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Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

肉や魚がどっさり

更新日:2026/03/11

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 1月16日にグリーンランドのシオラパルッに到着し、今年も犬橇(いぬぞり)活動がはじまった。世界最北の集落であるこの地にも日本とおなじように温暖化は直撃しており、海水温が上昇し、年々、結氷状態は悪くなってゆく。それにくわえて今年は12月の気温が上がらず、いつもにもまして氷がうすい。飛行場のあるカーナッからのヘリはいつ飛ぶかわからないので、結局いつものように友人のスノーモービルをチャーターしたが、これが今冬のカーナッ―シオラパルッ間の初走行だったようだ。つまり氷が張ってまもないため、まだみんなまともに犬橇に乗っていないということだ。冬の開始が年々後ろにズレてゆく。
 いつもそうだが日本からシオラパルッまでの移動中は本当に憂鬱だった。まず家族とはなれるのが寂しい。そして連日のように長時間フライトがつづき、また寝るのも機内や空港で数時間仮眠をとるだけなので疲れが全然とれない。そこに時差ボケが加わり、何よりも極夜の闇だ。昔は極夜そのものを探検の対象にえらんだ私だが、最近は年のせいか気持ちがしずむだけになった。疲れと特殊な環境のせいでまったく前向きな気持ちになれず、数日間カーナッでヘリをまっているあいだは友人の家をちょっとたずねただけで、あとはただ鬱々としていた。
 ところがシオラパルッに来て親しい人たちと会った途端にそれが一気に解消された。友人たちが次々と家におとずれ再会を祝してくれ、夕食に招いてくれる。もちろんそれは地べたに座りこんでクジラの皮(マッタ)と干し肉をもくもくとひとりで食べるという現地スタイルの食事だが、ぬくもりのある場所で落ち着くだけで、さあ今年もやるかという気持ちになるから不思議だ。生きるってやっぱり人間関係があってのことだな、などとつまらぬことも考えた。
 今年は村人たちから例年以上にたくさんの食材をいただいた。9月、10月とシロイルカの大猟がつづいたようで、マッタやヒレがたくさん集まった。あとはキビヤ(アッパリアスという海鳥を発酵させたもの)だ。去年の春は雪のせいでキビヤを自作できず、かわりにウーマという若い友人が作ってくれていた。これが100羽以上ある。現地の取引価格でキビヤは一羽あたり5~600円になるから、現金にすると7~8万円分に相当する。これはさすがにただでいただくのは悪いので、日本から新品のアイススクリューを持っていきウーマにプレゼントした。
 そのほか大島育雄さんからもマッタやキビヤ、干し魚、ジャコウウシの肉、ホッキョクイワナの燻製などたくさんいただいた。めずらしいものでは友人のイラングアからもらった発酵したセイウチ肉というのがある。ほかにも自分でカネを出して買ったアザラシの脂やセイウチの肋骨肉などをふくめると、もうこの時点で肉や魚に関しては今年は買う必要がないぐらいたくさんある。
 ちなみに写真の右にうつっているごつい肉のかたまりは犬用のセイウチ肉で、これは自分で食べるものではありません。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

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