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Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

サバイバル登山に学ぶ

更新日:2024/10/09

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 今年の夏の山行はサバイバル登山家の服部文祥さんたちと一緒に、4人で東北朝日連峰の沢にむかった。
 朝日連峰には八久和川(やくわがわ)という沢登りや渓流釣りの世界では知られた長大な沢(というか川)があり、近くに梵字川(ぼんじがわ)小沢と湯井俣川(ゆいまたがわ)を継続すれば直線的なきれいなラインとなる。三本もの沢を無理なくつなげるラインはそうそうないので、以前から登りたいなぁと考えていたのだが、それを数年前に服部さんに話したところ、彼もまったくおなじことを考えていたようで、じゃあそのうち一緒に登ろうと(口)約束していたのである。
 台風の影響による雨で1日半の停滞があり、それをふくめて登山は9日間となった。豪雪で知られる朝日の沢のとくに源頭はスリッピーな草付き、泥付き斜面が連続し、ゴルジュや滝も多く、思っていたより〝悪かった〟。
 服部さんと山に登るのは約15年ぶりだが、釣りの腕、登攀可能なラインを見つける能力、何より私だったらすぐに回避して藪斜面の高巻きに逃げるような悪い崖を、カモシカのように軽やかに登る姿に、サバイバル登山家の真骨頂を見たような気がする。
 カメラ以外の電化製品はなし。無駄な装備を限界まできりつめ、食料もコメと砂糖と調味料以外は釣った魚と山菜、キノコのみ、という彼独自のサバイバル登山戦略も15年前よりはるかに洗練されており、学ぶところ大の登山であった。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

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