あなをかし、3分でわかる!「源氏物語」と紫式部 奥山景布子

第15回

平安時代のスポーツ

更新日:2024/04/17

  • Twitter
  • Facebook
  • Line

平安時代のスポーツといえば蹴鞠! と思いつく方は多いのではないでしょうか。
でもそれ以外にも結構さまざまな競技があったようです。
『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』
(集英社刊)の著者であり、平安文学研究者出身の作家・奥山景布子さんが解説します。

Q15 平安時代にスポーツはあった?
A15 いくつかそれらしいものがあります。
 平安時代の貴族男性と聞くと、歌を詠んで女性に恋文を送ってのんびりまったり……というイメージだった人も多いかもしれませんが、大河ドラマ「光る君へ」のおかげで、そのイメージはかなり変わったのではないでしょうか。

 ドラマの第7回で男性貴族たちが興じていた打毬(だきゅう、ポロに似た馬に乗って行う競技)のアクティブさに驚いた方もいるでしょう(こうした時の装束は狩衣と呼ばれ、身幅や袖の形状などがより動きやすいものになっています)。

 打毬は奈良時代に唐から伝わった競技ですが、平安時代も中頃になるとあまり行われなくなったようです(江戸時代に八代将軍徳川吉宗によって再興、奨励され、現代でも宮内庁や山形市、八戸市の神社に伝わっています)。

「源氏物語」より少し前に成立した「うつほ物語」には打毬がちらっと登場します(祭の使巻)し、源高明(みなもとのたかあきら、914~983、光源氏のモデルの一人とされる。娘の明子〈めいし/あきらけいこ/あきこ〉は道長の妾)の著書「西宮記」にも宮中での催しとして記載があります。しかし「源氏物語」では、打毬とともに伝わった舞楽「打毬楽」を演奏した事例があるのみ(蛍巻)で、競技シーンはありません。

 同じく騎馬で行うのが騎射(うまゆみ)。馬を走らせながら矢で的を射ます。「源氏物語」では、六条院の夏の御殿に馬場が設けられています。

 もちろん、馬に乗らずに競技する歩射(かちゆみ)も行われました。騎射も歩射も、スポーツや娯楽だけでなく、公の儀式としての側面も持っており、正月十八日には賭弓(のりゆみ、歩射の勝負)が、五月五日には騎射が宮中で催されました。なお、五月五日に儀式に参列する時は、菖蒲を身につけることになっていました。

「大鏡」は、若い頃の道長が弓をとても好み、また名手でもあったと、複数のエピソードを伝えています。中でも有名なのは、兄・道隆(みちたか)が存命の頃に、東三条殿で甥の伊周(これちか)と競射した時の話でしょう。

 当時、道隆のせいで伊周に官途を追い越されていた道長。しかし、この競射では伊周を圧倒し、かつ自分の将来を占う予言的な言葉(后を出す、摂政になるなど)を放った上で、堂々と的の真ん中を射たという、パワフルな人物像が描かれています(「太政大臣道長伝」)。

 そして、平安時代のもっともスポーツらしい競技といえばやはり蹴鞠(けまり)。「源氏物語」若菜上巻で描かれる、猫のハプニングが有名ですが、実際に道長と行成(ゆきなり)が、皇太子(のちの三条天皇)やその弟の為尊(ためたか)親王、敦道(あつみち)親王らとともに競技に参加したことが、行成の日記「権記」長保二(1000)年二月三日条に記されています。

 他に相撲もあります。七月になると諸国から相撲人が宮中へ集められ、天皇の御前で取り組みが行われました。これを相撲(すまい)の節(せち、節会〈せちえ〉とも)と言います。

 さすがに相撲は、高貴な人は見るだけ? と思ったら、「大鏡」には、若い頃の宇多天皇が殿上間で在原業平(ありわらのなりひら)と相撲を取って投げられ、据えてあった椅子の肘掛けを折ったという話も(天、五十九代宇多天皇)。

 形は違っても、身体を動かし心を熱くするのは、昔も今も変わらないようです。

タイトルデザイン/小松昇(ライズ・デザインルーム)

好評発売中!

目からウロコの新解釈!
「源氏物語」のイメージが変わります!

『「フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』
(奥山景布子著、集英社刊)

著者プロフィール

奥山景布子(おくやま きょうこ)

1966年生まれ。小説家(主なジャンルは歴史・時代小説)。名古屋大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。主な研究対象は平安文学。高校講師、大学教員などを経て、2007年「平家蟹異聞」で第87回オール讀物新人賞を受賞し作家デビュー。受賞作を含む『源平六花撰』(文藝春秋)を2009年に刊行。2018年、『葵の残葉』(文藝春秋)で第37回新田次郎文学賞、第8回本屋が選ぶ時代小説大賞をW受賞。近刊は『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』(集英社)『ワケあり式部とおつかれ道長』(中央公論新社)など。文庫オリジナルの『寄席品川清州亭』シリーズ(集英社文庫)や、児童向けの古典案内・人物伝記も精力的に執筆。古典芸能にも詳しく、落語や能楽をテーマにした小説のほか、朗読劇や歴史ミュージカルの台本なども手掛ける。「紫式部」を素材にした書籍としては、ほかに紫式部と清少納言が現代の子どもに向かって話しかけるスタイルの児童向け伝記『千年前から人気作家!清少納言と紫式部<伝記シリーズ>』(集英社みらい文庫)がある。
公式ブログ http://okehuko.blog.fc2.com/.

RICCA(リッカ)

漫画家、イラストレーター。群馬県出身。児童向け作品を多く手掛け、漫画作品に、『<集英社版・学習まんが世界の伝記NEXT>津田梅子』(監修/津田塾大学津田梅子資料室、シナリオ/蛭海隆志)、『<集英社学習まんが日本の伝記SENGOKU>武田信玄と上杉謙信』(監修/河合敦、シナリオ/三上修平)、『胸キュン?!日本史』(4コマ漫画担当、著/堀口茉純、イラスト/瀧波ユカリ、集英社刊)。イラスト担当作品に集英社みらい文庫の『真田幸村と十勇士』シリーズ、『三国志ヒーローズ!!』(いずれも著/奥山景布子)ほか多数。歴史好き。推し武将、推し文豪の聖地巡礼にも赴く。ソロキャンプも趣味。X https://twitter.com/ricca_comic

本ホームページに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
(c)SHUEISHA Inc. All rights reserved.