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イルリサットで足止め
更新日:2023/03/08
今年のグリーンランド出発は一月二十一日。成田空港で家族とわかれてアムステルダム経由でコペンハーゲンにむかう。ウクライナ戦争の影響で欧州航路は南回りとなりやたら時間がかかると聞いていたが、最近、変更があったのか、カムチャッカから北極海を抜けるルートだったため前とほとんど変わらぬ飛行時間で到着した。途中、グリーンランドの、しかもシオラパルク上空を通過し、「ここで降りたいんですが」と思わず声をかけたくなった。
コロナ前と同様、コペンハーゲンの飛行場で夜をあかし、翌日、グリーンランドへ。今年はコロナ規制が完全撤廃されているので途中で待機する必要がない。一気にシオラパルクへむかうつもりだったが、中継地であるイルリサットで予定外の足止めをくらった。エア・グリーンランドの職員いわく、機体が故障したので出発は四日後ですとのこと。しかも、次の経由地であるカナックからシオラパルクへのヘリは一週間後になるという。これにはがっくりきた。
一週間も途中の町でやることなどない。すぐにシオラパルクの友人に相談し、カナックからシオラパルクのスノーモービルを手配してもらった。飛行機の二倍の料金だが、カナックで四日間ぶらぶらするよりはましだ。これで飛行機が飛べば、土曜のうちにシオラパルクへ行ける目途はたった。
とはいえイルリサットの待機期間がなくなるわけではない。腰痛対策の体操や、原稿書きや、読書をしたりして時間をつぶす。そして、ようやく明日出発という日になって、今度はカナックからシオラパルクのヘリも明日飛ばしてくれるとの連絡がきた。ありがたいのだが、今度はスノーモービルを出してくれることになったカナックの猟師に断りの電話をいれないといけない。向こうは四万円のバイトが不意になるので、かなり不満そうだった。
グリーンランドの交通事情は本当にあてにならない。勘弁してもらいたい。
角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)
1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。