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読み物


夏山でシカ肉を食う
更新日:2026/10/14
今年の夏の山旅で一番のトピックはシカの肉が手に入ったことだろう。といっても猟期ではないので狩猟をしたわけではない。シカが目の前で勝手に死んだのだ。
いや、勝手というと少々語弊があるかもしれない。経緯はこうだった。仲間のひとりがいつも狩猟をともにしている猟犬を山に連れてきた。その猟犬が途中で行方をくらましたので、飼い主が藪(やぶ)の斜面を登って探しに行った。まもなく犬は見つかったが、その先で険しい崖が沢に切れこんでおり、下にシカの死骸が転がっていたという。どうやら犬に追われて逃げてゆくうちに崖から転落してしまったものらしい。
5人いた一行のうち、私をふくめた3人は秋になると鉄砲をかついで山を渡り歩くバリバリの狩猟者で、もう一人も元鉄砲撃ち、皆、野生動物の肉は大好物である。その日はイワナが釣れず腹をすかせていたこともあり、シカ肉を食いたいなぁと冗談を言っていたところに本当に転がっていたのだから天の恵みだとよろこんだ。
すぐにナイフで解体にとりかかった。皮をはいで背肉、内ロース、もも肉、バラ肉、脂、心臓、タンなど美味しい部位を回収し、ザックが重たくなったので、その日は2時間ほど下りたところで野営にした。それから2日間は背肉のタタキや刺身(生肉系は肝炎などのリスクがあるとされているので自己責任で)、バラ肉を煮込んだシカ汁を堪能した。夏なので放っておくとすぐ傷んでしまうので、のこりの肉は焚火の煙にあてて燻製にしたが、これがまた独特の味と薫りがくわわって極上の味だった。
その後、仲間が足をくじいたため山行は途中で中止となった。余った燻製肉は私が持ち帰り、それから10日ほどのあいだ朝食のパンにのせる具材としてありがたくいただいた。


角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)
1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。




















