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Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

カヤック狩猟

更新日:2026/01/28

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 10月の北海道の気象および海況がどのようなものか、メンバーのなかには、そんな時期に漕いだことがある者はいないのでまったくわからなかった。頭に浮かぶるのは荒々しい波が打ちつける冬の日本海のイメージばかりだ。そもそも本当に漕げるのか? という疑問さえわいてくる。
 イメージが覆されたのは、まず海水温だ。とにかく温かい。知床の海もそうだったのだが、はっきり言って鎌倉の海とさほどかわらない。
 昨今の鎌倉の海は秋になっても十分泳げるぐらいだが(クラゲは多い)、それと同じということはもしかしたら泳げるのではないか、ということでメンバーの亀田君は一度、晴れた日にパンツ一丁で海に飛び込み、「いやー気持ちよかったです」とちょっと鳥肌をぶつぶつさせてもどってきたことがあった。それぐらい海水温は高く、トローリングをして釣れるのもイナダばかりである。
 漕ぎながら寒さにぶるぶる震えることがなく、その点は旅の難易度をかなり下げてくれたと思う。
 ただ天気のほうはなかなか難しくて、すぐに低気圧がきてそのたびにうねりが入る。低気圧の通過後はかならず北寄りの風が吹き、風がやんでもほぼ丸一日波が強くてそれが止むまで待たなければならない。漕ぎだせるのは海面が静まり、次の低気圧が来るまでのわずかな時間だ。漕ぎだしてみたら予想以上にうねりが高く、沈(転覆)しないようにコントロールするので精一杯というときも少なくなかった。
 だから行けるタイミングで進まないと目的地にはたどりつけない。出発前は猟場でじっくり鹿を追って、食料を十分に確保してから先に進むつもりだったが、気象判断の難しさから猟よりもカヤックのほうを優先せざるをえなかった。そこがこの旅で一番難しいところだったと思う。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

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