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読み物


今年も娘と沢登り
更新日:2025/11/26
娘は小学6年生になった。去年から髪を染めるなどすっかり街場の文化にそまっており、11歳なのにギャル化が著しく進行している。自然の好きな子に育ってもらおうと小さい頃から山に連れまわしたのが仇となり、今では山に誘っても首を縦にふることはなくなった。
それでも沢登りはまだ渋々オーケーしてくれる。というのは、登山はだらだらと道を登るだけだが、沢登りは滝や淵があったりとわりとスリリングで、まだマシだからだ。去年は甲武信ヶ岳(こぶしがたけ)につきあげる本格的な沢に連れていったところ、「死ぬかと思った」とかなり怖かったみたいなので、今年は丹沢の葛葉谷川本谷(くずはがわほんだに)という小さな沢にした。
じつはこの沢、3年前に娘と一度おとずれている。そのときは中間の林道で娘がもう帰りたいと言いだして途中敗退となった。
沢は水量も少なく、簡単に登れる小さな滝が連続する初心者向きのコースである。こんな小さな沢でも、3年前は手を握りながらでなければ転びそうで危なかったが、小学校6年生ともなると体力が全然ちがって、私の前を勝手にぐんぐん進んでゆく。滝も私が後ろからアシストしなくても、次々と簡単に越えてゆくので写真を全然取れない。
2年前に敗退した林道まで1時間かかっただろうか。あっという間に通過してしまった。後半部に1カ所だけ、ここはちょっと危ないかなと心配な滝があった。ホールドはしっかりして登りやすいのだが、4~5メートルの高さがあり、傾斜も少々きつい。私が先に登って上からロープをおろし、「怖かったらこれ摑んでいいぞ」と声をかける。真ん中に1本ハーケンが打ち込んであり、それに足をかけて登ってこいと指示すると、ロープも摑まずに娘は簡単に登り切った。
わずか2時間ほどで沢を登り切り、藪(やぶ)のなかの踏み跡をつたって登山道に出た。あまりに陳腐で書きたくない感想なのだが、正直に子供の成長の早さに驚かされたのだった。どうやら去年と逆で、今年の沢はちょっと簡単すぎてしまったようだ。3年前は登れなかったのに、今回はコースタイムをうわまわるスピードで終わってしまったのである。
「また行こうな」と声をかけると「まあ、来年ね」との返事。よーし言ったな、忘れないぞ。次はどこにするか、じつはもう決めているのだ。


角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)
1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。




















