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読み物


山に埋もれたトラック
更新日:2026/09/30
長い山旅をしていると、時々信じられないほどの奥地で昔の人の痕跡に出くわし驚かされることがある。痕跡といっても木の幹にきざまれた鉈目や釣り師の野営地の跡などではなく、もっと巨大なもの、たとえば放置された古い自動車などである。
北海道日高山脈で〈地図なし登山〉をしていたとき、パンケヌシ川の源流部の笹原のなかに昭和40年代の日産ブルーバードが朽ちて埋もれているのを見つけたことがあるが、今年の夏は南アルプス大井川東俣源流部で地面に埋もれかかった大型トラックに出くわした。
しかも1台ではなく、2台だ。いずれもタイヤが半分ぐらい地面のなかに埋まっており、自然の回復力の凄さを感じさせた。トラックだけではなく、現場作業員が寝泊りしていた飯場も鉄骨がむき出しでのこっており、林業作業者の現場施設が当時の雰囲気のまま保たれている。
一般人どころか普通の登山者もおとずれることのないような大自然のど真ん中である。経済成長が右肩上がりだった昭和の一時期、日本の産業界はこんな奥地にまで人員や機械や金属でできた資材を送り込むほど力があった。その歴史的事実をしめす産業遺跡といっていい。
自然が乱開発されることにはもちろん反対なのだが、こういった古い人工物が時間の経過とともに自然にのみこまれ、朽ちていく姿を見ると、それとは別に不思議な感慨がわきあがる。山奥を生活の場にしていた人々の息吹と、それがわずか数十年で早くも自然界の一部にかえりはじめていることでうかびあがる人間という存在の儚さ、虚しさ。どんな人たちがここで働いていたのかはわからないが、きっと彼らも山が好きだったにちがいない。そんな勝手な想像が浮かんできてしばらくその場にたたずんだ。


角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)
1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。




















