Nonfiction

読み物

Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

ナウヤの氷河

更新日:2024/06/12

  • Twitter
  • Facebook
  • Line

 シオラパルクに来て2カ月間は犬の訓練期間だ。夏の間に身体はすっかりなまっているので、最初は10キロ圏内の近場を往復することからはじめる。徐々に距離を延ばしてゆき、身体ができてきたらブレーキをかけたり、重りをのせたりして負荷を増やす。1カ月たったあたりから50キロほどの遠乗りをはじめ、氷河の登高訓練をはじめる。
 氷河は慣れないと登らない。最初の年にイキナの氷河に連れて行ったときは、取りつき地点の傾斜を前に犬たちはまったく前に進もうとせず、弱ってしまった。それ以来、かならず氷河登りに慣れさせてから旅に出ることにしている。
 3年目まではイキナの氷河を登るか、村から7キロほど離れたヒオガッハーという場所の斜面を登っていたが、イキナ氷河は急なところが多いし、ヒオガッハーの斜面は50メートルぐらいしかなく、訓練の場所としては物足りない。だが4年目に、村から12キロ離れたナウヤの氷河がよさそうだと気づき、登ってみると、傾斜も距離も適度で、いまでは絶好の訓練地となっている。
 2月下旬に立て続けに2回登った。橇に岩や緊急用のテント、寝袋等々、150キロほど積んでいるが、犬は気にせずぐんぐん登ってゆく。標高差で750メートルほど登ると氷床手前の最後の急登となり、その手前で下りてくる。
 いまの犬たちは子犬の頃から旅に駆り出され、毎年のように重い橇を引いて氷河を登っているので、訓練しなくても慣れている。昔のように氷河に尻込みする犬に呆然とし、大声で煽るようなことはもうなくなった。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

  • オーパ! 完全復刻版
  • 『約束の地』(上・下) バラク・オバマ
  • マイ・ストーリー
  • 集英社創業90周年記念企画 ART GALLERY テーマで見る世界の名画(全10巻)

特設ページ

  • オーパ! 完全復刻版
  • 『約束の地』(上・下) バラク・オバマ
  • マイ・ストーリー
  • 集英社創業90周年記念企画 ART GALLERY テーマで見る世界の名画(全10巻)

本ホームページに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
(c)SHUEISHA Inc. All rights reserved.