気がない」と言いながらも、こないだワインを飲みながら太めのコルクをしっかり握りしめていた自分が。
まだいける、まだまだいける、関節痛を乗り越えて復活する日はきっと近い。そのためにも……たまには、辛いキノコ料理でも食べてみようかしら。
辛いもの好きな女子は刺激や危険に鈍感。故にダメな男に引っかかっているイメージ。と言いながら、私も変な男と付き合ってばかり。辛さは七味止まりなのに、ジェットコースターにも乗らないのに(涙)
文/石井美輪
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©三山エリ
大久保 佳代子 (おおくぼ かよこ)
1971年5月12日生まれ、愛知県出身。千葉大学文学部卒業。幼なじみの光浦靖子と「オアシズ」を結成。『めちゃ×2 イケてるッ!』でのブレイク後、数多くのバラエティ番組などで活躍中。
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