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Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

湾奥の氷河

更新日:2024/05/22

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 シオラパルクの湾の奥地には二つの氷河がある。ひとつは村から15キロほど先にあるイキナ氷河で内陸氷床に出るルートになっている。そしてさらに10キロほど奥に行ったところに、より大きな氷河がある。この氷河は、地図にはVerhoeff氷河と表記されているが、これはおそらく昔の探検時代に西洋人がつけた名前で、地元のイヌイットが何と呼んでいるのかといえば、よくわからない。質問しても「ナルホイヤ(わからない)」としか言わない。村からそこそこ距離があるし、氷舌(ひょうぜつ)は段差になっており取り付き不能、クレバスだらけでルートにもならないため、誰もこんなところに行かないからだろう。
 シーズン中、一度か二度、この氷河に行くことがある。村から湾内の沿岸沿いをぐるっと回ると55キロほどになり、犬の遠距離訓練にちょうどいいからだ。
 2月中旬の極夜が明けた直後にここまで行ったが、ちょうど月が氷河の上部にかかり幻想的な光景が広がっていた。極夜明けのこの時期は空の色合いが微妙に薄暗く、氷の青みが際立って美しくなり、まるで地球ではないどこかの惑星にでもいるような気持ちになる。しかしここはまぎれもなく地球なのだ。地球はこうまで美しいのかと実感できる季節なのである。
 常時、氷河から風が吹き下ろす場所だが、この日はそれもなく、気温も氷点下20度ほどと、この時期にしては暖かい。犬橇日和だった。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

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