
第3回
『テクノ封建制』を読む 石田英敬先生インタビュー【前編】
更新日:2025/06/18
●『テクノ封建制』の読みどころは
- ――ヨーロッパの左派的な理想とか、進歩主義的な考え方って、日本人にはちょっとわかりづらいところがありますよね。でもこの本の「お父さんへの語り」を読むと、彼らの挫折感や苦悩がよくわかります。
- 石田 本書の根本にある経済学の枠組みはマルクス主義ですが、いわゆる公式的なマルクス主義という感じではなくて、彼ら自身がつくり上げた独自の教養や経験に根ざしたものになっている。それがとても魅力的です。
- ――本書の中で特に面白かった部分、読みどころだと感じた点について教えてください。
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石田 僕がまず注目したのは、今回が初出ではないのですが「グローバル・ミノタウロス」という概念ですね。
グローバル・ミノタウロスとは、アメリカが世界中から資金を吸い上げる構造のことです。1970年代の「ニクソンショック」以後、アメリカは赤字国家でありながらも、ドルを基軸通貨とすることで、日本のような貿易黒字国からドル建てで富を吸収し、それを再びウォール街へと還流させる、という経済システムを確立しました。
バルファキスはこの怪物的な構造を、貢ぎ物を受け取る神話の怪物であるミノタウロスに喩えているわけです。このシステムは2008年の世界金融危機まで続き、いま私たちが目撃している、トランプによる関税問題とかのこれまた大きな経済的な変動は、まさにこの構造がいま大きな曲がり角を迎えていることを示している。
グローバル・ミノタウロスという枠組みは、戦後約80年のグローバル経済の構造が、どんな基盤の上に成り立っていたのかを説明する重要な見取り図になっています。この本を読むと、いまトランプの登場で起こっているグローバル経済の大変な混乱とはどのようなことなのか、その正体がとてもよく分かりますよ。
僕がこれまでやってきたのは、メディア文化や文化産業に代表されるような、第二次世界大戦後の消費社会がどう形成されて発達してきたのかを分析するような領域なんです。それを資本主義全体の歴史の中でどう位置づけるか。何がその基盤になっていて、どんな資本の動きがそれを支えていたのか。そうしたことが、本書では非常に明快に説明されています。