読み物
岩魚の食べ方
更新日:2024/11/27
昔は釣った岩魚(いわな)は塩焼きにすることが多かった。木の枝でつくった串に塩をふった岩魚を突き刺し、焚火の脇にならべる。塩焼きは旨いものの、串焼きにするととても手間がかかる。魚の重みや焚火の熱で串がひんまがり、何度も並べなおさないといけないからだ。最近は小さな網を持っていくので塩焼きのときもその網をつかう。
油で素揚げにするのもいい。にんにくと塩で味付けすれば、油にも味がうつり、食べるラー油ならぬ食べるにんにく油になる。最後にこれをごはんにぶっかければ最高だ。
しかし、なんだかんだ言って一番楽で旨いのは刺身で、最近はこればっかりだ。野営地に着いて一服したら、魚籠(びく)から岩魚をとりだし、腹を出した後、まな板のうえで三枚におろす。これまで私はナイフか剣鉈(けんなた)で三枚におろしていたが、やはり包丁のほうが作業しやすいので今回の南会津から用意した。のこったアラは大体キノコと一緒に鍋で煮て岩魚汁にする。味付けは何でもいいが、赤味噌とニンニクで味付けしたら味噌ラーメンみたいで旨かった。
爆釣して大量にとれたときは燻製にする。内側に塩をもみこみ、櫓(やぐら)に張った糸につるすか、地面に突き刺した木の枝に直接ぶら下げて煙でいぶす。野外だとどうしても風で煙が安定しないが、2、3日いぶせば十分燻煙され、うまい燻製ができあがる。
角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)
1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。