あなをかし、3分でわかる!「源氏物語」と紫式部 奥山景布子

第16回

平安時代のインドアの遊び

更新日:2024/04/24

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第15回では平安時代のスポーツを取り上げましたが、
室内で楽しむ遊びももちろんたくさんありました。
『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』
(集英社刊)の著者であり、平安文学研究者出身の作家・奥山景布子さんが解説します。

Q16 貴族たちのインドアの娯楽は?
A16 まずは音楽。他にボードゲームも。
「源氏物語」の用例では、「あそび」という言葉だけで管絃、つまり音楽の演奏を指す例がいくつもあります。ポピュラーな楽器は笛と琴(きん)で、それぞれ種類も多彩ですが、笛を吹くのは男性に限られます(女性の演奏事例は、弦楽器しか確認できません)。「光る君へ」第16回には、一条天皇が笛、定子中宮が箏で、合奏するシーンがありました。

 紫式部は箏(こと/そう、十三弦の琴)が得意だったようで、人から教えてほしいと頼まれるほどだったと、「紫式部集」には書かれています。

「紫式部日記」によれば、自宅には箏以外に、和琴(わごん/やまとごと、六弦の琴)や琵琶(びわ)もあり、また父の為時(ためとき)も、道長から演奏を請われるほどの腕前であったことが分かります。

 絵を嗜む人もいました。プロの絵師ももちろんいますが、「源氏物語」では光源氏や匂宮(におうのみや)が自ら絵筆を執る場面があります。少し後の世代ですが、実在の女性でも藤原歓子(かんし/よしこ、後冷泉〈ごれいぜい〉天皇皇后、道長の孫にあたる)のように「プロの絵師が恥ずかしくなるほど上手だった」(「栄花物語」三十六「根あはせ」)と言われる人もいました。

 他にインドアでの楽しみとして、現代のボードゲームに当たるものがいくつかあります。

「枕草子」の「つれづれなぐさむもの」の段には、「碁、双六(すごろく)、物語」とあります。碁は「源氏物語」でも空蝉(うつせみ)と軒端荻(のきばのおぎ)をはじめ、登場人物が碁を打っている場面が何カ所も見られます。

 双六は、「源氏物語」若菜下巻で、近江(おうみ)の君が賽子(さいころ)を投げる場面がよく知られていますが、現代の絵などでコマが設定されるものとは違い、木の盤の上に十二本の線を引き、そこに白黒それぞれ十二個の石を置く形式でした。物を賭けて行われることが多かったようで、「大鏡」では、伊周(これちか)と道長が夜を徹して賭け双六をする様子なども描かれています(内大臣道隆伝)。
 
 他に、漢字を用いたゲームとして、韻塞(いんふたぎ)や偏(へん)つぎがありました。
 
 韻塞は漢詩の知識が必須の高度な遊びです。古い詩集などから漢詩を引用し、その中の一字を空欄にして、その字が何かを当てるというもの。「源氏物語」では光源氏と頭中将(賢木巻)、夕霧の息子たち(東屋巻)、匂宮(浮舟巻)ら、男子のみが行っていて、これには後日、負けた方が勝った方にごちそうする「負態(まけわざ)」という宴が催されることもありました。

 偏つぎは、大河ドラマ「光る君へ」第3回で、まひろが左大臣家で参加し、勝ちすぎて他の姫たちを苦笑いさせてしまいました。偏と旁(つくり)を合わせて漢字を作る遊びです。これは現代にも似たものがたくさん売り出されているので、ドラマを見ていて「こんな昔からあったの?」と思われた方もいるでしょう。

「栄花物語」には、村上天皇や、春宮(とうぐう)時代の後朱雀(ごすざく)天皇が後宮の女性たちと興じた例(一「月の宴」、十六「もとのしづく」)があります。「源氏物語」では光源氏とまだ幼い紫の上(葵巻)、八の宮と二人の娘たち(橋姫巻)が行っていて、教育的な側面が感じられます。

タイトルデザイン/小松昇(ライズ・デザインルーム)

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『「フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』
(奥山景布子著、集英社刊)

著者プロフィール

奥山景布子(おくやま きょうこ)

1966年生まれ。小説家(主なジャンルは歴史・時代小説)。名古屋大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。主な研究対象は平安文学。高校講師、大学教員などを経て、2007年「平家蟹異聞」で第87回オール讀物新人賞を受賞し作家デビュー。受賞作を含む『源平六花撰』(文藝春秋)を2009年に刊行。2018年、『葵の残葉』(文藝春秋)で第37回新田次郎文学賞、第8回本屋が選ぶ時代小説大賞をW受賞。近刊は『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』(集英社)『ワケあり式部とおつかれ道長』(中央公論新社)など。文庫オリジナルの『寄席品川清州亭』シリーズ(集英社文庫)や、児童向けの古典案内・人物伝記も精力的に執筆。古典芸能にも詳しく、落語や能楽をテーマにした小説のほか、朗読劇や歴史ミュージカルの台本なども手掛ける。「紫式部」を素材にした書籍としては、ほかに紫式部と清少納言が現代の子どもに向かって話しかけるスタイルの児童向け伝記『千年前から人気作家!清少納言と紫式部<伝記シリーズ>』(集英社みらい文庫)がある。
公式ブログ http://okehuko.blog.fc2.com/.

RICCA(リッカ)

漫画家、イラストレーター。群馬県出身。児童向け作品を多く手掛け、漫画作品に、『<集英社版・学習まんが世界の伝記NEXT>津田梅子』(監修/津田塾大学津田梅子資料室、シナリオ/蛭海隆志)、『<集英社学習まんが日本の伝記SENGOKU>武田信玄と上杉謙信』(監修/河合敦、シナリオ/三上修平)、『胸キュン?!日本史』(4コマ漫画担当、著/堀口茉純、イラスト/瀧波ユカリ、集英社刊)。イラスト担当作品に集英社みらい文庫の『真田幸村と十勇士』シリーズ、『三国志ヒーローズ!!』(いずれも著/奥山景布子)ほか多数。歴史好き。推し武将、推し文豪の聖地巡礼にも赴く。ソロキャンプも趣味。X https://twitter.com/ricca_comic

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