読み物
犬の毛皮
更新日:2024/06/26
友人のイラングアから犬の毛皮をもらった。2頭分の毛皮があり、ひとつは自分で処理したらしいが、もうひとつは特に必要がなかったのか、私のところに持ってきてくれた。私も特に必要なわけではないが、くれるというのでいただくことにし、時間のあるときに処理をおこなった。
イヌイットの伝統的な毛皮の処理の仕方はミョウバンやタンニンなどで鞣すのではなく、簡単にいえば余分な脂を落として洗って乾燥させ、それを歯で噛んだり、金属の道具でしごいたりして軟らかくする。鞣し剤を入れないのは、北極は寒くて乾燥しているため腐敗しにくいからだろう。ただ柔軟化も鞣しの目的なので、広い意味でこの簡易的な処理法も鞣しだといえる。
犬の毛皮は前に一度処理したことがあるが、やり方を忘れたのでもう一度教わった。まずウロという専用の刃物で裏の肉と脂を落とす。犬の毛皮はエゾ鹿より薄く、何か所か穴をあけてしまった(後で縫えばいい)。つぎに塩を表面に大量にまぶし、バクテリアの活動を抑え、内部にのこった脂を分解させる。塩漬けにして丸1日放置したら、キリウタという取っ手のついた金属のプレートでごりごりしごき、内部の脂をこそぎ落とす。この作業が重要なようで、脂をしっかり落とさないと毛皮の持ちが悪くなる。最後に洗剤で洗浄し、合板に張りつけるなどして数日間乾燥させる。
結果はものの見事に失敗。塩漬けが不十分だったのか、端のほうの毛が抜けてしまう。ただ中央の毛は大丈夫なので、フードや袖回りのファーには使えそうだ。
角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)
1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。