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Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

虫観察

更新日:2024/08/21

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 グリーンランドから日本に帰国し、1カ月近くがたった。息子の旅人は4月に2歳になり、出発前はおぼつかなかった歩行の足取りも、いまではとてもしっかりしたものになった。最近では走るのが楽しいようで、自宅から600メートル先の極楽寺までダッシュを繰り返す。
 シオラパルクの村では毎日スカイプで顔を見ていたため、帰国直後も私が「お父さん」であることをすぐに認識した。5カ月も不在にしていたので半日ぐらいは抱っこをしても緊張していたが、それもすぐに慣れて、2人で散歩に出たり、近所のお宮でお囃子の練習に出ている娘を迎えに行ったりする。
 最近のブームは虫観察だ。毎朝のゴミ出しの際、収集所までの坂道を一緒に歩き、ダンゴムシやアリやテントウムシや蝶を観察する。妻の影響か、帰国直後は虫を見ると「怖い、怖い」と近づきもしなかったが、アリやダンゴムシといったどちらかといえば愛嬌のある小虫の類から親しませるようにするうち、蜂や蜘蛛を見ても怖いとは言わなくなり、かわいい声で「うわー、くも~?」(こんなにはっきり発音できない)とこぼれ落ちそうなほど大きな目を見開き、反応するようになった。
 昨日は私が坂道の脇の草叢(くさむら)を見て何か虫がいないかなぁと探していると、旅人が「これぇ」と高い声をあげた。見るとキラキラと緑色に輝くきれいな玉虫が道路の路面を歩いていた。片側の翅がなくなっており飛べないようで、全然逃げない。
 触ってごらんと手渡したが、玉虫クラスの大きな虫はまだ怖いようで観察するにとどまった。やっぱり男の子なので外で虫遊びに興じる元気な子に育ってほしい。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

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