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Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

箱根彫刻の森美術館

更新日:2024/10/23

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 去年から悪いことばかりがつづいていてウンザリだ。最近起きたなかで最悪なのは××の話で、これはちょっと書くわけにいかないぐらい気持ちが沈んだが、次にウンザリだったのは家族旅行のドタバタで、これにもまいった。
 去年の家族旅行は私のぎっくり腰で中止となり、今年こそしっかり旅行しようと意気込んでいた。最初計画したのは東北旅行。これは装備の支援を受けているアウトドアメーカーの企画が予定されていたため、それに便乗するプランだったが、山形の豪雨災害の影響でイベント自体が中止となり流れてしまった。じゃあどこにするかと家族で相談した結果決まったのが福井県への旅行だった。2歳になる長男が恐竜好きで、福井県立恐竜博物館に展示されている巨大骨格を見せたら、目玉を丸くして「大きーい! すごーい!」と喜ぶこと確実で、その姿を見たかったからである。それに加えて海もきれいなようだし、海の幸も絶対に旨い。
 ところが出発間近になって台風10号が接近してきた。当初の予報では福井直撃ということで、宿からもキャンセル要請が来て、中止となりかけた。宿代も高いし、悪天で行っても面白くない。私と妻のあいだではほぼ中止に傾いた。だが、娘がおいおい泣き出して、自室に閉じこもって慟哭しはじめたのを見て、なんだか不憫になってきた。去年も私の腰痛のせいで中止になったし、台風直撃を覚悟のうえで出発したのだった。
 ……が、思いもよらぬアクシデントが起きて、結局、旅行は中止に追い込まれる。家を出て最初に休憩にたちよったサービスエリアで車のパーキングブレーキが故障して動けなくなったのだ。
 ようやく出発にこぎつけたのに何という不運だ!
 ブレーキはどうあっても解除されない。朝の開店を待って近くの修理工場に問い合わせたが、どの工場も、その故障だとディーラーにもちこまないと無理でしょう、とのこと。しかも不運は重なるもので、その日は静岡県内の正規ディーラーの定休日でどの店も閉まっていて、車はレッカー事業者のところで一日預かるかたちとなり、万事休すとなったのだった。
 任意保険のロードサービスで24時間以内ならレンタカーを使えるということだったので、私たちはそれで帰宅することとなった。せっかく旅行に出たのだからと帰りに箱根の温泉に一泊して、福井旅行の慰めとすることにした。
 踏んだり蹴ったりだったが、唯一の救いがなんとなく立ち寄った箱根彫刻の森美術館が思いのほか面白かったことである。彫刻の森というだけあって、野外に大きな芸術作品が立ち並び、迷路のようなものや、なかには触れることができるのもあるし、子供たちが遊べる作品も少なくない。巨大で迫力満点な作品をバックに写真を撮るだけでも十分に楽しめるし、ピカソ館では人間の原始性をくすぐる真のアートに触れ、子供の感受性も刺激されたようだ。
 翌日は大涌谷で黒たまごを食して、ささやかな今年の夏の旅行は終了となった。
 それにしてもついてない。こんなに災厄つづきだと山や北極で遭難しそうなので、近々、近所の神社をめぐってお祓いでもするかと妻と相談しているところである。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

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