『テクノ封健制』を読む 挿画:藤嶋咲子

第6回

『テクノ封建制』を読む 大澤真幸先生インタビュー【後編】

更新日:2025/07/23

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いま「テクノ封建制」という言葉が注目を集めている。ギリシャの経済学者であるヤニス・バルファキス氏が提唱したキーワードで、2020年代のさまざまな世界的変動を解き明かすカギになると期待されている。
「テクノ封建制」において、実は私たちの自由は奪われている。だが、私たちはその事実に気づくことができない。そこにこそ、二重の意味での悲劇が存在すると社会学者・大澤真幸氏は言う。どういうことだろうか。インタビューの後編をお届けしたい。(構成・斎藤哲也)


撮影:新井卓

自由を信じる者ほど、封建的支配に絡め取られていく

――『テクノ封建制』の思想的な意義はどこにあるとお考えですか。
大澤 テクノ封建制の脅威は、従来の資本主義的なシステムの中で活動すればするほど、テクノ封建制がますます成功して、自分の資本主義的な成功がなくなっていくという不幸な循環が生じるところにあるわけですが、この本はそれだけにとどまらない人間的な悲劇を示唆していると思います。
 というのも、資本主義の最大の魅力のひとつは、やっぱり「自由」だったと思うんですよ。いろんな問題があるにせよ、資本主義を肯定的に捉えるならば、「自分の努力次第で成功できる」「自分の意思で好きなものを選べる」という自由のシステムにこそ価値があったと考えることができます。
 もちろん現実には、大して努力していないのに儲けている人間もいるでしょう。それでも資本主義を擁護するとしたら、自由な競争のもとで、努力がある程度は報われるという見込みがあるからです。
 しかし、テクノ封建制のもっとも恐ろしい点は、この「自由」が幻想にすぎないという点にあります。たとえば、Googleで情報を検索して「自分の意志で選んでいる」と思っているとき、実際には、統計的に「あなたが選びそうなもの」がすでに絞り込まれていて、それを見て「お、これいいじゃん」と思ってクリックしている。
 つまり、客観的に見ると、あなたはクラウド領主の利益を最大化するための導線にそって行動しているにすぎないのに、本人はそれを「自由な選択」だと信じているんです。
 ここにこそ、テクノ封建制の真の怖さがあります。自由に見えて、実は不自由であるわけですが、その現実に多くの人が気づいていない。
 かつて自由が抑圧されていた時代には、人々は「自分が抑圧されている」と自覚できました。だからこそ「自由をよこせ!」と声を上げることができたし、抵抗や反抗が生まれた。でも、いま僕たちが置かれている状況は、それとはまったく違う。
 自分では「これほど自由な時代はない」と思っている、まさにその瞬間に、じつは最も自由が奪われている。これはもう、自由に対する最も悪質な攻撃と言ってもいいくらいで、それこそがテクノ封建制の最大の問題点だと思うんです。

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