読み物
危険木処理~高枝ノコギリ編
更新日:2025/02/12
家の裏山の倒木処理が終わったのはいいが、それ以上に厄介なのは、倒木がひっかかっていた立木の処理だった。急傾斜地のなかのもっとも傾斜のつよいところに、不安定そうに立っている。台風が直撃して暴風や大雨に見舞われたらすぐにでも倒れそうだ。もし倒れたら家への直撃は免れず、おちおち眠れやしない。近々、処理しなければならないのはまちがいなかった。
ただ一人で作業するのは難しそうだった。切断したときに落下しないよう幹の高いところにスリングを巻きつけ、ロープで固定しないといけない。倒木とちがって地面に転がっているわけではなく、スリングを巻きつけるポイントまで登る必要があるのだが、急傾斜で足場が悪く、これがとんでもなく難しいのだ。
以前、クライミングのエイド技術(アブミを使用して登る技術)をつかって試みたが、失敗した。やるなら友人にサポートをお願いしてロープで安全確保してもらわないと無理だろう、とそのときは後回しにしていたのである。
しかし思わぬところで別の方策が見つかった。
倒木処理のときに少し手伝ってくれた隣のおじさんが、この危険木を見て、「前に知り合いが高枝ノコギリを使っているのを見たけど、けっこうズバズバ切れるよ。この木もまずはそれで枝のほうを切断して軽くするのがいいんじゃない。2万円ぐらいするけど、買う?」と助言してくれたのだ。
こんな危険木、業者に作業を依頼したら100万円レベルだろう。2万円でできるならタダみたいなものだ。早速、通販サイトで物色し、定評のある定番の商品を購入。時間があるときに使ってみた。
するとおじさんが言っていたとおり、ズバズバ切れるではないか。まずは試しのつもりだったが、たった2時間でほぼすべての枝を切り落とすことができた。枝の重さでバランスが不安定だった危険木は、まるで毛を刈り取られた羊のように、すっかりほっそりして弱々しくなった。これなら当面、倒れることはなさそうだし、幹のちょっと高いところにスリングをあと1カ所巻きつければチェンソーで切断できそうだ。ひとりでも作業できるだろう。
ちょっと安心。のこりは今年、北極から帰ってきたあとにおこなうこととする。

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)
1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。