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Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

新犬3頭

更新日:2025/03/12

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 今年もグリーンランド・シオラパルクに到着し、犬橇(いぬぞり)活動をはじめた。今年はイキウタ(斧)、コンナット(黒)、ペプシの3頭の子犬がチームに新たに加わった。イキウタとコンナットはプーパという雌の子供で、ペプシはミータの子供である。
 プーパは昨年春のエルズミア大旅行の終盤となる5月中旬に発情した。旅の途中のことで興奮する雄たちを管理することができず、イキウタとコンナットの父親がどの犬なのか不明だ。一方、ミータは旅を終えて村にもどってから本格的に発情したため、私がもっとも好ましい遺伝子と考えるボス犬のウーロンとつなぐことができた。なのでペプシの父親はウーロンである。
 犬は交配から2カ月で出産するため、3頭が生まれたのは7月中旬から下旬、私が引き取ったときは生後5カ月からもうすぐ6カ月といったあたりだ。
 村に到着したのが1月17日、20日から子犬の調教訓練をはじめた。最初はプーパと先導犬のレモンの成犬2頭と一緒に、村の生活につかっている1.5メートルほどの小型橇を引く訓練である。
 最初の訓練は、前を行く私について来させること。3頭ともそれなりに人懐っこくてあつかいやすいが、数日前までまったくの赤の他人だったので、いきなりついて来いといってもついてくるものではない。そこでプーパとレモンに協力してもらう。私が前を行き、「アハ(来い)、アハ、アハ」と誘導の合図を出すと成犬2頭は後ろを歩き出すので、子犬たちもそれにつられて一緒についてくる。初日はそうやって橇を引き、私についてくることをおぼえさせて終わりだ。
 物おぼえが早そうなので、次の日はレモン、プーパにくわえてモヒカンの成犬3頭と一緒に4メートルの犬橇用橇につないでおなじことをした。前日同様、しばらく誘導についてくる練習をした後、「デイマ(行け)!」と掛け声をかけて成犬たちを走らせる。子犬たちは最初は混乱し、橇に乗った私のほうについてこようとして引きずられるなどしていたが、尻を鞭でひっぱたくとすぐに前に出て一緒に走ることをおぼえた。
 そして3日目はまったく別の成犬5頭と一緒に対岸のカギャ岬まで往復15キロを走らせた。新しい大人たちと走るのが嬉しいようで隣の犬に絡んではしゃいでいたが、すぐに慣れてもくもくと走ってくれた。帰りは、私がこっそり橇を下りてしばらく走らせたところで呼び戻したり、犬たちだけで走らせて50メートルほど先で止めたり、ちょっと高度な訓練をおこなうこともできた。
 きわめて優秀である。いままでたくさん子犬を育ててきたが、こんなに順調なのははじめてだ。あとは餌をやりまくってもっと身体を大きくするだけ。2カ月後の本番の長旅では十分な戦力となって活躍してくれそうだ。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

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