読み物
稲村ヶ崎
更新日:2023/01/25
巡礼という意味で最近一番よく通うのがこの稲村ヶ崎である。稲村ヶ崎は鎌倉の沿岸の岬で、江の島と富士山を一望できる観光名所だ。
娘が幼児だった頃も一緒に自転車で来て海岸で遊ばせたが、最近また来るようになったのは、四月に生まれた息子を連れて散歩をするためである。極楽寺の自宅から徒歩で十五分ほど。ベビーカーを押して家族四人でとぼとぼ歩くにはちょうどいい。冬は富士山が絶景、近くのセブン‐イレブンでアイスも立ち食いできるので、小学三年になった娘も誘えばついてくる。
この日はややかすんでいたが、空気の澄んだ日であれば、稲村から見る冬の富士山は本当にきれいだ。頂きにいだく雪と、岸に打ちあがる白波、そして空と海の青が作るコントラストがじつにさわやかだ。また秋から初冬にかけての夕方、江の島までランニングするときに西日をうけて赤く染まった富士山を見ることがあるが、その美しさは壮絶なものがある。ただ、決まってランニング中でカメラを持っていたためしがない。写真がないのが惜しまれる。
角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)
1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。