あなをかし、3分でわかる!「源氏物語」と紫式部 奥山景布子

第2回

十二単を着るときは

更新日:2024/01/17

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2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』がついにスタート!
『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』(集英社刊)の著者であり、平安文学研究者出身の作家・奥山景布子さんが、毎週「源氏物語」と紫式部、その時代についてQ&A方式で解説します!
第2回は、平安美といえばこれ、十二単(じゅうにひとえ)のお話です。

Q2 貴族の女性は、十二単をどういうときに着ていたの?
A2 身分の高い人にお仕えするとき。
 実はいわゆる女房装束としての十二単は室町時代末期から使われるようになった言葉で、平安時代の用語ではありません。そのあたりも含めて、貴族女性の衣類について、ご説明していきましょう。

 貴族女性の基本の衣類は、まず下着としては、トップスに単衣(ひとえぎぬ)、ボトムスは袴。単衣はトップスといっても、袖丈も身丈もかなり長めに仕立てられるのが定番です。

 この上に、袿(うちき)を着ます。これは原則、気候や好みによって何枚重ねても構いません。「栄花物語」(第二十四「わかばえ」)には、二十枚も重ねて着ていたという記述もあります。

 ただ、こうした袿の着用は「過差」(度を超えた贅沢)との印象を与えるからと、枚数が制限されることも珍しくなかったようです。「紫式部日記」(寛弘五年十一月一日記事)では、女房たちの袖口を観察して「過差ではないか?」とちょっぴり意地悪な視線を送っている藤原実資(さねすけ)の様子が記されています。

 この重ねた袿の上に、打衣(うちぎぬ)を着ます。こちらは砧(きぬた)という木槌のような道具で打って艶を出し、滑らかにした生地で出来ていて、重ねた袿をまとめるような役割を果たしたようです。

 さらに表衣(うわぎ)を重ねて、その上から小袿(こうちき)を着ると、これでようやく貴族女性の日常着が完成します。特徴としては、上に重ねるものほど、サイズが小さくなっている、逆に言うと肌に近いものほど生地の面積が大きいこと。だから袖口を見ると何枚重ねているかが分かるわけですが、これは、汗や皮脂などをすべて下着である単(ひとえ)で吸収し、上に重ねているものになるべく移さないためと考えられます。この発想は現代の着物の襦袢の襟などにも残っています。

 さて、これではまだ十二単とは言えません。次はこれらの上に、さらにボトムスとして裳(も)を重ねます。これは後ろだけのロングプリーツスカートのような形で、紐で巻き付けて着用します。さらにトップスに唐衣(からぎぬ)という短いジャケットのようなものを羽織ると、ようやく十二単=女房装束の完成です。

 女房装束はあくまで「奉仕する」立場を示す正装。ですから、絵巻物などで、同じ画面に裳と唐衣を付けている人と付けていない人が描かれていたら、付けていない人(日常着)の方が主人格、身分の高い人ということになります。

 もともと、「女性がどんな衣装を着ているか」を、「重ねている袿の枚数+単」(袿が五枚なら五つ単)で表したのですが、武家の時代になり、貴族女性の装束について知識が乏しい人が、「十二単」を女房装束全体を指す言葉だと勘違いしたところから、この言葉が定着したと言われています。

 大河ドラマの第2回冒頭では、まひろが裳と唐衣を着用していましたね。「裳着(もぎ)」という当時の女性の成人式の場面でした。誰かに奉仕する場面ではありませんが、大人になり、社会への参加が可能になったことを意味する儀式だからと考えられます。

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『「フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』
(奥山景布子著、集英社刊)

著者プロフィール

奥山景布子(おくやま きょうこ)

1966年生まれ。小説家(主なジャンルは歴史・時代小説)。名古屋大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。主な研究対象は平安文学。高校講師、大学教員などを経て、2007年「平家蟹異聞」で第87回オール讀物新人賞を受賞し作家デビュー。受賞作を含む『源平六花撰』(文藝春秋)を2009年に刊行。2018年、『葵の残葉』(文藝春秋)で第37回新田次郎文学賞、第8回本屋が選ぶ時代小説大賞をW受賞。近刊は『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』(集英社)『ワケあり式部とおつかれ道長』(中央公論新社)など。文庫オリジナルの『寄席品川清州亭』シリーズ(集英社文庫)や、児童向けの古典案内・人物伝記も精力的に執筆。古典芸能にも詳しく、落語や能楽をテーマにした小説のほか、朗読劇や歴史ミュージカルの台本なども手掛ける。「紫式部」を素材にした書籍としては、ほかに紫式部と清少納言が現代の子どもに向かって話しかけるスタイルの児童向け伝記『千年前から人気作家!清少納言と紫式部<伝記シリーズ>』(集英社みらい文庫)がある。
公式ブログ http://okehuko.blog.fc2.com/.

RICCA(リッカ)

漫画家、イラストレーター。群馬県出身。児童向け作品を多く手掛け、漫画作品に、『<集英社版・学習まんが世界の伝記NEXT>津田梅子』(監修/津田塾大学津田梅子資料室、シナリオ/蛭海隆志)、『<集英社学習まんが日本の伝記SENGOKU>武田信玄と上杉謙信』(監修/河合敦、シナリオ/三上修平)、『胸キュン?!日本史』(4コマ漫画担当、著/堀口茉純、イラスト/瀧波ユカリ、集英社刊)。イラスト担当作品に集英社みらい文庫の『真田幸村と十勇士』シリーズ、『三国志ヒーローズ!!』(いずれも著/奥山景布子)ほか多数。歴史好き。推し武将、推し文豪の聖地巡礼にも赴く。ソロキャンプも趣味。X https://twitter.com/ricca_comic

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