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Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

今年のさようなら

更新日:2023/10/11

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 犬橇の長期旅行からシオラパルクの村にもどるのは、いつも五月中下旬だ。それからアッパリアスを捕獲し、キビヤを作って帰国の途につく。
 その際に困るのはシオラパルクから隣り町カナックへの移動である。
 シオラパルク―カナック間は週に二便ヘリコプターが飛ぶが、有視界飛行を義務づけられているため少し天気が悪いだけで欠航となり、まったくあてにならない。ヘリを逃すとカナックから先の飛行機に乗れず、帰国が遅れるだけでなくチケットの再手配が必要となり非常に面倒くさい。
 ということで、最近はヘリではなく地元の友人に金を払って送ってもらうことが多いのだが、これが物価高のあおりでヘリの何倍も費用がかさむ。ヘリは約二万円ほどだが、地元民に頼むと六万円ほどかかる。ヘリでカナックに行き、ホテルに泊まるのを考えたらとんとんだが、頭が痛いのはまちがいない。
 それでも去年はまだよかった。カナックまでの海氷が生きており犬橇で送ってもらえたからだ。だが今年は途中の岬までの海氷が完全に流出してしまっており、海と陸をつないでいかないといけない。
 まず村の友人イラングアに犬橇を出してもらって五キロほど離れたイッドゥルアッホという場所に行く。そこに皆、狩猟のためのボートを係留しているので、そこから船にのり、カナックとの中間地点にあたるインナンミウの岬に行く。インナンミウから先はまだ海氷が張っており、犬橇かスノーモービルで移動しないといけない。両方とも価格は同程度。今回は速く移動したいのでカナックの猟師にスノーモービルを手配した。ボートとスノーモービルで四千クローネもかかった。たった五十キロの移動で八万円の出費だ。円安が直撃する。
 イッドゥルアッホで犬橇からボートに乗りかえると、たまたま猟に来ていた村人二人も一緒に乗り込んだ。途中で海豹(あざらし)か海象(セイウチ)がいたら狩りをするつもりだったのだろうが、残念ながら獲物は見つからず、インナンミウに到着。岬の定着氷にカナックの猟師が待っており、手を振った。
 村の友人とはここでお別れ。また来年、彼らに会うのが楽しみだが、その前に経済の好転、すなわち賃金(=原稿料)上昇と円高を強くのぞむ。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

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